旅立ち(その8)
わたしはアボット老と別れたあと、広場から海事ギルドに向かっていた。海事ギルドの場所は、ヒラルダの塔から確認済みだ。
セビリアの街はカテドラル(大聖堂)とアルカサル(王城)を中心に構成されている。どこの街でも同じだが、中心部に近づくほど身分の高いものが住んでいるか重要度の高い施設になっている。
海事ギルドの場所は、広場から港に向かった商業地区にあり、その場所は海事ギルドがそこそこの影響力を持っていることを物語っている。
そうしているうちに海事ギルドの建物に着いた。さすが軍人や傭兵が集まる場所だけに、女性はわたしだけしかいない。少し不安になりながらも、海事ギルドの門を叩いた。
リディア:「こんにちわ~」
おそるおそる建物の中に入ると、そこには1人の兵士がいた。いかにも場違いなわたしに、兵士は話しかけてきた。
兵士:「なにか用事かな、お譲ちゃん?」
リディア:「海事ギルドに登録しに着たんですが、受付はここですか?」
兵士は少し驚いたようにわたしを見つめると、部屋の奥を指差した。
兵士:「ギルドへの登録は奥にいるギルドマスターに言ってくれ。」
わたしは兵士に礼を言うと、奥に向かった。
部屋の奥は一段高い作りになっており、左のカウンター机にギルドマスターが座っていた。
うつむきながらに書類を書いていたギルドマスターは、わたしが近づくと気配を察したのかゆっくりと顔を上げた。室内にもかかわらず、兜と胸甲冑を着けた姿はいかにも軍人といったところだろうか。左目のアイパッチがさらに軍人姿をこれでもかっ!てな感じに強調している。
リディア:「すみません。海事ギルドに登録したいんですが・・・・」
わたしはおそるおそる、ギルドマスターに話しかけた。
旅立ち(その7)
ヒラルダの塔を見た後は、礼拝堂を通り中庭を抜けて「容赦の門」から外に出た。
リディア:「ありがとうございました。」
カテドラル(大聖堂)前の広場に出ると、リディアは老人に礼を言った。
老人:「いやいや、騙したお詫びに案内したんじゃ、礼なんかいらんよ。おまけに暇つぶしにもなったしの。そそういえば、まだ名前を聞いておらんかったのう。お譲ちゃんの名前はなんて言うんだい?」
リディア:「リディア、リディア・ブリアレオスです。」
老人:「リデイアか、いい名前だ。」
リディア:「おじいさんの名前は?」
老人:「わしか、わしの名前はアボットじゃよ。船大工のアボットと言えば、この街じゃ有名なんじゃぞ」
アボット老はそう言いながら、すっかり白くなった口髭を自慢げにしごいていた。
リディア:「私は海事ギルドに行かないといけないので、これで失礼します。アボットさんの案内、とっても楽しかったです」
アボット老:「わしの方こそ、若いもんとデートできて楽しかったよ。」
アボット老はそう言うと、リディアに冗談めかしたようにウィンクした。
リディア:「デート?Σ(´Д`lll)」
アボット老:「まあなんだ、船を買う機会があったら声をかけておくれ。造船所の親方はわしの弟子じゃから、安く買い叩いてやるぞ。」
アボット老はそう言うと、リディアに杖を持っていないほうの手を差し出した。
リディア:「また、会えますか?」
リディアもアボット老に手を差し出しながら答えた。
アボット老:「造船所かサンタ・クルス街でアボットと言えば誰かが教えてくれるさ」
二人は握手を交わし、リデイアは海事ギルドに向かうためカテドラルを後にした。
旅立ち(その6)
ヒラルダの塔はセビリアの象徴だ。塔の高さは106.6ヤード(約97.5m)。元はモスクの塔で、12世紀末イスラム教徒のアルモアド族により建設された。
その後、セビりアがレコンキスタにより奪還されると、カテドラル(大聖堂)の一部として改築された。鐘楼はイスラム様式からプラテレスコ様式に変えられ、取り付けられた28の鐘は、セビリアっ子に美しい音色で時を知らしている。
老人:「(;´Д`)ハァハァ」
息が上がり気味の老人に、リディアは心配そうに問いかけた。
リディア:「大丈夫ですか?」
老人:「若いころは、なんなく登れたんじゃがな」
リディア:「少し休みましょう、まだ先があるようですし」
塔の内部を覗くようにしてリディアは言った。老人は床に腰を落とし、ひと休みし始めた。
リディアが塔に興味を示した為、老人が案内してくれることになったのだ。
塔の内部は階段ではなく緩いスロープになっており、塔のの内壁に沿って登れる仕組みになっていた。老人いわく、わがままな王様が馬で登れるようにスロープにしてあるそうだ。
リディア:「あとどのぐらい登るのかな~」
リディアは老人の隣に座りながら呟いた。塔の中は蒸し暑く、塔に登るなんて軽率な思い付きを悔やんでいた。
老人:「あと、6つのスロープを登れば鐘楼に着くよ」
老人は吹き出る汗を手ぬぐいで拭いながら、何気に答えた。
リディア:「どうして解るんですか?」
老人:「あれじゃよ、あれ」
老人が指差した先の壁には「28」の文字があった。
老人:「この塔のスロープには数字がうってあって、34のスロープを登りきるとそこがゴールじゃ」
一息ついたのか老人は立ち上がると、またスロープを登り始めた。
「34」のスロープを登りきると、ようやく鐘楼にたどり着いた。鐘楼には海からの風が吹いており、汗ばんだ肌を乾かしてくれる。
リディア:「すごーいっ!こんな高いとこに来たのは初めてっ!」
塔からの眺めは絶景で、リディアは手摺から身を乗り出すように鐘楼からの風景を堪能した。
無邪気に喜ぶリディアを横目に、老人も外の景色に視線を移す。そこからはセビリアの街が一望できた。
リディア:「街の人々がまるでアリのようだわ('∀')ヒヒヒ」
老人:「Σ(´Д`lll)」
旅立ち(その5)
ふくれるリディアに老人は誤るように言った。
老人:「悪かったよ、お譲ちゃん。お詫びにこのカテドラル(大聖堂)を案内してあげよう」
老人は杖でカテドラルを指しながら、付いてくる様に合図した。
まあ、観光には案内人がいてもいいわね、ギルドへの届出は今日中にすればいいんだから。
そんなリディアの心を読んだように、老人は案内を始めた。
老人:「この正面にあるのがパロスの門じゃ。こうやって目の前に立つと、この壮大さに圧倒されるじゃろ」
リディア:「ロンドンのセント・ポール寺院も大きいけど、ここも呆れるほど大きいわ。イングランドの大聖堂より幅が広い気がするけど、これがイスパニア風なのかしら?」
老人:「ギクッΣ(´Д`lll) じ、じつはこのカテドラルは、もともとイスラムのモスクだったんじゃ」
リディア:「えーっ!じゃあ、モスクをリホームしただけなの?」
老人:「リホームって言うなっヽ(`Д´)ノ 改築ですよっ!か・い・ち・くっ!我らが、フェルナンド3世様がセルビアを解放した後に100年もかけて作りなおしたんじゃ」
老人が子供のように顔を真っ赤にし反論するので、リディアはとりなすように言った。
リディア:「そ、そうですよね。あのとっても高い塔なんて、とてもイスラムの技術では造れないですよね~」
老人:「いや、あれもモスクのナミレット(天辺がスライムみたいな塔)のリホーム(*´∀`)ノ 」
しーん
夏の昼下がり、蝉が生命を謳歌するように鳴く中でカテドラルだけが静寂に包まれていた。
旅立ち(その4)
老人:「お譲ちゃんは、この大聖堂がそんなにめずらしいかい?」
リディアが振り向くと、そこに1人の老人がたたずんでいた。年のころは70歳ぐらいだろうか、ゆったりとした丈長の衣服をまとい、年相応に曲がった腰を支えるように杖をついていた。そのいかにも好々爺といった老人はリディアに話しかけてきた。
老人:「あんた、船乗りじゃろ」
リディア:「なんで解ったんですか(゚Д゚≡゚Д゚)?」
リディアが不思議そうに老人に問いかけると、老人はリディアのおでこを指差して
老人:「そこに『私は船乗りですと』書いてあるぞ」
と言った。
リディア:「えっ!ホントですか(゚Д゚;)」
慌てておでこを隠したリディアに老人は大笑いした。
老人:「はっはつはっ!嘘じゃよ、ウソ。この町は港町じゃからの、よそ者はだいたい船乗りじゃ。だいたい、地元の者はカテドラル(大聖堂)など見飽きているから、じっくり見てる奴はだいたいよそ者さ」
リディア:「騙すなんて、酷いじゃないですかヽ(`Д´)ノ」
旅立ち(その3)
セビリアはイベリア半島の南西部に位置するアンダルシア地方の都市である。天然の良港をもち、イスパニアの中心都市にもなっている。コロンブスがイザベラ女王の助力を得て、インドを目指して出発したのもこの港だ。当然、新大陸発見後は、西インド貿易の中心地になっている。
1248年にフェルナンド3世率いるカスティーリャ王国がセビリアを占領するまでは、イスラム教徒とキリスト教徒による奇妙な共存が800年にもわたり続いていた。そのためかセビリアはイスラムとキリストの文化を色濃く受け継いでいる。
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リディアはカテドラル(大聖堂)に向かっていた。本当はギルドに行き航海者としての登録を済ませなければならないのだが、この町に慣れるためにも何かと見てまわることも悪くないと思った。
リディアはまずこの町のシンボルであるカテドラルに向かった。
リディア:「遠くから見るとそんなに大きく思えなかったけど、近くで見るとすごく大きいわΣ(゜□゜)」
目の前にそびえ立つカテドラルはロンドンで見慣れているような教会ではなく、どことなくエキゾチックな雰囲気をかもし出していた。
老人:「お譲ちゃんは、この大聖堂がそんなにめずらしいかい?」
首が痛くななりそうなほどカテドラルを見上げていたリディアに近くの老人が話しかけてきた。
旅立ち(その2)
セビリアでの手続きは、ほとんどレッドおじさんがやってくれた。各ギルドへの挨拶や船員と物資の手配、そして船の準備まで。なんだかんだあわただしく3日が経ち、全ての手続きが終わった。
セビリアはイスパニア最大の港であり、その埠頭には多くの船が停泊している。レッドブックの船は東側の埠頭に停泊していた。彼の船は商人が良く使用する商用キャラックで、船体と帆は彼の名前を示すように赤く染められていた。
この3日間でロンドンから運んできた毛織物や羊毛などは降ろされ、あらたに購入したワインや皮革製品が積まれていた。しかし、イングランド商人であるレッドブックは多くを仕入れることが出来なかったのか、浅い喫水線がそれを物語っていた。
埠頭の役人と打ち合わせていたレッドブックが戻ってきてリディアに話しかけた。
レッドブック:「最近はイングランドとイスパニアの仲が悪いのか、イングランド商人に対する出航手続きが厳しくていかん。」
そう、ため息混じりに愚痴ったかと思うと、レッドブックは青い装丁の本をリディアに手渡した。
レッドブック:「この本は私が始めて航海に出るときに、祖父からもらったものだ。これから海で生きようと思う者になら必ず役に立つ本だよ」
リディアは手に取った本の表紙を見てみると、そこには「測量術入門書」と書かれていた。
リディア:「ありがとう、レッドおじさん。」
嬉しそうに本を両手で抱えるリディアにレッドブックは微笑みかける。その後ろから、船員の呼び声が聞こえた。
船員:「船長ーっ!出港準備が調いやしたぜーっ!」
レッドブック:「もう行かなければ、何かあればいつでもロンドンへ戻っておいで。お前はうちの娘でもあるんだからね」
そう言うと、レッドブックは目に涙をためながら船に向かった。
リディア:「はい、おじさま」
リディアはレッドブックの背中に返事した。
レッドブックが乗り込み、しばらくすると船に帆が張られた。南からの潮風に帆をふくらませながら、ゆっくりと船が埠頭から動き出した。
レッドブック:「リディアーっ!体には気をつけるんだよーっ!生水は飲んじゃダメだぞーっ!」
後甲板から身を乗り出すように叫んでいるレッドブックはもはや耐えかねたのか、大泣きしながら叫んでいた。
その姿にリディアは船が見えなくなるまで手を振り続けた。
私は1人じゃない・・・・この思いがリディアの心を熱くした。
船が見えなくなってから、リディアは町へと向かった。
旅立ち(その1)
ロンドンを出発してからすでに1ヶ月、ようやくセビリアにたどり着くことが出来た。
途中、経由港ヒホンに着いた時には、この地に戻ってきたとの思いがつよかった。かつてこの港からロンドンへ向かったときのことは忘れられない。謀反人の家族として追われるように出航したのは10年前、あの時私はまだ6歳だった。
すべてを理解することも出来ず、すべてを受け入れることも出来ず・・・・ただ逃げることで生きてきた。
レッドブック:「やっと着いたようだね。途中、嵐もなく良かったよ」
甲板にたたずむリディアに、船長のレッドブックが声をかけた。ビア樽のような体に似合わず、レッドブックは軽やかに甲板に上がりリディアに微笑みかけた。
リディア:「ええ、レッドおじさま。やっとこの地に戻ってくることが出来ましたわ」
レッドブック:「本当に行ってしまうのかい?」
レッドブックはこの航海中、幾度も繰り返していた言葉を発した。でも返事は分かっていた、リディアの意思が変わらないことも。しかし、レッドブックは問わずにはいられなかった。
あの日からもう10年。幼いリディアを抱え、嵐のビスケー湾に乗り出した時からこの時が来るのは分かっていた。幼かった親友の娘は立派に育ち、彼の手から巣立とうとしている。
リディア:「私もブリアレオス家の人間です。父の汚名を晴らせるのは私だけですから・・・・・」
思いつめたようなリディアの表情を見ると、レッドブックはそれ以上何も言えなかった。


