夜の病院は静かだ。
夜の9時を回ると消灯時間になるので、一斉に電気は消されテレビも消してくださいねと促される。
僕はどちらかといえば深夜族なので夜中の2時くらいまでは普通に起きてる人間だが、病院では許されない。
お前らは病人なんだからとっとと寝てろということらしい。静かに寝てることを強要される。
ここは大部屋でカーテンで仕切られた4つのベッドがあるのだが、市内でも大きい病院なので回転率も高く、隣で寝てる人の顔も知らないこともままある。トイレなどにいく時にチラッと見かけるくらいだ。
僕の斜め前に大男が入院している。
その人がトイレにいく時にカーテンの隙間からチラッと見えたのだ。
おそらくサイズがないのであろう、この病院で支給されるアメニティの寝巻きとは違うカラシ色の寝巻きを着ていて身長は190cmくらいある。
トイレの正面には洗面所があるのだが、僕がそこで歯を磨いているとその男が暖簾の下をくぐるように首を縮めて入ってきた。
洗面台は3つあり入り口付近に僕、その男は奥の洗面台にいった。
初めてだが チラッと横目で顔を見た。
落ち武者のような髪型をしていた。
艶のないただ伸びてしまったといった感じの長髪が肩くらいまである。
怖っ、僕は直感的にそう思ったが向こうはそんな僕を気にもとめない感じでコップに水を入れていた。
飲むのかな、飲み水用の水は他にちゃんとあるのだがそんなことを気にしない人間なのかもしれない。
そんなことを思っていたら男は水を入れて出て行った。
頭のてっぺんがどうなっていたのかは見えなかった。落ち武者のようにハゲていたかどうかは分からない。
このフロアの患者は車椅子や歩行困難の患者が多い。僕もその一人だ。
なので大抵は看護師さんが車椅子を押してたり、歩ける人でも歩行器を使ったり点滴棒と一緒に歩いているのでみんなゆっくりだ。
看護師さんも速く歩いて患者さんにぶつかって転倒させてしまってはいけないので気をつけて歩いている。
夜中 僕がトイレから部屋へ戻ろうとした時、向こうから髪を振り乱した大男の影がこちらへと向かってくる。昼間の大男だ。
大男は他の患者と違い脚に問題はないらしい、スタスタと大股で向かってくる姿はまるで進撃の巨人である。このままいったら食べられるかもしれない。
僕は恐怖を感じながらその場に留まった。
やばい、ドンドン近づいてくる、しかし振り向いて逃げるのはもう無理だ。
やばい、やばいと下を向いているとその大男はズシンズシンと僕の横を通り過ぎていった。
助かったぁ、僕は恐怖から解放されると震える脚でベッドに向かった。
食べられなくて良かった、
なんでやねん そんな訳あるか!と自分にツッコミを入れながらもしばらく眠れなかった。