『 細 い 小 枝 ( 続 続 ・ 石 の 花 ) 』



前回までのお話し  「細い小枝 1」  「細い小枝 2」  「細い小枝 3」
「細い小枝 4」  「細い小枝 5」  「細い小枝 6」





 それからもミーチャは、鉱滓と蛇紋石から、

色んな物を作り上げました。

そして家計を随分と助けたのです。

商人たちは、ミーチャの仕事を見逃しません。

この蛇紋石や鉱石から作った品物にも、

高価な宝石と同じ値を付けて、支払ってくれるのです。

お客も直ぐにミーチャの仕事に目を止め、買い求めます。

他の職人や親方の物とは、出来が全く違うのです。

それでミーチャは、木の実や草の実をドンドン作りました。

ミザクラも、さくらんぼも、熟したスグリも作りました。

しかし、あの美しい女性の手からもらった石で作り上げた、

最初のスグリの小枝だけは売らずに、

ずっと手元に残しておいたのです。

ある女性にあげたいと思ったからです。

しかし、その女性にあげる勇気がどうしても出ませんでした。



 村の娘たちは、ミーチャの仕事部屋の窓の下から、

離れようとしません。

ミーチャは、背中が曲がってはいても、

明るく話し好きで、知恵のある若者ですし、

何よりも、やっている仕事は興味深く、

それに何より、ミーチャは気前が良く、

首飾りにする玉を、時々、くれたりするからなのです。

それで娘たちは、何かと言うとミーチャの近くに来るのです。

そんな娘たちの中でも、1人だけ、

ミーチャの気を引こうと、笑いかけて来たり、

綺麗なおさげの髪を揺すったりする娘がいました。

ミーチャも、この娘が気になっており、

この娘に、あの最初に作った小枝を贈りたかったのですが、



(もし僕が、あの娘さんに小枝をあげたりしたら、

 彼女は、みんなの笑い者になったりしないだろうか?

 もしかしたら、あの娘さんを笑い者にするために、、

 僕がわざと小枝をあげたって思いやしないだろうか?)



と、先を考え、不安でたまらなくなってしまうのです。



 ところで話は変わりますが、

ダニーロ一家の生活を滅茶苦茶にした、

あの領主の旦那は、まだこの世に生き長らえています。

肥り過ぎている為に、いつもハアハアと、

荒く臭い息を撒き散らかしながら、生きていました。

その年、旦那は娘を、とある貴族に嫁がせると決め、

その持参金の仕度に、大慌てをしていたのです。

この「くさはら村」の管理人は、そのチャンスを捕えて、

旦那のご機嫌取りをしようと試みたのです。

この管理人は、ミーチャが鉱滓から作り、

そのまま売らずに置いてある、あの小枝を見た事があり、

その宝石的な価値の事も、理解していたのです。

自分の手下どもを呼びだすと、



『いいか、何としてもミーチャから、

 あの小枝を貰って来るんだ。

 もしもミーチャの奴が、よこさない時には、

 力ずくでも、必ず奪ってこい!』



と、命じたのです。



 やがてやってきた管理人の手下どもによって、

ミーチャの小枝は持って行かれてしまいました。

管理人は、小枝を受け取ると、

それを立派なビロードで作られた小箱にしまい込みました。

そして旦那が「くさはら村」に再びやって来た時に、



『どうぞこれを、お嬢様の結婚祝いにお納めくださいまし。

 花嫁に、ピッタリの品でございますよ。』



と、差し出したのです。



 旦那はその小枝を見ると、それをたいそう褒め称えました。

それから、



『これはどんな宝石で作ったんだね?

 宝石には、いくらかかったんだ?』



と尋ねて来たのです。

それを聞いた管理人は、



『それが驚くことに、その辺にいくらでも転がっている、

 蛇紋石と鉱滓で、出来ているのでございますよ。』



と、申し出たのです。

それを聞いた旦那は、



『なんだと!

 お前、今、何と言ったんだ!

 わしの娘に、鉱滓(かなくそ)をよこしたのか!!』



と、怒りだしてしまったのです。



 管理人は、これはまずい事になったと思い、

全てをこの小枝を作った職人のせいにしようと



『これは、ならず者の職人が、私によこして、

 散々、素晴らしい物だと持ち上げて行ったのですよ。

 そうじゃなければ、こんな物を持ってくるような事、

 この私が、いたすわけないじゃありませんか。』



と、言いつけたのです。



~本日は、これにて~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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