『 アッシリアの王、アッサルハードンの伝説 』
前回のお話し 「アッシリア王アッサルハードンの伝説 1」
アッサルハードン王は、ベッドから起き上がると、
老人が指で示した、水盤の方へ歩いて行きました。
『王よ、着物をぬぎ、水盤の中へ入りなさい。』
アッサルハードン王は、老人に命じられた通り、
着物を脱ぎ、水盤の中へ、足を入れました。
『では、わしがお前にこの水をかけ始めたら・・・』
と、老人は、手に持ったコップで水をすくいながら、
『頭ごと、水盤の中に浸り、潜るのだ。』
と、言いました。
老人は、ゆっくりとコップの中の水を
王の頭にかけました。
それと同時に、王は、水盤の水の中へ浸かりました。
アッサルハードン王は、水に浸かるや否や、
自分がもうアッサルハードンでは無く、
別の人間であることを感じ始めたのです。
そして、自分をこの別の人間として感じながらも、
彼は豪華なベッドの上に、
美しい女と並んで寝ている、自分の姿を見たのです。
彼は、その女を一度も見たことがありません。
しかしそれが自分の妻であることは、何故か知っていました。
その女は身を起こして、ベッドに寝ている彼に言いました。
『わたくしの貴い夫、ライーリエ王。
あなたは、昨日の労働に疲れて、
その為に、いつもより長くお休みになりましたが、
わたくしがあなたの平和な時間をお守りして、
お起しいたしませんでした。
しかし今は、公爵たちが大広間で王を待っております。
どうか服を召されて、彼らの前へお出ましくださいませ。』
アッサルハードンは、これらの言葉から、
自分がライーリエであることを理解したのです。
しかし、その事には、全く驚きはしませんでしたが、
今まで、自分がライーリエであったという事を
知らなかった、気付きもしなかった事に驚いてしまいました。
驚きながらも、起き上がり、服を纏い、
公爵たちが待っている、大広間へと向かいました。
公爵たちは、地に頭がつくほどの最敬礼で
彼らの王、ライーリエを迎えました。
それから公爵たちは立ちあがると、
王に指図された通りに、王の前に腰を下ろしました。
それから豪族たちの中の最長老が
王に、上奏を始めたのです。
最長老をはじめ、他の豪族たちは、
悪王、アッサルハードンによる、
数々の侮辱には、もうこれ以上耐えられないと訴えたのです。
そしてアッサルハードンを打ち取るべく、
軍をおこし、立ち向かうべきだとも訴えました。
しかしこれを聞いて、ライーリエは、
公爵たちの意見には同意しませんでした。
アッサルハードンの元へ、悪行を諌めるために、
大使を送ると決めたのです。
そしてライーリエ王は、豪族たちを下がらせたのです。
その後すぐ、ライーリエ王は、
そこに居た幾人かの重臣たちを大使に任命し、
彼らに、悪王アッサルハードンに伝えなければならぬ口上を、
事こまかに検討し、言い含めたのです。
この仕事を終えると、彼(アッサルハードン)は、
自分がライーリエだと感じ続けたまま、
野生のロバを狩りに、馬に乗り山地へと赴いたのです。
狩猟は、大成功でした。
彼自身も、2頭のロバを仕止める事が出来ました。
家に帰ると、友達を集めて、
奴隷女たちの踊りを見ながら酒宴を催したのです。
翌日、いつもの通り彼は、
請願者、被告、原告たちの待ち受けている広場へ出て、
彼に提出された事件を決裁し続けました。
その仕事を終えると、彼はまた狩りへと出かけたのです。
この日も彼は、自分の手で、
年寄りの牝ライオンを仕止め、
その2匹の子供のライオンを捕獲することに成功しました。
狩りの後で、彼はまた親しい友達と、
音楽や踊りを楽しみながら酒宴を催し、
そして夜は、愛する妻との時間を大切に過ごしたのです。
こうして彼は、以前の自分自身であるアッサルハードン王の元へ、
派遣した大使一行の帰りを待ちながら、
日々を送り、暮らしていました。
大使たちは、やっと一か月後に戻ってきました。
しかし可哀想なことに、
全員、鼻を削がれ、耳を切られて帰って来たのです。
~本日は、これにて~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
おしまいっ。