『 悪 魔 の 業 は 美 し く 、 神 の 御 業 は 固 い 』



前回のお話し  「悪魔の業は美しく、神の御業は固い1」




 その時、アレープは、

共に賭けをした、他の召使い達に目配せをしました。



『さあ、今から、主人を怒らせて見せるからな!』



召使いたちは、全員がそこに集まって、

戸口や垣根越しに、様子を見ることにしました。

なんとそこには、あの例の悪魔までもが、

木の上に登って、中庭を見下ろしながら、

手先となったアレープが、自分にどんな忠誠を尽くすかと、

ニヤニヤしながら眺めていたのでした。



 優しい主人は、庭の中を歩き回り、客人たちに、

牝の羊や子供の羊を見せた上で、

自分が飼っている中で、

1番良い、牡の子羊を見せようと思いついたのです。



『他の牡の羊も、良いのが沢山居るのですがね、

 ほら、あそこにいる、角の曲った、ほれ、あの1頭が、

 あれは、値が付けられない程の良種なのですよ。

 私にとって、あの牡の子羊は、何よりも大切な宝ですよ。』



 羊たちは、牡も牝も、そこに居る人間から逃げ回り、

庭中を飛び回ってしまうために、

客たちは、どれがその高価な牡の子羊か

見分ける事が出来ませんでした。

やっとその肝心な、牡の子羊が立ち止りそうになると、

例の悪魔の手先であるアレープが、

何気なく、全ての羊たちを驚かせるために、

直ぐに又、大勢の羊の中に混ざり合ってしまうのでした。

その為に客たちは、どれが高価な牡の子羊か、

やはり見分ける事が、やはり出来ませんでした。



 とうとう主人は、羊たちに うんざりしてしまったのです。

そこで主人は、



『あ、アレープ、ご苦労だが、

 あの一番大切な角の曲った子供の牡羊を、

 そっと捕まえて、しばらく押さえていてはくれないか?』



と、言ったのです。

するとアレープは、主人がそれを言うよりも早く、

まるでライオンの様に、羊の群れの中へ躍り込むと

高価な牡の小羊の、ふさふさとした毛を引っ掴みました。

そして、わざと主人に見せつけながら、

小羊の左脚を掴み、それを上に捻ったのです。

可愛そうに、小羊の脚は、

まるで小枝の様に、ぽきりと折れてしいました。

子羊は痛さで、めいめい啼きだしました。

そしてアレープは羊を乱暴に放りだすと、

小羊は、前脚の膝をついて、倒れ込んだのです。

さらにアレープは、右後ろ脚を持って、

小羊をぶら下げました。

すると小羊の左脚は、

変な方向にダラリと曲って、ぶら下がっているだけです。

客も主人も、あ! っと声をあげました。



 アレープが、余りに見事に悪魔の任務を遂行したので、

それを見ていた悪魔は、ゲラゲラと大喜びを始めました。



 それとは逆に、主人の顔色は、真っ青になりました。

眉をひそめて、頭を垂れ、

その後、一言も声を発する事が出来ませんでした。

客たちも、他の召使い達も驚き、

そこは、ひっそりと静まり返ってしまいました。



 一同は、次に何が起こるのかを静かに見守りました。



 主人は、暫く黙っておりましたが、

やがて、その身から何かを振るい落とすかのように、

大きく身震いをして、顔をあげ、天を仰ぎました。

少しの間、そうしていると、眉間のしわも消え、

主人は、ニッコリすると共に、

目をアレープの上へ移しました。

そして主人は、アレープを見てニッコリすると、



『おお、アレープ、アレープ、

 お前の主人は、お前に、わしを怒らせろと命令したのだね。

 だが、わしの主人は、お前の主人よりもずっと強いぞ。

 お前は、わしを怒らせることは、出来なかったが、

 わしはお前の主人を怒らせることができるぞ。

 それを今、見せてやろう。

 お前は、わしに罰を喰わされるのを怖がって、

 自由になりたいと願っていた。

 なあ、アレープよ、良いかね、

 わしはお前に、罰など与えやしないよ。

 それどころか、お前は前から自由になりたがっていた。

 だから、わしは、今、お客様方の目の前で、

 お前を自由にしてあげるとしよう。

 お前は、お前の、祭り用の大切な晴れ着を持って、

 どこへでも、自由に行くがよい。』



そう優しく大きな声で、告げたのでした。



 こう言って、善良な主人は、

客たちと一緒に、家の中へ入って行きました。

それを見ていた悪魔は、歯ぎしりをして悔しがり、

木の上から転げ落ちると、

地底へと、逃げ去って行ったのでした。



「悪魔の業は美しく、神の御業は固い」 おしまい




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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