聴くこと、書くこと
節目にしか書かないこのブログ。2021年の後半は自分の中に新しい動きがありました。それは9月から入会した#selfmediaという自分らしさを大切にした発信を学ぶオンラインサロンの、中松ふうふによる「ストーリーインタビューandライティング講座」を受講したこと。まさか誰かにインタビューして、それを原稿にする日が再びやってこようとは!でも、だからこそ、かつての会社員時代の縛りをなくして、上手く纏めようとも思わずに自由にやってみることにしました。講座で私が学んだのは、その人の立場に立ってみる、寄り添う気持ちを大切に聴いて、その人のストーリーを映写機に映し出すようにかたちにしていくこと。インタビューしたのは夫。林業を仕事にしている夫がどのような過程を経てそこにたどり着くことになったのか、そしていまどのような思いがあるのが知りたかったのでそれをテーマに聴いてみました。*********「木曽路はすべて山の中である」島崎藤村による木曽を舞台にした小説「夜明け前」の有名な一説である。木曽は四方八方山に囲まれた土地で厳しい自然環境にあるが、その分、森林資源が豊富なため、林業や木材産業が栄えた土地でもある。巾高志はその木曽で木工家具を作り、兼業農家を営む家で育った。親と一緒に牛の餌になる草を森に刈りに行ったり、林業を営む親戚もいて、森はずっと身近な存在だった。そうした環境で育ったせいか、将来は自然に関わる仕事がしたいと漠然と思うようになり、大学は生物資源学科に進み、森林生態系を専攻した。森林の調査は面白く、それまで森はだだ「森」として単一にしか見えていなかったが、「あそこに赤松がある、檜がある」というように複数の色をもって見えるようになり、俄然森に興味が沸いてくるようになった。将来は、都市の緑化や森の調査に関わる仕事をしていこうと思うようになって、森林管理と環境緑化を行う企業に就職した。ただ、正直なところ、林業自体には興味はなかった。なぜなら“利益を生む資源”としてではなく、森の生態系そのものに興味があったからだ。大学で行っていたような森の調査ができれば、、という思いで入社した会社で、最初に赴任したのは北海道だった。家族や友人と離れ誰も知らない土地。そこで目にしたのは、広大な森の中で、大型の機械を使って木々を伐採する様子だった。森林破壊とまでは言わなくとも衝撃で、“伐採”自体に良い印象は持てなかった。さらに、仕事場は森でも主な仕事は人をマネジメントしなくてはならない現場監督。想像とのギャップに戸惑いだらけだった。自分が未熟なのにベテランの現場の人たちに指示をしなくてはならない厳しい毎日。段取りの悪さに叱られることも多かった。けれど、現場の人たちは、重機の扱い方、木の倒し方、搬出、たくさんのことを惜しみなく教えてくれた。北海道の厳しくも美しい自然の中で、四季を通して、木を植え、育て、伐採する、を繰り返す林業のサイクルを見ていくうちに、「ああ、林業とはこういう仕事なんだ」と肌で理解するようになり、林業自体に興味のなかった自分の気持ちにも変化が訪れた。大学で学んだ知識が実際の調査に生かせるのも嬉しく、素晴らしい先輩や後輩たちと、「将来、この森はこうしていこう」と真剣に議論したり、現場の人たちと一緒に汗水垂らしながらそれを実行していくことにもやり甲斐を覚えるようになった。林業の仕事をはじめて20年の月日が流れた。その間、北海道だけでなく、三重県を中心とした本州の森の管理をしたり、一時期は現場を離れて東京の本社で働いたこともあった。林業に興味があって就いた仕事ではなかったけれど、今まで林業を辞めようと思ったことは一度もない。日々表情が違い、発見があり、さまざまな生き物たちが暮らす森の中に入るのは面白い。「自然の中で仕事をしたい」それは一環して変わらない思いだ。年を取って体が動かなくなってもずっと森に入っていたい、自然の移り変わりを感じていたいと思う。現在は生まれ育った木曽に戻り、林業の仕事をしている。昔から知っている土地だけに森と里山の荒廃、田畑まで荒れていっている様子がよく分かる。高齢者たちの力でなんとか持ちこたえているこの土地で、我々より上の世代が居なくなったら、一体どうなってしまうのだろうという漠然とした不安があって、自分が暮らしている場所を整えていきたいという思いがある。これはこの木曽に限らず、田舎全般に通ずる問題だ。林業に携わってきた自分が、森と里山とのつながりを意識しながらこれからできることは何なのか。そんな思いが新たに芽生え始めている。*********今回夫にインタビューすることで、知らなかった!そうだったんだ!という発見がありました。身近すぎる存在だからこそ、敢えて聴いたりもせずに日々過ぎていき、分かっていない部分も多かったなぁと。夫自身もあらためて自分の原点を振り返る機会となり、気づくこともあったようです。お互いにとって大事な時間になりました。きっとこの講座を受講しなかったら、おそらく一生なかっただろう夫へのインタビュー&ライティング。そんな貴重な体験をするきっかけを作ってくださった、中松ふうふのお二人に心から感謝です。聴くことも書くことも楽しい、大切なことに気づいて、そして思い出させてもらいました。調子に乗って自分の身近の大切な人にお話を聞いて残していきたい気になっています。この気持ちがどのように形になっていくのかも楽しんでいこうと思います。