この5日間は人生で最も長い5日間だった。
「死」と正面から向き合った。
僕の尊敬する先生に松本義光先生という方がいた。武道家でもあった。
毎回フィットネスセッションで講義を受けただけの間柄だったが、尊敬していたし、いつも凄く楽しみだった。
現在もそこで得た技術や知識は指導に活かされている。
その松本先生も少し前にガンで亡くなられていた。
松本先生はガンでも周囲に気を配り、明るく、穏やかに闘病生活を送り、尊敬すべき最期だったらしい。
その先生の態度を目指そうと思った。
それから極真カラテをやっていた証を残そうと思った。
幼稚園や小学生の頃に憧れた極真カラテ家は、
どんな格闘技にも負けず、どんな事にも心動かず、品行方正、礼儀正しく、常に穏やか。祖父母、両親、兄弟、先生、先輩、目上を敬し、女性に惑わされず、世渡り金儲け能力ゼロ。環境にも優しい人間だ。
そんな人間はいないだろうが、僕は結局弱かったので、どんな事にも心動かずの精神を通じて、
強くなれなかった代わりに、そこを極真カラテをやっていた証として自分に課そうとした。それが自分にとっての極真精神だった。
そう思うと、腹がすわった。勿論不安はあったが、全然違って来た。半分以下になった。
親友や極一部の人間にしか腫瘍の事は言わず、両親や兄弟、義父母には心配を掛けるからと言わなかった。
勿論門下生(クライアントや患者)には言わなかった。
いよいよ腫瘍科の先生に会う日がやって来た。
嫁とMRI写真と紹介状を持って向かった。