なんで、別れなきゃいけないの?

嫌だ、絶対に嫌だ。


スマホの画面越しに、

震えながら待つ既読の文字。


「やっぱり離れた方がいいと思う」

お互いの仕事が終わった後にするライン。


飲み込まれそうになる夜の、

自宅の最寄りの改札前。


そもそも昨晩、

カマかけて君が浮気したことを認めた。

そもそもその前日、

君の友達からクロだって聞いてた。

そもそもその1ヶ月前から

君は家に帰ってこなくなった。


34歳になって結婚も意識してた。

この人とだったら上手くやれるかも、

そんなふうに思ってたけど、

カマかけて知ったのは、

同じ職場の22歳の、最近彼女と別れた人だった。


しばらく付かなかった既読は

「別れた方がいいと思う理由は?」


昨日は僕から別れようとしたけど、

嫌だって止めてきたのは彼女だった。

洗い流してもう一回始めよっか、って。

そう話した翌日のことだった。


僕の予想はこうで、

22歳の彼に、

彼氏に浮気したことがバレたことを報告、

じゃあ付き合おう、

ってその彼に言われたんだろうなって。


昨日の話と一変し過ぎてるから、

そう思うのは自然なこと。


この1ヶ月でジェットコースターみたいに、

浮き沈みがいったりきたり。


既読がついて返ってきたのは、

「やっぱりフェアじゃない気がする」

「色々考えてそう思った」


1日でこんな急激に

なんで変わっちゃったんだろう。


とりあえず拉致があかない。

待つことにしよう。

帰ってくるの。



1ヶ月前から、週4くらいは帰りが遅かった。

今まで帰りが遅くなるなんて、

1ヶ月に1回くらいだったから、

さすがにおかしいと思ったし。


急に夜な夜なマニュキア塗り出したり。


一緒に寝たくないのか、

ベットじゃなくてコタツで寝てたり。


お風呂に入ると、

テーブルの上に置きっぱなしの携帯を

お風呂の洗面所に持ってったり。


とにかく材料は揃いまくってた。


だけどきっと、

僕が別れたくないのは、

この年齢でまた新しく誰かと付き合う、

みたいなことも想像できない。

このままずっと1人なのかな、

みたいな打算的なことも考えてた。



ようやく最寄りに着いた彼女。

いつもなら手を繋ぐから、

繋がない不自然さに戸惑って、

2人で家へ到着する。


「このまま付き合い続けても、

私は幸せじゃない。」

「昨日、全部洗い流してやり直そうって、

そう話したじゃん。」

「わたしは裏切ってしまったけど、

これから疑われたまま、

一緒に居なきゃいけない。

そんなのフェアだと思えない。」


何を話しても別れたがってる。

予想は当たってるんだろうな。


「彼と付き合うことにしたの?」

「ううん。別にそういうんじゃない。

それは関係ないから。そうじゃない。」


嘘つき。

顔見ればわかるよ。

彼に受け入れられたことも。

もう僕への気持ちにケリをつけたことも。


受け入れるしかなかった。

もう終わりなんだ。

同じゲームができて、

同じ音楽が聴けて、

そんな些細なことが全部、

楽しかった思い出しかないから、

頭をうずくめるしかできなかった。


嫌だ。嫌だ嫌だ。嫌だ。

引き際の知らない男なんて格好悪い、

そんなプライドもなくなってくると、

次第に呼吸が速くなってきた。


結局、その日は眠れなかった。


明日彼に会うために眠る彼女。

今日にしがみついて眠れない僕。

同じ家にいる、対極な2人。


いつもは暇な時間、

スマホ開くのに、

その中には彼女との思い出しかないから、

それもできない。


夜って本当に長いんだ。