ある日のこと。
彼は、自分の名前について、なかなか思い出そうとしなかった。
『僕の名前・・・・、名前ね・・・。
長い音のつながりだった、はず。』
微動だにせず、自分の発言に疑問符を落としながら、
彼は思い出す。
『どんな?見当もつかないわ。』
『でも、“僕の名前を呼びたい。”と、言ってくれた君に、
・・・・君に、だけ、教えるね。』
と
はにかんだ。
『う、うん。』息をのむ・・・わたし。
『僕の名前は、“ポート・マット・レッド”っていうよ!
よろしくね!!』
と
彼は、言い切ると
バーバリーの、赤いジャケットコートを、
着なおして、
わたしに握手を求めた。
◇