"Les Miserables" (June 11, 2019) @Queen's Theatre

Jean Valjean: Dean Chisnall

Javert: Bradley Jaden

Fantine: Carley Stenson

Eponine: Elena Skye

Marius: Ben Tyler (understudy)

Cosette: Charlotte Kennedy

Thenardier: Steven Meo

Madame Thenardier: Vivien Parry

Enjolras: Joe Vetch (understudy)

 

映画版を観てからというもの、ずっと憧れ続けてきた本場ウェストエンドの「レ・ミゼラブル」。日本人キャストでも上演はされているけれど、何かが違う。(ファンの皆様、ごめんなさい。)個人的に、ディズニー映画やミュージカルは、歌詞が日本語になった途端に違和感を感じるのと、メッセージ性が変わってしまう気がするので、どうしても本場で観てみたかったんです。というわけで、わりと勢いでロンドン行きの飛行機を予約し、その後観たかった演目すべてを鑑賞するべく、座席を予約しました。

ただ、劇場の改修の影響で、ロンドンオリジナル版の「レミゼ」は来月をもってクローズ。8月にはコンサートが行われ、秋からは新演出版へと移行するらしく、「オリジナル版を観るラストチャンス」ということで、チケットの価格が上がっていたみたいです。1階席はほぼプレミア価格。そんな中発見したのが、1階N列真ん中よりの77ポンドの席。「周りよりお手頃だった」ということと、「1階席なら後方の方が舞台全体を楽しめる」ということでこの席にしました。

するとこれが大正解!Queen's Theatreは、設計上、1階席後方は、2階部分がかぶって舞台上方が見切れるらしいのですが、N列はギリギリ見切れない!そして、1列前がごっそり空いており(おそらく団体客のキャンセル)、視界は良好。偶然ではありますが、最高の環境で鑑賞できました。

 

そしていよいよ開演。最初に言ってしまうと、上演時間の8割方は泣いていました。(笑) 演出、音楽、キャストのレベル全てが最高で、はっきり言って映画版を超える感動でした。特に最近の映画は、技術が発達しすぎて、「あー、これどうせCGでしょ」と冷めてしまうのですが、舞台では当然目の前で繰り広げられる演出によって物語が語られていくので、正に「生」なわけです。そして、この演出がまた上手い!決して写実的なセットが多いわけではないのですが、セットやキャストの動かし方、照明、振り付けによって、本当に映画並みの世界観が生まれているんですよね。バリケードが築かれるシーンでは、客席からどよめきが上がっていましたよ。また、バリケード陥落のシーンでは、本当にスローモーションを観ているかのような振り付けがされていて、感動もののシーンでした。そして、ジャベールの自殺シーン。「セーヌ川に身を投げる」という場面をこのように描くのか、と度肝を抜かれました。

 

キャスト陣のレベルも非常に高く、また個人的に想い描いていた役柄のイメージにぴったりの人が多くて、本当に「その役」に見えてくるんですよね。

まずはヴァルジャンのDean Chisnall。今までは、映画版のヒュー・ジャックマンがベストだったのですが、それを超えたかも。数十年間の時の流れを体現する演技力が見事でした。映画と違って、そのシーンのためだけにダイエットとかはできないわけで…。オープニングの荒んだ囚人のときから、最後には本当に聖人のように生まれ変わるので、まるで別人。そして歌唱力も素晴らしく、初めの「Varjean’s confession」から圧倒され、見せ場の「Bring him home」で号泣。結局、ヴァルジャンの出番はほぼ泣いていました。(笑)

 

そんな彼に負けず劣らず素晴らしかったのが、ジャベール。実は、今回の鑑賞で、最も印象が変わったのがジャベールでした。以前は、「ヴァルジャンを追い詰める無慈悲な悪役」という印象でしたが、今回は「彼も彼なりの正義感を持って行動していて、あくまでもミゼラブルの1人である」と感じました。半ばとりつかれたかのような熱血系のジャベールで、最後の自殺シーンはかなり哀れでした。「Stars」の歌唱も素晴らしくて、実をいうと、一番最初に鳥肌が立ったのはこの曲でした。 Bradley Jaden、めっちゃイケメンでしたし。(いや、そこかい。)

 

作品冒頭のキーパーソンであるファンティーヌ。よく考えたら彼女の出番って20分もないくらいなのですが、強烈な印象を残してくれました。映画版のファンティーヌにはイマイチ感動できなかったのですが、Carley Stensonの役作りを観てその理由が分かりました。アン・ハサウェイ、母親じゃなかった。「I dreamed a dream」の演技力などが絶賛されていましたが、どうもわざとらしいし、母としての強さや母性があまり感じられなかったんですよね。「髪も歯も売って、娼婦にまでなるなんて、ああ私ってなんて可哀そう」という1人の女性としての惨めさはありましたが、ファンティーヌはあくまでも「娘を守るため」に自己犠牲を払ったわけで。その点、今回のCarley Stensonは、どん底まで落ちても、どこか「私が娘を守らなくては」という内に秘めた強さやプライドを持ち続けている印象でした。だからこそ、ヴァルジャンに「コゼットは私が守ってあげる」と言われたときに、その強さが初めて消えて安堵の中亡くなっていく感じ。物語の流れが府に落ちる、納得の役作りでしたよ。

 

そして、個人的に一番のお気に入りキャラであるエポニーヌ。Elena Skye、かなりどんぴしゃなエポニーヌでした。別に容姿がめちゃくちゃ可愛いというわけではないのに(失礼)、一途でいじらしい面がとても可愛らしく、さらに哀れでした。マリウスに、少しじゃれてもらった時の、とても嬉しそうな笑顔が却ってかわいそうで、マリウスの鈍感さに腹が立ったり。(笑) だって、絶対コゼットよりエポニーヌの方が良かった!(所詮、個人の好みですが。)最後、マリウスの腕の中で死んでいくときに、本当に幸せそうで、観客も涙。「On my own」では拍手喝采でしたよ。

 

なんだか、非常に長くなっていますが、最後に素晴らしかったのはテナルディエ夫妻。この2人めちゃくちゃはまり役でした。彼らが出てくるだけで観客大爆笑。とにかく下品で強欲ですが、こういう人っているよね、と思ってしまう。

 

あと、アンサンブルキャストも役に入り込んでいて、1人1人のバックグラウンドが見えてくるかのようでした。特に、パリで貧民たちが歌う「Look Down」の迫力がすごかった。実際、アンサンブルキャストの半数ほどは、メインキャストのカバーで主役級も演じている人たちなので、アンサンブルと言えども、レベルが違います。きちんとミュージカル俳優としての教育と訓練を受けた人たちばかりで上演しているからこそ、このレベルの高い舞台になるんですよね。日本って、よく話題作りのためにタレントやアイドルを起用するのですが、それが逆に舞台全体のレベルを下げている気がします。まあ、こちらでは「作品でチケットが売れる」のに対し、日本は「キャストの人気で売れる」傾向があるので、仕方がないとは思いますが。僕は、日本版は観ていないので、比べられませんが、やはり本場で観て良かったと感じました。

 

ロンドンでは、毎年West End Liveというミュージカルのパフォーマンスイベントがあるのですが、今年の「レミゼ」の分を載せておきます。キャストは、understudyだったマリウスとアンジョルラス以外同じです。(ジャベールがもっとイケメンだった気もするのだけど。)野外ということもあり、音響などは断然劇場の方がいいでしょうが、本場の雰囲気だけでもどうぞ。

 

 

 

 

 

こちらは初演から25周年を記念したコンサートの収録。観劇前の予習にもおすすめ。

ストーリーからきちんと予習したい方には映画版がおすすめ。

 

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