星空の下、満月が静かに哲学の道を照らす。私の足音が夜の静けさに溶け込む。桜並木に優しい影を落とし、運河は穏やかに夜の調和を奏でる。
深い藍色の着物を身にまとう一人の女性が、ベンチに座り月を眺めていた。その瞳は月明かりを映し、彼女の姿はこの世ならざる美しさを放っている。風の囁きと水のせせらぎが、その静かな出会いを包む。
一瞬、私は立ち止まりこの光景に心を奪われた。遠い昔の物語が頭をよぎり、現実と幻想の境界がぼやけていく。そしてふと、「王棋」とその伝説を思い浮かべる。もしかして、この女性は、あの夜の物語の、あの神秘的な存在である駒妖なのかもしれない。
しかし、私はその場を離れて歩き続けた。道は私の前に広がり、光と影の間を縫うように進む。この夜の物語は静かに闇に溶けていった。空と地を繋ぐ一瞬が、時間の流れに残された記憶となり、後にこの道を歩く人々への物語として受け継がれていく。