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Cyber_F の雑記帳

Twitterだと書ききれない話題等を書く予定です。よって更新日は不定期。
ミニ四駆、グランツーリスモ、車なご、ドリスピその他

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はじめに

 「ウマ娘」なる実在の競走馬を擬人化したコンテンツがスマホゲームのリリースを機に脚光を浴びて間もなく5ヶ月が経過するが、レースゲームとモータースポーツ関連を中心にフォローしているTwitterアカウントでもいまだTwitterアプリを開いて2回もスクロールすればゲームのスクリーンショットか二次創作のイラストが目に入る状態になっており、その人気は当分衰えそうにない。

 他方、複数のアカウントから「クルマの擬人化コンテンツは無いのか」といった趣旨のツイートも見られるようになった。実際には存在するのだが、サービス終了からすでに4年半が経過していることもあり存在を知らない人が多く、人気コンテンツとはなり得なかったという判断を下さざるを得ない状況にある。本稿ではなぜ人気コンテンツとはなり得なかったのか、「クルマの擬人化コンテンツ」が市民権を得るにはどのような方策が有効かを議論していくこととする。

 なお、筆者は諸般の事情から「ウマ娘」についてゲームプレイ経験がないことを予めお断りしておく。

 

「擬人化」以前の人気

 まず、「若者のクルマ離れ」といわれるように久しいが、これが「擬人化コンテンツ」の人気に影響を与えていることは無いのだろうか、という疑問が生じる。

  日本国内の競馬を取り仕切っているJRAの資料(PDF)の4ページ目によれば観客動員数は平成8年にピークとなる年間1400万人余りを迎えて以降減少しており、令和元年には600万人少々とピーク時の半分以下に落ち込んでいる。JRAによる別の資料によれば平成8年の競走回数は3435回、令和元年は3452回と観客動員数で下回る後者が若干(約0.5%)ながら多く開催されているから単純に競馬の人気は落ち込んでいたと言ってよいだろう。

 

メディアミックス

 現代の所謂サブカルチャーコンテンツにおいて、複数の媒体でコンテンツを提供する「メディアミックス」という手法はより多くのファンを獲得するという意味で有用である。「ウマ娘」においてもブームの火付け役となったのはゲームであるが、それ以前からアニメの放映やYouTubeでのVTuberのような活動は展開していたし、現在もコミカライズが連載中である。

 自動車の擬人化コンテンツにおいてもコミカライズは存在していたがゲーム公式サイト内であり「ウマ娘」の場合に見られるような外部媒体、あるいは別コンテンツに見られる「自社IPの総合情報誌」等他のコンテンツを閲覧する際に目に触れる場所ではないため、新規ファンの獲得には至らなかったと考えられる。

 

自動車と馬の違い

 では、何故競走馬の擬人化コンテンツは流行し、自動車の擬人化コンテンツはそうならなかったのか。まずは「元ネタ」の個体数に着目する。残念ながら筆者は競馬には明るくないが、競走馬は名前で個体を同定できるようである。すなわち、「ダイワスカーレット」も「ゴールドシップ」も「トウカイテイオー」もこの世に(歴史上も含めて)1個体しか存在しない。しかし自動車は異なる。例えば「スバル・360」は約39万台生産されているし、「ホンダ・S2000」は11万台生産されている。現在も生産が続いている「日産・GT-R」の個体数はこれからも増えるだろう。また、競走馬のように名前から個体が一意に識別できるならば概ねたどるストーリーも決まるが、自動車のように同一の名前を持つ個体数が2000前後でも少ないといわれる場合は当然そのようなことはできない。これについても例を挙げるならば、「三菱・ランサーエボリューションX」はほぼ購入時から手を加えられることなく維持されている個体もあるが、ロールケージ等を組み込まれてWRC(世界ラリー選手権)の一戦に出場した個体もあれば900馬力まで改造された個体も存在する。そのため一意にキャラクターとしてのストーリーを定め、掘り下げていくのは難しいと言っていいだろう。

 ゲームに着目すると、いずれの擬人化コンテンツもゲームの勝敗、具体的には報酬と呼ばれるゲーム内アイテムの分配等は競走、すなわちレースによって決している。農林水産省の資料(PDF)の3ページ目を参考にすると、日本国内で飼育されている馬のうち実に約86%が競走馬である。また、実際に馬を所有する(=馬主になる)ための条件はかなり厳しいことも相まってほとんどの人にとって馬とは「競走しているところを見るもの」となるから「ウオッカ」や「メジロマックイーン」が競走していても違和感はない。しかし自動車はその大半が人やモノを輸送するために供されており、競走に使われるクルマはほんの一握りであるし、その際に使用される車種も限られている。そのため、あまり競走には使用されない「ワゴンR」や「タント」が参加した際に違和感が生じる。

 さらに競馬ゲームはプレイヤーが騎手となって馬を操作するものも少数みられるものの大半は競走馬を育成し、レースについてはただ見守るという形式の物が占めるようである。そのため、馬をそのまま人(型のキャラクター)に置き換えても自然に成り立つ。翻って自動車を題材としたゲームの場合は多くがプレイヤー自ら自動車を操作する形式であり、これは人に置き換えた場合に大きな齟齬が生じる。

 そのため、冒頭に掲げた自動車の擬人化コンテンツのレース部分は「すごろく」となっており、通常のレースゲームに見られる「ブレーキ」はキャラクターへの装備品、「アクセル」はキャラクター固有スキル名にその名を残すものの、直接的に操作に影響するものではなくなっている。結果、既存のレースゲームとしての文脈として捉えることが難しくなり、もともと自動車あるいはレースゲームに興味があった層がゲームを始める際の障壁の一つとなったと考えられる。

 

「クルマの擬人化コンテンツ」が流行するための方策

 以上を踏まえたうえで、「クルマの擬人化コンテンツ」が流行する方策を考えていきたい。

 まず、レースゲームとして製作するのであれば操作する対象はあくまで自動車とし、従来のレースゲームと同じ操作系統としたほうがプレイヤーの移行がスムーズであろう。そうなると擬人化したキャラクターをどのようにゲームにかかわらせるかという点が問題になるが、実際のラリー競技やそれを題材としたゲームで存在するコドライバーとして搭乗させればよいのではないだろうか。

ラリーゲームにおけるコドライバーの例(画像左)

幸い、冒頭で掲げた自動車の擬人化コンテンツは「日本縦断ラリー」を主題としていたため、コドライバーが存在していても不思議ではないだろう。

 そしてあくまで対象の自動車にカスタマイズやチューニングの余地を持たせることでプレイヤー毎に多様なストーリーを表現できるのではないだろうか。

 

カスタマイズ要素のあるゲームの例

 

 チューニング要素のあるゲームの例

 また、ゲームを動作させるマシンのスペックが許すならばオープンワールドとし、クリアに必要なイベントをマップ内に点在させるという方法もある。

マップ上にイベントを点在させたゲームの例

こうすれば目的地までの移動、あるいは目的地を定めずに移動するだけでも謂わば"ドライブデート"として会話イベントを発生させることも可能であろう。

マップ内のドライブ

走行中に台詞が流れることもある(画面下部)

 もちろん、メディアミックス展開も加えたほうが流行にはなりやすいがこれは金銭的なハードルが高くなる。それでも展開するのであればゲーム以外の媒体はプレイヤーが作り上げていくのではなく既に出来上がったストーリーを見せるわけであるから、個体がたどるストーリーを明確にすることができる。この意味ではゲーム化よりもハードルは低いかもしれない。実際に4輪ではなく2輪ではあるもののそれに近しいストーリーの作品がアニメ化され話題になったことも追記しておく。

 

結言

 以上、クルマの擬人化コンテンツが流行らなかった理由と流行らせるために考えられる方策を現在流行のウマ娘およびその他のコンテンツとの比較を交えながら論じてきた。この文章が今後の議論の一助になれば幸いである。

 なお、文章中で取り上げた作品および資料は当該部分にハイパーリンクとして示してあるので適宜参照されたい。