孫さんは1980年から81年の頃、起業にあたって、1年半をかけて40種類の事業プランを考えます。そして25の判断基準や戦略コンセプトを用意して、プランを比較検討し、一つの事業で起業することに決めました。その中でも事業選択に強い影響を与えた判断基準は次の5つの漢字です。「一」「流」「攻」「守」「群」なかでも一番重要な項目は冒頭の「一」です。その意味は次の通りです。「一番になれないことは初めからやらない」孫さんは二番は敗者である、一番でなければ意味がない、という戦略思想をお持ちなのです。次の4項目は「これから自分が生涯をかけて取り組むにふさわしく成長するのか、流れに乗れるのか(「流」)、起業時点では弱者であり、弱者の戦略は先に差別化を仕掛ける攻めの戦略である(「攻」)、業界一番になったら強者の戦略でその地位を守る(「守」)、そして一つの事業領域の中に次々と一番になれる事業を群れのように立ち上げていく(「群」)」というものです。そうなったら各一番事業は相乗効果をあげて支配力を高めていくだろうから、孫さんはこの判断基準を「孫の二乗の法則」と名づけました。実はこの5項目こそがランチェスター戦略の考え方そのものです。ランチェスター戦略の原点であるランチェスター法則は別名「n二乗法則」と呼ばれており、それを孫さん流に応用したことからも二乗の法則と言っているのです。こうして孫さんはパソコンソフトの卸売業で起業します。後にインターネット財閥ナンバーワンとなるソフトバンクグループの起業戦略のエッセンスです。孫さんの起業戦略に私たちが学ぶべきは、一つ目には何をなすべきなのか、自分自身で判断基準を持つこと。孫さんは「孫子の兵法」と「ランチェスター戦略」に学び、それを自分流に応用しました。二つ目は、起業時点では誰もが0からのスタートなので「弱者」であること。起業前にどこに勤めていて、実績や人脈がどうの、という強者意識こそ起業の成功を損なうものなのです。そして三つ目が将来「一番」になれることで起業すべき、ということです。本誌でこれから解説していくランチェスター戦略の結論も、ナンバーワン主義です。