【半分、青い。】-再上京編④-


イメージ 1雨が降る学校の玄関で、傘を持っていない鈴愛が雨が止むのを待つ。そこに、律が「ほい」と傘を渡し、自分はカバンを頭に乗っけて去っていく。
 
 第1話冒頭、『半分、青い。』は高校生の2人をプロローグに、鈴愛と律による“胎児ナレーション”という、朝ドラの概念を根底から覆すような演出や怒涛の展開に、“朝ドラらしくない朝ドラ”という声を受け、そのまま半年間を疾走し続けた。最終週「幸せになりたい!」で描かれたのは、2011年311日以降、東日本大震災が起きた後の世界。仙台の海が見える病院に勤めていた看護師の裕子の死を、鈴愛をはじめとした皆が乗り越えていく。
 
 『半分、青い。』は、絶望と希望を描いたドラマだと思う。人生とは眩しい光ばかりだけでなく、その裏には醜く、誰にも見せたくない影もある。鈴愛が漫画家という夢に奮闘する「秋風編」では制作の裏にある苦悩を、「百円ショップ編」では託した夢、愛が憎悪に変わる瞬間が描かれた。そして、廉子、仙吉、和子、裕子と一貫して描き続けられてきたのが人の死だ。人は誰でも大事な人の死にいつか直面する。身構えていても、それは突然とやってくるものだ。和子を亡くした弥一は「いつまでたっても悲しい。悲しみを乗り越えたわけではなくて、悲しみとともに生きている」「死んでしまった人たちがいなくなったわけやない。ここにおる」と鈴愛に話した。今となれば、廉子によるナレーションがずっと一緒に物語とあったのも、思いは残りここに居続けるということを、そっと示していたのかもしれない。
イメージ 3「生と死の狭間に生きている」。少しずつ言葉は違えど、この考え方は町医者の貴美香、生前に裕子が鈴愛に伝えた言葉と、たくさんの生死を見届けてきた2人の間でリンクしている。そして、裕子は1つの夢を、親友を超えた特別な存在の鈴愛に託した。「鈴愛生きろ! 私の分まで生きてくれ! そして、何かを成し遂げてくれ!」。ボクテを含め、3人で切磋琢磨した秋風塾、涼次に託した叶えられなかった夢。秋風が鈴愛と律に書いた手紙には「どんなにひどい今日からだって、夢見ることはできます」とあるが、鈴愛が律とともに立ち上げた「スパロウリズム」、そよ風ファン改め「マザー」はみんなの夢だ。裕子が大好きでいつも歌っていた「ユー・メイ・ドリーム」というタイトルにも、思いの塊のように彼女の思いが生きているはずです。
 
イメージ 4そして鈴愛と律の関係性にも、ついに決着がつく。「私、律の前ではずっと変わらないでいられるんだ」(鈴愛)、「俺の生まれた意味はそれなんで。あいつを守るためなんで」(律)。それぞれ親友の正人の前では素直になれるのだが、一歩踏み出せなかった。鈴愛が裕子の死を受け止め、マザーが完成した2011年7月7日。2人の41歳の誕生日でもあるこの日に、鈴愛は短冊に「リツのそばにいられますように」と書いた。過去に、鈴愛が書いた短冊は「リツがロボットを発明しますように!!」であり、その思いは“マグマ大使の笛”のように、律の支えになっていた。けれど、もうマグマ大使の笛はいらない。律の願い事は、「鈴愛を幸せにできますように」。人の気持ちに受け身の律が、一歩踏み出した瞬間だった。
鈴愛の「律は幸せの天才だ」というセリフは、律を肯定する言葉の1つにあった。律が誕生日プレゼントとして鈴愛に渡す「雨の音がきれいに聞こえる傘」は、左耳が聞こえない鈴愛が幼い頃に、律に冗談半分で言った約束でもあり、第1話冒頭の律が鈴愛に傘を渡すシーンともリンクしている。「左側に降る雨の音は聞こえなくて、右側だけ雨が降ってるみたい」と“左側の世界”を生きる鈴愛に、律は“雨のメロディ”という知らない幸せをくれる。鈴愛と律が見つけた、1つの幸せの形だ。
 イメージ 2 『半分、青い。』には、青空が印象的に描かれていた。第1話の冒頭、雨上がりに鈴愛が見上げる虹のかかった青空、「東京・胸騒ぎ編」ラストに鈴愛とボクテとユーコが引越しのトラックに乗り見上げる青空、「人生・怒涛編」ラストで涼次に別れを告げ鈴愛が見上げる“空の青の青さ”、震災が起こる直前、青いきれいな蝶々が空に飛び立つシーン、最後に律の作った傘の下、鈴愛、晴、花野が天気雨で雨のメロディを聴く中での一面の青空、そして、星野源さんの「アイデア」のイントロとともに映し出されるタイトルバックにも青空がいつもあった。絶望と希望は表裏一体だ。それでも昨日を越えて、明日を生きていかなければならない。『半分、青い。』は、どんなときでも私たちの空には“青空”があること、そして希望を持って生きていくことができることを伝えてくれました。