その時私は市役所前のデパートで眼鏡の検眼をしてもらい、30分ほどで新調出来ると言われたのでお茶でもしようと外に出たところだった。
目の前の市役所からけたたましくサイレンが鳴り響き、防災放送のアナウンスが流れる。
「只今、大地震警報が発令されました…」
ついに来たかと思いつつ足下を見るとどこかに潜んでいたらしいドブネズミが慌ただしく道路脇の植え込みを走り回る。
ビルの側では割れたガラスが落下して危険だ、ちょうどバイクに乗って来ていたのですぐにヘルメットをかぶりエンジンをかけて手で押しながら道路に出た。
申し合わせたように通行中の車はみな停車している、慌てて動くよりじっとしてすぐ逃げられるようにする方が安全だ。
私はバイクを道路の真ん中電柱から離れた場所に停め、跨がったまま揺れを待った。
信号機や電柱が弓なりに揺れる、関東は日常的に地震が起きるがかなり震度が高そうだ。(神奈川は震度5弱)
幸い大きな被害はなく揺れも数分で収まった。(津波注意報はあったが幸い干潮時で影響は無かった)
しかしデパートはエレベーターもエスカレーターも停止してそのまま閉店、何はともあれ食料と日用品の確保と思い近くのショッピングモールに行ったがここも閉店中。
幸いモール内の飲食店がまだ空いてたので次いつ食事にありつけるか分からないからと腹をくくってたっぷり食べる。
家の近所の雑貨屋で新しい靴を買って帰宅、この頃にはメールも送信出来ず電話も不通状態でわずかにテレビとインターネットのみアクセス可能だった。
「サイマルラジオ」のサイトにアクセスする、これは防災放送を目的としたローカルラジオ局のネットワークで全国各地のラジオがパソコンやスマホで聴ける。
被災の如何に係わらず各地で道路や建物の被害状況や緊急避難所情報をアナウンスしている。
津波警報は2000km離れた石垣島でも発令され、ここでも高台への避難を呼びかけていた。
日頃懇意にしていたラジオ局に被災状況を伝えたいと思ったが伝達手段がない、どこか繋がるとこはないかとあちこちかけるうち前述の石垣島だけが繋がった。
旅行した時にスタジオで迎えてくれた女性パーソナリティが電話に出たので被災状況を伝えたらただ絶句するばかり。
そして何よりハニーに無事な事を伝えたいのだが。
そういえばいつも彼女が聴いてる十勝のラジオ局もこのネットワークに入ってるのを思い出した。
FAX回線は何とか通じるのがわかったので被災状況と自分が無事であることをメモ書きして送信し放送を依頼することにした。(十勝にも津波が押し寄せ、港に被害が出ていた)
地震警報と余震は夜になっても止まない、津波警報が来てもすぐ逃げられるように乾パンとミネラルウォーター、当座の着替えとタオルに洗面用具をリュックに詰め、バイクは玄関先に置いてドアはチェーンをかけたまま少し開けて固定。
電気をつけ服を着て新しい靴を履いたまま寝ることにした。
避難先はおおよそ見当をつけてある、まず少し離れた大山街道、そこも危険なら殿山から寺尾・堤方面。
バイクなら道路が渋滞しても何とかなる。
これらの防災対策は常日頃地域で様々な形で知らされた事を忠実に実行したものだ。
幸いにしてこれ以上の被害はなかったが。
