
『イースタン・プロミス』(2007)
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
主演:ヴィゴ・モーテンセン、ナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセル
本作は前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005)に引き続き、ヴィゴ・モーテンセンを主演に迎えた作品。
主演が同じヴィゴ・モーテンセンという共通点の他に、「暴力」や「血(血液や血縁)」というテーマでつながっており、また、共通するシチュエーションとして、「犯罪を犯したこともないような善良な一般市民がふいに暴力の世界に足を踏み入れてしまう」というところが挙げられる。
これはある意味、一番の現実的な怖さである。
しかしこの足を踏み入れてしまう怖さとは、クローネンバーグ作品全体のテーマであるアンダーグラウンドへの好奇心、監督本人の言葉を借りれば、「密閉された下位文化」への好奇心の裏返しのようにも思える。
ところでクローネンバーグといえば、『ヴィデオドローム』(1982)や『ザ・フライ』(1986)、『裸のランチ』(1991)等の、日本でいうところのエログロナンセンス的な作品のイメージが強いがこの作品にはそのような要素はほとんどみられない(表面上では)。
奇怪なオブジェだったりグロテスクなクリーチャーはいっさい姿を現さない。
この作品はヴィゴ・モーテンセン演じる、素性の知れぬニコライのように、「視えない」ことの方が圧倒的に多いのだ。
それが映画に深みを与え、且つ不気味さも与えているように思える。
なんていうかこの作品を初めて観たとき、かつてクローネンバーグは自身の作品について「額にドリルで穴を開けたと想像してみてください。僕の作品は、見た夢がプロジェクターのように、その穴から直接スクリーンに映されているようなものです。」と語ったそうだがそれらのクローネンバーグ的世界観はどこかに消えてなくなってしまったのではなく、表向きには視えなくなったけど画面に、そして土壌に、しみ込んでいったかのような印象を持った。
この作品を観てますますクローネンバーグの新作が待ち遠しくなりました。
最後に、この作品の登場人物を演じる俳優達は圧倒的な存在感を放つヴィゴ・モーテンセンをはじめ、ナオミ・ワッツなど皆、この人しかいないと必然性があっての人選だそうですが、ナオミ・ワッツの叔父役であるイエジー・スコリモフスキ(新作『エッセンシャル・キリング』が東京国際映画祭で流れましたね。)もまた、クローネンバーグが起用を熱望していたそうです。
一説によるとその背景には彼がロンドンに移住して撮った最初の作品である『不法労働』(1982)が東ヨーロッパとの不法な人材流通の話であり、まさにイースタン・プロミスでつながるってわけですが果たして。