導火線ignishock!! ~心に火を点けろ~

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歩いてきた道には意味が詰まってる。

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これまで「イチロー引退絡みの記事」にて記述したとおり、イチローの引退会見を観て感じた事はひとつの記事にまとめきれるものではない為、数回に分けて書き留める。
今回はイチロー関係の最終稿「引退会見のハイライト」について。

先回の記事で多少触れたが、今回のイチロー引退会見の質疑応答の中で、失態を演じた質問者が何人かいた一方でなかなか良い質問もあった。


──これまで数多くの決断と戦ってきたと思うが、今までで一番考えぬいて決断したものは? By 日本スポーツ企画出版社・新井裕貴
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これは順番を付けられないですね。それぞれが一番だと思います。

ただ、アメリカでプレーするために、今とは違う形のポスティングシステムだったんですけど、自分の思いだけでは叶わないので、当然球団からの了承がないと行けないんですね。

その時に、誰をこちら側、こちら側っていうと敵・味方みたいでおかしいんですけど。
球団にいる誰かを口説かないといけない、説得しないといけない。


その時に一番に思い浮かんだのが、仰木監督ですね。


その何年か前からアメリカでプレーしたいという思いは伝えていたこともあったんですけど、仰木監督だったらおいしいご飯でお酒を飲ませたら、飲ませたらっていうのはあえて飲ましたらと言ってますけど、これはうまくいくんじゃないかと思ったら、まんまとうまくいって。


これがなかったら何も始まらなかったので。口説く相手に仰木監督を選んだのは大きかったなと思いますね。


また、ダメだダメだとおっしゃっていたものが、お酒でこんなに変わるんだと思って。お酒の力をまざまざと見ましたし。


やっぱり洒落た人だったなと思いますね。仰木監督から学んだもの・・・は計り知れないと思います。

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この新井裕貴という人は、この質問の直後に「悪い質問」もしてしまっているのが玉に瑕なのだが、これは良い質問だった。

イチローは「順番はつけられない」と言いながらも、メジャーリーグ移籍の際のエピソードを紹介している。


普通こういった場合、結局それが一番印象的な出来事だった・・・と解釈されるものだろうが、おそらく今回はそう解釈すべきではない。

今回の会見で、イチローが記者から受けた質問は37件(独自にカウント)にのぼるが、この質問は21件目。
会見もかなり長引いてきたところだった。
普通に考えればそろそろ会見も終わる・・・。

そうなる前に、
自分がメジャーリーグへ移籍する為の大きな助力をしてくれた故・仰木監督について、感謝の意を示したかったのではないだろうか。
しかもそれを単なる美談にはせず、仰木監督の人柄になぞらえて洒落た話にして・・・。

真偽のほどはもちろん定かではないが、
もしその機会をイチローに与えたのだとしたら・・・?
そういった意味でも、この質問は良い質問といえるのではないだろうか。


──イチロー選手が貫いたものとは。 By サンスポ ミワ(?)
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野球のことを愛したことだと思います。
これは変わることはなかったですね。
おかしなこと言ってます、僕? 大丈夫?(会場笑)

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質問を聞いた直後、イチローはじーっと考えていた。
ある意味で意外である。
これだけこだわりを持って野球をやってきた人物なのだ。
訊かれて即答できるだけのこだわりの技術やスタンスなど当然ある筈である。
ところが、イチローはその場で考え込み、答えを探しだしたのだ。

そして出てきた回答が「愛」。
新鮮である。

プロとしての・・・というよりは、おそらくは少年時代までのキャリアを遡っての答え。


もしこの質問を現役時代にされていたら同じ回答にはならなかったのではないだろうか。


引退した今だからこそ、心の中にずっとあった筈のそんな感情が顕わになる。
そう思うとなんとも美しい。

イチローが「おかしなこと言ってます、僕? 大丈夫?」とおちゃらけた事から察するに、おそらくは質問した記者の反応がいまいちだったのではないかと思う。


つまり質問者が意図した回答ではなかったのだろう。
その意味では残念だが、結果としてこれまでに無かったイチローの側面を引き出した良い質問だったといえるだろう。


──イチロー選手の生き様でファンの方に伝わっていたらうれしいということはありますか。 By フジテレビ・生野陽子
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生き様というのは僕にはよくわからないですけど、生き方と考えれば、さきほどもお話しましたけれども、人より頑張ることなんてとてもできないんですよね。

あくまで秤は自分の中にある。
それで自分なりにその秤を使いながら、自分の限界を見ながらちょっと超えていくということを繰り返していく。


そうすると、いつの間にかこんな自分になっているんだという状態になって。

だから少しずつの積み重ねが、それでしか自分を超えていけないと思うんですよね。


一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、それは続けられないと僕は考えているので。


地道に進むしかない。進むというか、進むだけではないですね。後退もしながら、あるときは後退しかしない時期もあると思うので。


でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。

でも、それが正解とは限らないわけですよね。間違ったことを続けてしまっていることもあるんですけど。


でも、そうやって遠回りをすることでしか本当の自分に出会えないというか、そんな気がしているので。


そうやって自分なりに重ねてきたことを、今日のゲーム後のファンの方の気持ちですよね。

ひょっとしたらそんなところを見ていただいていたのかなと。
それはうれしかったです。そうであればうれしいし、そうじゃなくてもうれしいです。あれは。

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この質問は、例えるなら、料理評論家がシェフにレシピを訊いてしまったようなものである。
正直に言って俺は、これを聞いた瞬間は無粋な質問だと感じた。
「そこを汲み取るのがメディアの仕事じゃないの?」と。

しかし・・・いざイチローが話し出してみると、彼の中からこれほどにストレートなファンへの気持ち、メッセージが発せられた。
しかも、そのメッセージはまさにスーパスターならではのもの。

その事に驚いたし、今回の引退会見の中でもハイライトに数えられるべきシーンを生み出したわけだから、これは本当に良い質問だったわけだ。
うーむ、生野アナ・・・お見それいたしました。


一方で、質問自体は良かったのに、なんとも滑稽な事態を生み出した質問もあった。
以下がそれである。

──3月の終盤に引退を決めたのは、打席内の感覚の変化というのはありましたか。 By 朝日新聞・ 遠田寛生
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いる? それここで。
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──ぜひ。
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裏で話すわ。裏で(会場笑)。
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イチローに回答を拒否されてしまっているので、一見すると悪い質問に見えるかもしれないが、コアな野球ファンであれば、イチローがこれまで「衰え」を認めた事が無いというのは既知の事実である。
しかし、「衰え」を認めぬままの引退という幕引き。


そのあたりの感覚がどうであったのかというのは、少なくとも俺にとっては非常に気になる案件であったし、コアな野球ファンであれば同様のはずだ。

しかしイチローはその回答を拒否した。


それは彼がこれまで貫いてきた「わからない人(記者)に言ってもしょうがないでしょ?」というメディアに対する姿勢なのだ。

「裏で話すわ。」というイチローの言葉で会場は笑っているが、アホか!と言いたい。


貴方たちメディアのアホな取材の歴史が、「インタビュー時に答える相手を選ぶという大選手」を生み出してしまっている上、その引退会見の場においてすら質問者本人以外には伝える価値が無いと突っぱねられているのに何を笑うのか?


メディアに属する人間は、業界全体の心をひとつにして恥じ入るべき場面。
そこで笑った人達は、今すぐ記者の職を辞する事を勧めたい。


──1番我慢したものは。 By 日本テレビ 辻岡義堂
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難しい質問だなあ。僕、我慢できない人なんですよ。
楽なこと、楽なことを重ねているという感じなんですよね。


自分ができることを、やりたいことを重ねているので我慢の感覚がないんですけど、とにかく体を動かしたくてしょうがないので、こんなに動かしちゃダメだっていうことで、体を動かすことを我慢するというのはたくさんはありました。


それ以外はストレスがないように行動してきたつもりなので。

家では妻が料理をいろいろ考えて作ってくれますけど、ロードは何でもいいわけですよね。


むちゃくちゃですよ。ロードの食生活なんて。結局我慢できないからそうなっちゃうんですけど、そんな感じなんです。


今聞かれたような主旨の我慢は、思い当たらないですね。おかしなこと言ってます、僕?

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圧巻である。
まさか「体のマネジメント上の理由から鍛錬する事を我慢する。」という回答とは思いもよらなかった。
本当に畏れ入った。

今回の引退会見で様々なメッセージを発したイチロー。
その言葉の多くは、子供たちのみならず、大人たちの今後の生き方にも大いに教訓になりうるものばかりだった。
その意味で、「天才と言われるイチローほどに、そもそも我々は努力してきただろうか・・・もっと頑張らねば。」と思った人は数多い事だろうと思う。 


それはつまり、俺を含め多くの人にとって、努力とは我慢を伴うものだという事を暗に示している。

しかし、イチローにとってはそうではなかった。
「努力する事を我慢する事が大切」というのは、修羅の世界の境地と言っても過言ではないだろう。

この質問も今回の会見のハイライトに数えられるべきシーンを生み出した良質問であった。


そして、引退会見のトリを飾ったこの質問も、やはり上げないわけにはいかないだろう。

──昨年、マリナーズに戻りましたけれども、その前のマリナーズ時代、「孤独を感じながらプレーをしている」と話していましたけど、その孤独感はずっと感じながらプレーしていたんでしょうか。それとも、前の孤独感とは違ったものがあったのでしょうか。 By フルカウント キザキ
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現在はそれはまったくないです。今日の段階でまったくないです。

それとは少し違うかもしれないですけど、アメリカに来て、メジャーリーグに来て・・・・
外国人になったこと、アメリカでは僕は外国人ですから。


このことは・・・・、外国人になったことで人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れたんですよね。


この体験というのは、本を読んだり、情報を取ることができたとしても、体験しないと自分の中からは生まれないので。

孤独を感じて苦しんだこと、多々ありました。

ありましたけど、その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと今は思います。


だから、つらいこと、しんどいことから逃げたいというのは当然のことなんですけど、でもエネルギーのある元気のある時にそれに立ち向かっていく、そのことはすごく人として重要なことではないかと感じています。

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修羅の世界にいたイチロー。
選手としては超一流という言葉すら生ぬるい、まさに破格のスーパースターだった。
だが、それゆえの孤独によるものか、全盛期の彼はどこか狭量な子供っぽさも持ち合わせていたように俺は思う。

しかし、スーパースターは歩みを止めてはいなかった。
数々の体験が彼の心を成長させていたのだ・・・。

なんとも素晴らしい話である。
さらには「つらいこと、しんどいことから逃げたいというのは当然のことなんですけど、でもエネルギーのある元気のある時にそれに立ち向かっていく、そのことはすごく人として重要なことではないかと感じています。」という締めも、まさに完璧である。

酸いも甘いも嗅ぎ分けた大人でなければ話す事はできない内容・・・
なのだが、ここから面白くなってしまうところが、イチローが「破格」たるゆえんだろう。

見事心の成長をも果たしたスーパースターだが、なんと実は子供っぽさは全然変わっていなかったのだ!

上記の回答後、突如悦に入るイチロー。

 

 

自らのイメージする引退会見はこうあるべきという美学に基づき、それをアドリブでやりきった事に満足したのに違いない。
おそらく話しきった瞬間、彼の頭の中に「カットぉ!オッケーです!」とでも聴こえたのだろう。
なんとも満足げに、悪戯っぽい表情を浮かべ、

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お腹すいた。締まったね、最後。
・・・いやあ、長い時間ありがとうございました。
眠いでしょう、みなさんも。
じゃあ、そろそろ帰りますか。ね?

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と、一気に終わらせたのだ。
もともとこの質問で最後というアナウンスがあった上での展開ではあるが、あまりにも面白い。

会場からの万雷の拍手。
1時間24分もの長丁場。
回答し続けてくれた労苦をねぎらっての拍手だったろうが、おそらくイチローの感じ方は違っていた筈だ。

嬉しそうに笑顔をこぼし、「ありがとうございましたー。」と深々とお辞儀するその姿は、
初めてのピアノ発表会を上々の演奏でやり遂げた少年少女のようであった。

この拍手は、見事な締めくくりを演じた自分に対しての称賛の拍手だと思っていたに違いない。
でもなければ、こんなに嬉しそうな顔をしないものだ。

 


それにしてもこんな笑顔で現役を去る・・・
こんな引退会見がこれまでにあっただろうか?

2000年11月19日、米国への移籍が決まり行われた入団会見で、マリナーズの背番号51を着たイチローは、初めてユニフォームに袖を通した野球少年のような笑顔でそこにいた。


あれから18年4か月・・・破格のスーパースターとなった少年は、あの時と同じような笑顔を浮かべながらステージを降りていった。
まるで今日が始まりの日であるかのように・・・。

 


(文中敬称略)