個人金融資産の実情 その2

 

 先月号では金融広報中央委員会(事務局・日本銀行銀行)の「家計の金融行動に関する世論調査」(平成27年)から、個人金融資産保有額の平均値(1209万円)と中央値(400万円)がかい離していること、金融資産非保有率が3割を超えることなどを紹介した。今回は平成19年と平成28年を比較して、その動向の一端を紹介する。

 

金融資産の動向

 下表<B>は、平成19年と平成27年の同調査から全世代平均のa.平均値、b.中央値などを切り出し増減額、増減率を算出したものである。(平成19年度に同調査の調査方法、設問設計の一部見直しが行われており、平成19~27年の間では同一規準での比較が可能となっている)

 

格差拡大

 表<B>のとおり、金融資産保有額のa.平均値は1259万円から1209万円に50万円減、率では4%減少している。b.中央値は、500万円から400万円に額で100万円減、率にして20%の大幅減となっている。その減少の要因の一つがc.金融資産非保有の世帯が20.6%から30.9%まで急増している点にあることは明確である。

その一方で、d.金融資産保有世帯の平均値は1624万円から1819万円に額で195万円増、率にして12%の増加となっている。

この調査で厳しい結果が出ているが、この間の日銀の資金循環統計では家計の金融資産の総額では漸増傾向を維持しており、残念ながら金融資産を持たざる層が、より一層資産を減らし、持てる層がさらに資産を増加させている状況にあることが明らかである。また、この調査は、金融資産だけを対象としているが、これに不動産などの資産を加え、保有資産を算出すれば、格差はさらに拡大する。

 

社会的課題との関連

 個人金融資産に格差が生まれている状況は、

・子供の貧困率が16.3%(子供の6人に1人が貧困家庭)に上る。(厚生労働省・国民生活基礎調査 平成24年)

・大学生の51%が何らかの奨学金を利用して就学している。(日本学生支援機構 4年生大学 平成26年調査)

・相対的に所得が低い非正規の職員、従業員の割合が増加傾向にあり、全雇用者の4割に迫る。そして非正規の約7割が女性である。(総務省・労働力調査 平成27年)

・女性の管理職への登用が11.6%と先進国のなかでいちばん低い。(内閣府・男女共同参画白書 平成25年)

これら、さまざまな社会的な課題と絡み合っている。

 

 これらの課題に個々の金融機関が対処することは難しいが、社会の一員としての責任は果たさなくてはならない。昨今、協同組織金融機関においても、人事部長や役員に女性が散見されるようになったが、これも回答の一つではないか。