ハーイ、お千代でーす。

15話遅くなってごめんなさい。

飛行機の操縦とかの話なので、ネコのあたしには、ちいとばかし難しいことだったので、理解するのに時間がかかりました。

 

 さて、健さんは、最短時間の、それも奇跡的な50時間内で小型飛行機の免許がとれたのだけれど、心理療法の担当医であり教官も兼ねた一花さんに事情が話せなかった理由がようやくわかったので話すね。

 一花さんは、健さんのノスタルジー病を治すために、夢の中の海底城のことを忘れさせようと心理療法をいろいろ試みたことは言ったわよね。時間がかかったけど、その甲斐あって、健さんは眩しい目をこすって目覚めたように、現実がだんだん見えるようになったんだって。

 その療法の一つが健さんを名古屋の夜間飛行に誘ったのだけど、それは結果的に免許取得希望につながるんだけど、ほら、思い出してみて。海底城で雅山さんや保安兵を教えるまでに、健さんは夢中になってサメ・ミンチにのって腕をあげたでしょ。

 そのサメ・ミンチの操縦法が小型飛行機の操縦法に酷似していて、健さんは頭の中に独自のシュミレーターを作ることができた。サメ退治のために海底城の天才スタッフにつくらせたバイクはとても優秀で、操縦性能がすばらしく、簡単な操作で自由に操ることが出来た。これは画期的なことなのね。

 

 専門的な話になるけれど、小型機の操縦は①操縦桿でエルロン操作→補助翼を動かし旋回する②ラダーペダルを踏んで垂直尾翼を操作③パワーの増減、の3つを同時操作することで、旋廻したり、上昇降下したりできるの。

 一方サメ・ミンチは①左右グリップをまわしてエルロン操作をし、②ラダーは両足の微妙な折り曲げで垂直尾翼の働きをし③パワーはボタンで調整。つまり健さんは人並み外れた身体能力と動体視力を持っていたのは別にしても、サメ・ミンチに熟知したせいで小型飛行機の操縦にすんなり慣れちゃったわけ。一花さんもびっくりするくらいあっという間にタッチアンドゴー(着陸離陸の繰り返し)の腕をあげたの。これは、操縦性能が高性能なサメ・ミンチを作った天才スタッフを褒めるべきだと思う。

 教官の一花さんは何故こんなに健さんの上達が早いのか納得できなかった。だから、健さんに上達の秘訣を根掘り葉掘り聞いたけど、健さんはサメ・ミンチの話を言い出せなかった。一つは治療中の身でいまさら海底城の事は話せないし、たとえサメ・ミンチの説明をしたとしても、性能はわかっていても構造的な話をうまく一花さんに伝えられないと思ったのが理由だったの。一花さんは国立理系の秀才で、国産飛行機を作ったメーカーの会長さんだからね。理数が苦手な健さんが説明できるわけないとあきらめたのもわかる気がするわ。

 一花さんが7年前免許を取得するまでの期間が68時間かかり、そのとき16歳の天才少女パイロット現ると騒がれたのに、健さんはそれより短い46時間49分でしょ、そりゃ誰だってぶったまげるわよ。30歳の健さんが天才はないけどね。

 一花さんはしばらくキツネにつままれたような顔をしていたけど、すぐれた身体能力と動体視力のせいにして、不思議な力を持つ健さんを認めざるを得なかったわけ。

 

 あたし、思うんだけど、ほんとうは、海底城という異次元の世界で健さんはリアルに生きていたと思うの。健さんにとって、もうサメ・ミンチは自分の体の一部みたいに自由自在に動かせて、それが健さんの体に染みついちゃってる。そうじゃなきゃ、自家用操縦士という国家試験に受かりっこないものね。

 

 ところでさ、健さんは、夢の中の九兵衛として、おとうの生死を確かめるために実家へ戻る途中、うっかりタコ吸気を吐き出し、呼吸困難になり目が覚めるわけだけど、ある時、家系図屋さんに九兵衛を調べてもらったら、健さんの戸籍の4代前か5代前のじいちゃんに九兵衛さんが実在していたことがわかって3びっくりしちゃった。その当時、なんでも地元の人たちの世話役みたいなことをやっていて村人から深く尊敬されていたそうよ。先祖に九兵衛さんが実在していたなんて不思議。

 健さんは悪い風邪でぶっ倒れて生死をさまよったわけだけど、4次元か異次元かわからないけど、守護霊の九兵衛さんが健さんを生き返らせたのではとあたしは信じている。そうよ、きっとそうに違いないわ。

 

 それから数年後の日記だけど。雨の日、何かの用事で健さんがリバーサイド空港に着陸した草地に、泥まみれの子猫が震えて泣いているのを見つけ家に連れ帰ったと書いてあったの。それがあたし。お千代だよ。あやうくあたしは凍え死ぬところだった。健さんはあたしの大事な命の恩人。ありがとうね。

 

 ゆったり、のんびりしている健さんといると、こころ休まるし癒されるし安心していられる。だから健さんはだいすきだよ。ずっとずっと健康でいてね。

 

 一花さんには言えない話けど、健さんはいまだに海底城時代の寝言をいうの。

慈海さん、雅山さん、ダンディ―さん、カニョさん、ある時は、相手がシャチのクリだったりしてね。大笑いしたり、今日は楽しかったねとか、海草ジュースお代わり!なんていうから、あたし、ときどきびっくりして目を覚ましちゃう。健さんの寝顔を見ると、いつもしあわせそうな顔をして笑っているんだ。

現世と夢と二つの世界に生きられるってうらやましい。海底城の仲間もみんないい人ばっかりなんだもん。

 

 

 

 

 

 

 ある時さ、小梅町のアパートで恒例のバーベキュー会があったの。健さんのお仕事に関する屋号の話になったの。何でも仕事にしちゃうから、健さんは「万屋です」と答えたら、酔った茶房のママがまじまじと健さんのたくましい身体をみあげて、あなたは思いやりがあって力も強い。昔映画で見たターザンそっくりじゃない、相当力持ちなんでしょうね、と聞いたの。すると、そばにいた一花さんが、笑いながら、力持ちでも万屋では欲ばり過ぎだから、せめてターザン(航空用語でthousand→1000)にしたら、とつけ加えた。それでターザンという屋号になったそうなの。酔っぱらうと、結構、みんないい加減なこと言うものね。でも、ターザン(1000)もおもしろいじゃない

ちなみに、ターザンの健さんが請け負った仕事はまだ1000まで届かないけどね。引っ越し。庭木の伐採。空の散歩(営業用の航空免許→事業用操縦士、計器飛行証明も取ったよ)。エアコンの掃除。屋根の修理。身体の不自由な家族を車椅子に乗せ観光に(2級ヘルパーの資格も取った)。子供の一時預かり(来た子供はすぐ健さんのフアンに)。無料の瞑想会。出張料理→手作り餃子、コロッケ、ハンバーグなどなど。畑の耕し。野菜作り。

とにかく、頼まれれば、なんでも喜んで引き受ける健さん(ターザン)なのです。

そのうちターザン(1000)を超えるかもね。

 

健さんの近況ですけど、『掃除、浄化、徳ーっ!』をモットーに、仕事に励んでいます。請負価格は、一般価格より5割から7割は安いです。なんと、タダの時もあります。お金より、仕事が楽しくて仕方がないらしいのです。だから仕事の予定はこの先

2か月は埋まっている。

 健さんの夢ノートこれで終わるのだけど、これからも健さんとお千代のあたしをよろしくね。また、おもしろい話があったら真っ先に報告します。いつも読んでくれてありがとう。感謝です。

 (第15話 健さんの夢ノートはこれでオシマイ。)