化学物質過敏症の何処までが心因性の症状なのか身体性の症状なのか分かりません。個人差も有るでしょうし、他の病気だって同じだと思います。
 

 但し、化学物質過敏症は他の疾病と比較して、目に見えない世の中全ての化学物質が原因と考えてしまうという偏った考え方がストレスになってしまい、なにが本当の原因なのか分かりにくくなってしまう症例なのかも知れません。しっかりと自分の方向性を認識していないといつまでも他人の意見に振り回されて一向に良くならない人も居ます。
 

 化学物質が原因で直接的に症状が発症している状態と(喘息やアレルギーなど)、化学物質を過剰に避けなければならないというストレスから発症する症状が混在してしまって、その区別は患者本人でも分からなくなってしまいます。(その喘息やアレルギーも心理的配慮が必要な病気です)
 

 では何故ストレスを受けるとはっきりとした症状が出て来るのでしょうか?
 

ストレスについて
 

 ストレスは生活して行く上で避けては通れないものです。家庭や仕事でストレスになるからと言って避けては通れない場面も沢山あります。
 
 完璧に化学物質を避けようとしている化学物質過敏症患者に
「それってストレスにならないですか?」と何度か尋ねた事があります。
「私ストレス感じないから大丈夫です。」
 だいたいこんな感じの答えが返ってきます。
 ストレスを感じるというのは理解できます。でも感じないようにしているストレスもありませんか?
 

 子供のころは嫌な事をやりたくなければ泣いたりぐずったり。でも大人になってからそんな人はまず見かけません。そんな事をしていたら仕事や日常生活が円滑に行かなくなってしまいます。大人になれば自然とストレスを我慢する(隠してしまう)ようになっていきます。

 

 本当はストレスなのにそれに蓋をしてしまって気が付かないうちにストレスをため込んでいないですか?
 

 そう言ってもけっこう気が付かないのです。前回紹介した夏木静子さんの『椅子がこわい―私の腰痛放浪記』では最後の最後までご本人は気が付かなかったみたいです。症状が改善して初めて気が付くみたいです。
 だから、3回目で紹介した「2段階で悪化する化学物質過敏症」のように、一生懸命脱化学物質をして治そうとするほど更に悪化させてしまうのです。

 

闘争逃走反応とフリーズ反応 

 動物が急性ストレスに直面した際に、交感神経系や神経内分泌系が活性化し、戦うか(闘争)、逃げるか(逃走)という可動化を伴う反応を引き起こします。これによ
り、心拍数や血圧が上昇し、身体が瞬時に危険に対応できる状態になるのです。
 しかし、逃げる事も戦うことも出来ない状態になると2番目の防衛システムが発動してしまいます。

『ポリヴェーガル理論入門』ステファン・W・ポージェス著より抜粋
 ストレス反応が起きると、神経系の健康を維持する能力が阻害され、自律神経、免疫、内分泌系が調子を崩し、心身ともに病気に罹患しやすい状態になります。この防衛システムは、どの心理学の本にも書かれています。これをもとに心理的な状態は健康に影響を及ぼすと考えられてきました。このモデルは、神経内分泌学、神経免疫学、心理生理学、身体心理医学などでも説明されています。
 しかし、この議論には欠けている要素があります。それは、「可動化」を伴う闘争/逃走反応に代表される防衛反応とは違う、二番目の防衛システムがあるということです。それは「不動」、「シャトダウン」そして「解離」です。闘争/逃走行動は、危険が迫ったときには適応的な反応です。しかし、逃げることができなかったり、物理的に自己防衛行動をとることが不可能なときには、闘争/逃走反応は適応的ではなくなります。「可動化」を引き起こす闘争/逃走反応とは対照的に、二番目の防衛システムは「不動化」と「解離」です。

中略
 「不動化」の反応は、小さな哺乳類によく見られます。例えばネコに捕まったネズミです。ネズミがネコに咬まれると、死んだようになります。しかし実際には死んだわけではありません。この適応的な反応は「擬死」とか、「死んだふり」とも言われます。これは意図的に行う反応ではありません。闘争/逃走反応が使えず、戦うことも逃げることもできないときに起こる、生物学的には適応的な反応です。人間が恐怖体験をして失神するときも、これと同じ反応が起きます。

以上

​ 通常のストレス反応では、交感神経系が優位になり、心拍数の上昇や筋肉の緊張が起こりますが、フリーズ反応では逆に、副交感神経系が過剰に活性化し、以下のような状態になります。

  • ​心拍数の低下
  • ​血圧の低下
  • ​筋肉の硬直(緊張性不動)
  • ​感覚の鈍化や麻痺
  • ​解離(心と身体が切り離されたような感覚)

 これは、捕食者に襲われた動物が死んだふりをして、相手の関心をそらそうとする行動と似ています。この反応によって、動物は危険をやり過ごす時間を稼いだり、致命的な攻撃を受けた際の苦痛を軽減したりすることができます。


化学物質過敏症は人間をシャットダウンする防衛システムではないのか
 

 ここからは私の考えですが、例えば柔軟剤の匂いがきつくて耐えきれない。それが仕事場だったり満員電車だったりして、闘争も逃走もできない。ただひたすらその人がいなくなることを願い、人によっては闘争や逃走を試みるも上手くいかず、やがて身体がシャットダウンしそうになります。そのままシャットダウンしてしまう人も居るでしょう。しかし、家事や仕事など、その場でダウンするわけにもいかないので、無理やり身体を動かしていると、頭痛やめまいなどの不定愁訴が発症し、状態は悪化していきます。
 

 最終的には本当にシャットダウンして身体に色々な身体的反応が出て来てしまうのではないでしょうか?実際に身体が硬直するという症状は聞いたことがあります。
 

 化学物質過敏症になってから、ゴミ屋敷のゴミのようにため込んでしまった化学物質に対する悪い印象や考えがストレスとなり、更に症状を悪化させてはいないでしょうか?

 

 本当に自身の身体に悪影響を及ぼすかどうかに関わらず、化学物質過敏症患者にとって身の回りの全ての化学物質が危険という考えは強いストレスと成り得ます。

 『ポリヴェーガル理論入門』では、闘争逃走反応とフリーズ反応を避けるには、「安全であると感じる」ことが重要で、安全であると感じると心身ともに落ち着き、回復や学習、社会的な関りが円滑になると書かれています。

 自身でも身の回りの化学物質の情報を集めたり、化学物質過敏症患者のことを気遣って色々な人たちがアドバイスをしてくると思います。近所で外壁塗装が始まるとか、どこそこで農薬を撒くとか。けっこう気が付かなくても大丈夫だったりしたことはありませんか?本当にその情報は必要ですか?
 自分の家にいても化学物質が気になって「安全であると感じる」事が出来なくなってしまっているのではないしょうか。

*ポリヴェーガル理論のこちらで紹介した内容はほんの一部分です。私も理解不足かもしれません。ご興味がある方は一度本を手に取ってみてはいかがでしょうか。