行き過ぎた脱化学物質が良くないなんて当たり前だし、そんな事に気が付かないなんてあり得ないと思うかも知れません。しかし、一度化学物質過敏症の渦の中に取り込まれてしまうとなかなか抜け出せなくなってしまいます。
 何故でしょうか?


 化学物質過敏症の対処方法は現在の瀉血療法か?


 マシュー・サイド著 『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』より抜粋。
 

 西暦2世紀ギリシャの医学者ガレスが「瀉血」(しゃけつ:血液の一部を抜き取る排毒療法)を広めたとき、水銀療法なども含めたこの種の治療法は、当時の最高の知識を持った学者が、まったくの善意から生み出したものだった。
 しかし、その多くには実際の効果がないばかりか、なかには非常に有害なものさえあった。とくに瀉血は、病弱な患者からさらに体力を奪った。当時の医師たちがそれに気づかなかった原因は単純だが、根が深い。治療法を一度も検証しなかったのだ。患者の調子が良くなれば「瀉血で治った!」と信じ、患者が死ねば「よほど重病だったに違いない。奇跡の瀉血でさえ救うことができなかったのだから!」と思い込んだ。
 これこそ典型的な「クローズド・ループ現象」だ。「クローズド・ループ」「オープン・ループ」はもともと制御工学で用いられる用語だが、本書では意味が異なる。ここでいう「クローズド・ループ」とは、失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。



 医師たちは18世紀末から19世紀にかけて瀉血によって大勢の患者の命を奪ったそうです。しかし当時の医師は(患者も)上記の理由から、誰もその治療法が間違っているとは思いませんでした。
 

 化学物質過敏症で瀉血療法のような危険な治療をする人はいないと思いますが、その反面、化学物質が身体に溜まっている事が原因で、それを排除するという化学物質過敏症の治療法は際限がなく、体調が良くならないのはまだ化学物質の排除が十分ではないと考え、初めは数種類だけだった苦手な物が、脱化学物質を極めれば極めるほど許容できない物が増えていってしまいます。古代瀉血療法は化学物質過敏症における行き過ぎた脱化学物質ではないでしょうか?
 

 もちろん脱化学物質が化学物質過敏症の有効な治療法なんて考えてない人も沢山いるでしょうが、一度化学物質過敏症になってしまうとその様な情報は入って来づらくなってしまいます。(後のブログで説明します)やがて脱化学物質を否定する人の意見は入らなくなり、ひたすら脱化学物質に突き進みます。
ここまで書くと、私が脱化学物質がいけないと考えているのではないかと思われるかも知れませんが、絶対にいけないと考えているわけではありません。
 

 経済的に余裕もありストレスなく生活できるのであればそれも良いかと思います。
でも、そういう人達ばかりではありません。生活にゆとりがなく、食材を購入するにも毎日遠くの店まで買い物に行き、治るか治らないか分からない化学物質過敏症の対策に生活の大半を費やしている人も沢山います。
 

 近所で除草剤が撒かれた、外壁塗装が始まる、薪ストーブを燃やしている家がある等など、家にいてもビクビクして暮らし、食材に化学物質が入っていると考えて食べられなくなり、やがて拒食症になって入院してしまったとか、高価な空気清浄機を何台も購入して、高額の民間療法にお金を費やし、蓄えを切り崩し老後の生活費が無くなってしまったとか。
 

 経済的にも、精神的にも非常に居心地の悪い環境を自ら作りだしてしまいます。

 それでも徐々に治っていくならまだ良いのですが