近年、仮想通貨(暗号資産)は急速に一般社会へと浸透し、「ビットコイン」や「イーサリアム」、さらには「ドージコイン」といった名称が、もはや一部の投資家や技術者だけでなく、日常的な会話にも登場するようになりました。こうした仮想通貨は単なる金融商品としてだけでなく、現代のポップカルチャーや経済活動の新たな潮流として認知されつつあります。しかし、その一方で、この新たな金融エコシステムはサイバー犯罪者にとっても格好の標的となっており、仮想通貨取引所を狙ったハッキング事件は年々増加の一途をたどっています。


仮想通貨とは何か:その仕組みと課題

仮想通貨は、ブロックチェーン技術を基盤とする分散型デジタル通貨です。国家や中央銀行によって発行される法定通貨とは異なり、仮想通貨は誰でも開発・発行でき、世界中の誰とでも自由に取引することができます。そのため、現在ではビットコインやイーサリアム、テザー、カルダノ、ドージコインといった多様な通貨が存在しています。

理論上、仮想通貨は日常の決済手段として利用できますが、現時点では仮想通貨での支払いを受け付ける企業は限定的であり、法定通貨に比べれば利用範囲はまだ発展途上と言えるでしょう。

さらに、仮想通貨の特徴である「分散性」は利便性と引き換えに、サイバー攻撃に対する脆弱性をもたらしています。価格変動を狙ったトレードが盛んに行われ、金融市場と同様に投機対象となる一方、悪意ある攻撃者がその仕組みの隙を突いて、仮想通貨取引所やウォレットから巨額の資産を不正に奪い取る事件が後を絶ちません。


仮想通貨ハッキングの主な手法

仮想通貨に対するサイバー攻撃は多岐にわたり、資産を守るにはその仕組みを理解することが不可欠です。特に注目すべき3つの攻撃手法を以下に紹介します。

1. ブリッジ攻撃

異なるブロックチェーン間で仮想通貨を転送する「クロスチェーンブリッジ」を標的とした攻撃です。ブロックチェーンごとに構造が異なるため、それらを繋ぐ橋渡し役のブリッジプロトコルは非常に複雑で、脆弱性が生まれやすい部分です。サイバー犯罪者は、こうしたブリッジにバグを仕込んだり、秘密鍵を盗んだりして不正送金を実行します。

2. ウォレットハッキング

仮想通貨の保管場所であるウォレットも攻撃対象です。特に、常時インターネットに接続される「ホットウォレット」は、ネットワークの脆弱性を突かれると資産が奪われる危険性が高まります。

3. 取引所ハッキング

仮想通貨取引所は、多額のデジタル資産を一元管理するため、ハッカーにとって最大級の標的です。特に取引所が保有するホットウォレットが狙われ、フィッシング詐欺やソーシャルエンジニアリングなどを通じて不正アクセスされる事例が相次いでいます。


ハッキングが行われる仕組み

これらの攻撃は、主に以下の手法によって実行されます。

  • フィッシング詐欺:メールやSNSなどを通じ、偽サイトに誘導したりマルウェアをインストールさせたりして、ログイン情報や秘密鍵を盗む手口。

  • 悪意あるコードの挿入:仮想通貨関連ソフトウェアの脆弱性を悪用し、コードを書き換えて不正操作を行う。

  • 鍵盗難:デジタル資産へのアクセスに不可欠な秘密鍵を盗むことで、直接ウォレットから資産を抜き取る。


世界を震撼させた大規模ハッキング事例

仮想通貨業界では、過去に数十億ドル規模の被害をもたらしたハッキング事件が多数発生しています。代表的な事件として、以下の8件が挙げられます。

  1. Ronin Network(2022年3月):北朝鮮系とされるハッカー集団により約6億1,500万ドルが盗難。

  2. Poly Network(2021年8月):ソフトウェアの脆弱性から6億1,100万ドルが不正流出。後に犯人が全額返還。

  3. FTX(2022年11月):破綻当日に6億ドル超が不正流出、業界全体に衝撃を与えた。

  4. バイナンス(2022年10月):BSC Token Hubの脆弱性を突かれ5億7,000万ドルの損失。

  5. コインチェック(2018年1月):日本最大級の被害額となる5億3,400万ドル相当のNEM流出。

  6. マウントゴックス(2011年・2014年):ビットコインの流出により破綻、業界初期の象徴的事件。

  7. ビットマート(2021年12月):管理者キーを盗まれ、約1億9,600万ドルが奪われる。

  8. ノマドブリッジ(2022年8月):クロスチェーンブリッジの脆弱性により、約1億9,000万ドルが流出。


仮想通貨を守るための具体的対策

こうした脅威から資産を守るためには、以下のような対策が有効です。

  • コールドウォレットの使用:インターネットから完全に切り離したオフライン環境で資産を保管。

  • VPNの活用:ネットワーク通信を暗号化し、盗聴や中間者攻撃を防止。

  • 最新のセキュリティ対策:ウイルス対策ソフトやファイアウォール、OSやアプリのアップデートを怠らない。

  • 強固なパスワード管理:長く複雑なパスワードを使用し、定期的に変更。

  • 多要素認証の導入:パスワード以外の認証要素(SMSや認証アプリ)を設定。

  • フィッシング詐欺の警戒:疑わしいメールやリンクは開かず、正規サイトからのみログイン。

  • シードフレーズの厳重管理:オフラインで保管し、第三者に知られないようにする。


今後も続く仮想通貨のリスクと備えの必要性

FTX事件などをきっかけに、仮想通貨市場に潜むセキュリティリスクが広く知られるようになりました。仮想通貨を安全に利用するためには、インターネットセキュリティの基本に加えて、コールドウォレットなどの高度な対策を講じることが求められます。仮想通貨は新たな金融の未来を切り開く可能性を秘めていますが、それはセキュリティという土台の上にこそ成り立つものなのです。