ハロー、ハロー
君に、聞こえますか
“声が聞きたい”
【calling.】
極東の地。
其処は文字通り、凍て付いた大地の広がる場所。
ただ其処で繰り広げられているのは、熾烈な勢力争い。
数多の兵と巨大な力が行き交う、熱気を帯びた戦場。
「暑苦しい戦いで寒さが和らげば良いのにさー。ちっとも温かくないじゃん」
「ユイも寒いのは嫌ー」
「……そう言って敵を氷漬けにするのは誰ですか」
「だってユイはスピより強いから」
「……フォレス。気を散じるな」
オレの近くにいた敵をスピが得意の音魔法で薙ぎ倒し、オレはへらっと笑う。
「ああ、ありがとうスピ」
「ちょっとスピ、騎士(ナイト)は男より女の子を護る生き物でしょ!」
「だってユイさん私より強いって、自分で言ったではないですか」
「あーもう、乙女心の機微を理解なさいっ」
(割と一方的な)戯れ合いをしながらも、二人は敵対勢力の兵数を次々と減らして行く。
オレも負けじと、手にしたハンマーを握り直した。
「ユグドラシル」
厳格な口調でそう呟けば、鼻先を樹木の芳しい香りがふわり掠めた。
草木の育たぬこの地にまで来て、なお。
オレは、君の事ばかりを思い出すんだ。
『この国を……オレ達の故郷を、頼んだよ』
共に行きたい、そう言ってくれた彼女を拒否したのは他でも無い自分。
心から信頼する人物に国を見守っていて欲しい、それは確かにオレの願いだったし、彼女もオレの気持ちを理解したから残ると言ってくれた。
けれど、もし、あの時。
あのまま彼女の手を引いて共に来てしまえば、と後悔する醜い自分がいるのも事実。
所詮はオレもニンゲン。
心を持ち、『悩む』という行為を拒めない類の種族。
「……何をしているんだ、フォレス」
「んー、ちょっとね」
今日手に入れた陣地で、地面に寝転がり大地に耳を当てる。
地中深くに、植物の根が潜んではいないか。
その拍動を探すため、耳をすませる。
「……ユイさんに、踏まれるぞ」
「……なあ、スピ」
地面から耳を離し、体を起こして彼を見上げた。
「離別を決意したのに、それでも面影を求めるオレは、愚かだろうか」
ある日、疾うに生気を失った、しかし辛うじて立つ枯れ木を見つけた。
その木に右手をあて、瞳を閉じる。
細い細い繋がりを信じて、『声』を手のひらにこめた。
“ハロー、ハロー”
“此方凍てつく大地より”
“君に、届きますように”
返事の無いメッセージを、樹に託して送り続ける。
ただの自己満足。
叶わないって分かってるけれど、それでも。
“オレの想いが、君に伝わります様に”
『それがヒトの性だからな』と、呆れたように笑ったスピに。
『フォレスが満足いくまでやったらいいじゃん?』と愉しげに言ったユイさんに。
少しだけ感謝もしつつ、オレは届かない場所へ届くことを願って、メッセージを送る。
“次に帰って君に会ったら、伝えたい事があるんだ”
ハロー、ハロー。
愛し君へ。
どうか、この想いが届きますように。
閉じた瞳の奥で、さざ波の音が聞こえた気がした。
fin.