【私的お気に入り度:★★★☆☆】

《あらすじ》
ふとしたきっかけから、一躍大ベストセラー作家となったジェシカ・フレッチャーは、招かれて大都会ニューヨークへとやってきた。
そして出版社の社長宅でひらかれた仮装パーティに出席し、思いもかけぬ事件に巻き込まれる。
パーティの最中、シャーロック・ホームズに扮した男が射殺されたのだ。
やがてジェシカの甥が容疑者として逮捕されるにおよび、この新進女流ミステリ作家は心ならずも女探偵として活躍するはめになった。(中表紙より)

◆ ◆ ◆

※ネタバレ注意!※

サブタイトルを見て、TVドラマを思い浮かべた人も多いのではないだろうか。
いつ頃だったかは忘れてしまったが、一時期NHKで放送されていた。
TVシリーズでは主人公のジェシカが作家になった経緯は描かれていなかったように思うが、私が見逃しただけかもしれない。
本作では、彼女が作家になるきっかけから物語が始まっており、TVシリーズを見ていて、しかも、作家になったきっかけについては情報がなかった私からすると、オープニングからして興味がつきなかった。
特に、ジェシカの友人たちとのおしゃべりには、思わずニヤリとさせられた。
各作家の有名な探偵たちへのリスペクトがさりげなくちりばめられている。

簡単に言ってしまうと、アメリカ版ミス・マープルなのだが、舞台がアメリカ(NY)だからなのか、このジェシカの年齢のせいなのか、とにかく、危なっかしい。
(※ミス・マープルは老女だが、ジェシカは“おばさん”)
しかも、身近な協力者は親切な人間が多いが、そうでない人たち、疑わしい人間やたまたまジェシカの追跡劇に巻き込まれるバスの運転手などは、かなり感じが悪い。ジェシカが悪態をつかれることも多々ある。
もちろん、偶然出会った人間にも、親切な人はいるが、事件が起こる前の作家としてジェシカがあちこちに行かされる場面で出てくる人間は、全て、感じが悪く、彼女が早々に家に帰りたくなるのも無理はない。

読者をミスリードするような展開なので、ほとんどの読者は真実に行き着くことは難しいだろう。
一応、伏線らしきものはあるのだが。
本作を読む機会があるのなら、展開が二転三転することを覚悟しておくように。

蛇足ではあるが…
クリスティのミス・マープルシリーズには、ほとんど必ずと言っていいほど、登場人物のロマンスがあり、ハッピーエンドを迎えることが多かった。
が、そのロマンスの中心になるのは若い人たちだったと思う。
アメリカ版ミス・マープルである本作もロマンスがちらちらと顔を覗かせるが、アメリカらしいと言うべきなのだろうか、若い人たちよりも、“おばさん”たちのロマンスの芽が多い。(※不倫ではない)
正直、ジェシカのロマンス(未満)が重要な位置を占めるとは、想像もしていなかった。
TVシリーズを見ていなければ、それも違和感がなかったかもしれないが、TVシリーズを見てしまっては、どうもしっくりこなかった。


【私的お気に入り度:★★☆☆☆】

《あらすじ》
見知らぬ異世界の牢獄に、いきなり放り込まれたエミリー。手探りで状況を分析するうちに、どうやらこの世界で権力を争う二大勢力の、一方の貴族の女性と人違いされたらしいことがわかる。そんな中エミリーは、同じ砦の牢に閉じ込められているひとりの男性に心惹かれていくのだが……。(裏表紙より)

◆ ◆ ◆

著者の作品をすべて読んだわけではないので、断言はできないが、珍しく後味の悪い作品であると思う。
悲しい終わり方ではないが、空しさが漂う。
著者の作品は内容が辛らつであったり、多少残酷であっても、ハッピーエンドが多かったように思っていたので、かなり意外である。
主人公である囚われのエミリーの目線で物語が進むので、読者は無意識に彼女の感情移入していくが、結末は彼女にとってあまりにも残酷だ。
彼女と共に一喜一憂していただけに、ラストは空虚だ。
エミリー自身も悲しんだり、絶望したり、というように大きく感情を動かさず、ただ、淡々と現実を見据え、希望にすがろうとした自分を力なく笑う。
著者であれば、これをもっと明るい作品に出来たであろうに、あえてしなかったのが異色である。

★二つ評価にしたのは、エミリーと(捕らえた側の)嫌な男とのやりとりが良かったからだ。
著者お得意のロマンスにしなかったのは、それはそれで面白かった。
敵である彼に同情したり、友情を感じたり。
感情の揺らぎがなかなか、いい。

これは、著者の別作品の原型となったものらしいので、いずれそちらの作品を読んでみたいと思う。