同じクラスの親友の望美が学校を辞める事になった。
美容師になりたいと言い、理美容専門学校に行くと言った。
もう時は9月、ずっと一緒にいた親友がいなくなるのはかなり寂しい事ではあったが、応援しようと気分を切り替えた。
望美が学校を辞めたのは10月手間だった。
クラスで一人になった。
その頃は、既に友達間でグループが存在し、私の入る余地はなかったのだ。
いつもの教室、窓から見る風景。
いつもよりも窓の外を見ている時間が増えた。
そんな時、たまに話しかけてくる人がいた。
辞めていった望美と仲が良かった広司だ。
広司にはかなり美人な彼女の利香がいた。
広司とたまに話したりして、寂しい時間は少しずつ減っていった。
美術の時間、美術室に向かう時、広司は一緒に行こうと言った。
化学室に行く時も、音楽室に行く時も、広司と一緒に行く回数が増えていった。
広司はハンサムであった。
利香と広司はお似合いのカップルに見えた。
何となく、私の心は嫉妬していった。
でも、私は暴力団の女。
何も言えない。
私は自分を汚れた底辺の女だ、と常に感じていたのだ。
ある日、また美術室に向かう階段で広司が言った。
「俺さ、利香と別れたんだ」
何故別れたのかは未だに不明だ、しかし、誰しもが憧れるカップルだ。
私は
「そっか」
と言った。
そんな話を聞いてしまってから、私は広司を段々と好きになっていった。
しかし私は暴力団の女、別れるなんて怖くて言えない。
当時私は居酒屋でアルバイトをしていた。
勿論、居酒屋の店長もスタッフも私が暴力団の女である事を知っている。
夜の仕事に就いている殆どの人は知っていただろう。
広司は言った。
「居酒屋、辞めないの?」
と。
「煙草を買うお金も遊ぶお金もお小遣いじゃ足りないからね」
私が言うと広司は黙っていた。
それと暴力団の彼氏がいる事も言った。
「別れないの?」
広司は軽く言うが、女を辞めると何をされるのかわからないぐらい恐怖があるのだ。
私は苦笑いしながら、
「別れたいけど仕方ないよ」
悲しかった。
故に既に私は広司を好きになっていたのだ。
いつも一緒にいてくれる広司が友達という存在から、心から好きな人になったのだ。
週末、居酒屋でバイトをしていたら、親友の一人、朋子が飲みに来た。
店長がバイトを上がらせてくれ、あたしは朋子と飲んでいた。
「何となく元気無いね、あたし、何かした?」
と朋子が言い、笑いながら「何もしてないよ」と返した。
夜9時になり、あたしと朋子はクラブに乗り出した。
派手に流れる音楽、いつもの私ならノリノリで踊るのだが、どうしようもないくらい踊る気にはなれなかった。
「ねぇ、どうした?いつもと違うよ、何があった?もしかして彼氏と上手くいってないとか?」
そう、別れたい…。
ドンドン苦しくなってる私がいる。
「好きな人…出来た…」
朋子も顔色が変わった。
暫く時間が過ぎた、朋子が口を開いた。
「告白しちゃお!その好きな人にさ!アンタが告白しないならあたしが言っちゃうよ!」
朋子は笑いながら、だが本気だ。
「いや、告白は出来ない、あたし付き合ってるのは暴力団だし」
「関係ないよ!好きなら」
朋子が真面目な顔になった。
また暫く時間が経った。
あたしは黙ったままクラブのカウンターに座っていた。
業を煮やした朋子が、あたしのアドレス帳を無理矢理取って、外の公衆電話に走って行った。
私も慌てて後を追った、電話ボックスの中の朋子は、広司の名前を見つけてダイヤルしていた。
「止めて!!ホント、マジ止めて!!」
ボックスが開いた時、既に広司に繋がっていた。
朋子が目で「ほら、早く!」と言っている。
「今の人、誰?ん?何か用事?」
ハァーとため息が出た。
その後、私の中で積み上げた我慢が一気に崩れていった。
「あのさ、あたし、好きなんだ。」
やっと、やっと言えた。
思いだけでいいや、もういい。
広司は笑いながら言った。
「そんな事、もう知ってたよ、何を今更」
一気に私は全身が真っ赤になるくらいに恥ずかしくなった。
「彼氏と別れるから」
と言って電話を切った。
電話ボックスの中にヘタヘタになりながらしゃがんでしまった。
もう動けない、恥ずかしい、どうしよう、返事も聞くの忘れた、明日どんな顔で会えばいいんだろ。
朋子は「やったじゃーん!」な顔でニコニコ笑っていた。
告白したからには私もケジメをつけなければならない。
彼氏だ。
早速、彼氏に電話をした。
繁華街の寿司屋にいると言われ、そこに向かった。
寿司屋の暖簾をくぐると、「いらっしゃーい!」と店長の大声にいきなり困惑した。
彼氏の横には、これまた彼氏の愛人のカオリがいた。
カオリとも親友だ。
私はカオリに促されて席に着いた。
「何食べる?」とカオリに聞かれたが、言い終わるまでに私は彼氏に
「好きな人が出来ました、別れて下さい!」
と言った。
勿論、簡単にOKな訳はない。
「何処のどいつだ、言ってみろ!」
怒鳴られた、やっぱり無理なのだろうか、いや、絶対別れる!
そう思い、
「相手はあたしを好きだとは言ってないです!あたしが一方的に好きになっただけです!だから何もしないで下さい!お願いです!」
席から下り土下座をした。
「俺の面子、よくも潰したな!」
と彼氏も席を下り、あたしの胸ぐらを掴んだ。
「ねぇ、良くない?だってうちら今青春真っ盛りな時だよ、好きな人が出来るかも知れないのは分かってたでしょ?」
カオリは寿司を食べながら言った。
チッっと彼氏は胸ぐらから手を外し、正直に隠さず言え!と言われた。
同じ学校で同じクラスでどの辺りに住んでいて…と私が言うと、
「もう、いい!だけどな、俺はお前には本気だったぞ、それだけは肝に銘じておけ!」
カオリはニッコリしながら私にピースをしていた。
「ありがとうございます!」
と、深々と「元」彼氏に別れを告げた。
寿司屋を出ようとすると、
「何か困ったりしたら、いつでも呼べ」
そう言うと日本酒をグィっと飲んだ。
やっと私は私を解放出来た瞬間だった。