『明るい夜 暗い昼 女性たちのソ連強制収容所』全3巻
エヴゲーニヤ・ギンズブルグ
集英社文庫
スターリン独裁下で粛清のターゲットになった女性の、牢獄と強制収容所で過ごした18年にもおよぶ長い長い年月の手記。
この間、メモを残せるわけでもなく、克明なすべてが頭にたたきこまれた記憶。これが終わったら世に出すんだ、生き抜いてこの地獄を伝えるんだ、というものすごい気迫を感じる。
鍛えられた兵士でも大勢が命を落とす過酷な環境、労働。ページをめくるたびに、これ以上の悲惨はあるまいと思うようなことが次々と襲ってくる。鍛えられた兵士でさえ次々と命を落とすような過酷な環境と労働を耐えて、そんな極限状態でなお、良心と誇りと親切心を保ち、詩や文学を求める精神性に、より驚く。
獄中で読書が許され、ぼろぼろになった体で文字通りむさぼり読む場面があります。以前読んだ時は心にとめることもなかった言葉が、突如として本質を現してくる。彼女は、作家の言葉の本質は、獄中でこそ知覚できるのだ、と気づく。
そんな風に本を読んだことなど一度もない。この本も、わたしが極限状態におかれたときはじめて理解できるんだろう。それほどに深く本を読めはしない、それが平和、幸せってことなんだろう。
監獄や収容所からの解放が、苦しい日々の終わりなのか、と思えば、実はそうでもない。解放後も、粛清の犠牲になった人とそうでない人、あの現実を知らない人とのあまりに深い溝と、自分を虐げた人たちとの共生、そして痛めつけられた体に残る後遺症がある。
スターリンの死によって、粛清は終わった。しかしはたして彼女のその後は安然だったのか、それに、この恐怖の社会は本当に終わったのか、という疑問はぬぐえません。