まず何より先に、質問紙・実験にご協力いただいた皆様に感謝申し上げたい。長い質問紙に実験参加者はおそらく実験に参加していると感じる間も無く実験に参加していただいた。特に、岩手大学学生生協中央食堂の皆様には特段の感謝を。二度とこのような実験を行う学生は出てこないだろうし、出てきたら頭がおかしい(特大ブーメラン)。協力していただいた。皆さんの協力なくしては、この研究は立ち行かなかった。
鈴木先生をはじめとした鈴木ゼミのメンバーにも感謝を述べたい。常に新たな視点からの指摘をいただき、研究をブラッシュアップすることができた。
そして、4 年部屋の住人たちにも感謝を述べたい。脳にとって糖分の補給は死活問題であったが、チョコレートやスナック菓子など様々な配給によって生きながらえることができた。
また、InstagramやTwitterは生存確認ツールとしての本領を発揮してくれた。
忘れてはならないのが、Microsoft 社、Apple 社、Sony 社の各社デバイスによる貢献である。いずれもスムーズで快適な卒論執筆、データ収集、閲覧、音楽鑑賞体験に寄与してくれた。しかし、Sony 社に関してはレスポンス速度の改善が望まれることを付言しておく。
本研究を締めくくるにあたって、コミックマーケット 95 に参与観察調査を行った時の様子を報告する。コミックマーケット(以下、コミケ)とは、1975年に始まった日本最大の同人誌即売会である。通常は年 2 回、夏と冬に東京国際展示場(東京ビックサイト)の全ホールを会場に 3 日間行われ、近年では 3 日間で 55 万人程度を動員するほどの一大イベントだ。コミケの中心といえば同人誌、企業ブース、近年ではコスプレエリアも活気を 見せている。しかし、本研究で注目するのはスタッフである。スタッフは無賃のボランティアとして会場の誘導などに当たっている。人であふれかえる会場内で大きな事故が発生 しないのは、スタッフが臨機応変な対応によるところが大きいだろう。しかし、コミケボ ランティアは人員が不足しているといわれており、そのような場こそ違反抑止メッセージ の活躍するチャンスのある場であると考えられる。そこで、筆者はコミケにおける規範順守を呼びかける方法を調査するために 2018 年 12 月 29 日~12 月 31 日までの 3 日間参与観察を行った。
コミケには独自ともいえる規範やマナーが数多く存在する。100 円や 500 円硬貨、1000円札など細かいお金を準備しておくことや、駅での改札でのトラブルを避けるために電子 マネーのチャージを行っておくこと、国際展示場付近の店舗は混雑するために、出発駅などにおいて飲料や食料品を準備しておくこと、整列時にはひったくりに対する自衛や前方 に広いパーソナルスペースなどのためにバックパックを前方にかけることなど、入場前に 気を付けることの時点で枚挙にいとまはない。入場後も、あるところでは左側通行、また あるところでは右側通行、さっきまで通行可能だった場所が通行不可になるなどといった ことはざらである。サークルの冊子を吟味するときも隣のサークル領域に入らないように 注意が必要とされるなど、もはやルールブックをつくれば一山当てることができるのでは ないかと思われるほど不文律が多いことは、コミケは新参者に厳しいといわれるゆえんである。当然、広くは啓発されていないローカルルールが発生することもある。そのような 中でコミケスタッフは様々な問題に対応することが求められる。道案内、列整理、交通誘 導、施設内巡視などである。限られた人員の中、このような場所でこそ違反抑止メッセージが活躍するべきであろう。しかし、今回の参与観察の結果、違反抑止メッセージはこのような大規模イベントでは抑止効果を発揮しないであろうことが示された。その理由は2 つある。第一にひとつの領域の使用用途や守るべき規範が流動的である場所が多いこと、 そして、第二に違反抑止メッセージは目に入らなければ抑止効果を発揮できないことであ る。
まず前者に関して、基本的に違反抑止メッセージは使用用途や規範が確立された場所にしか提示することができないと考えられる。ごみ箱はごみを廃棄する場所であることに疑問を持つ者はいないだろうし、駐輪場は自転車を止める場所であることに疑問のある者はいないだろう。そして、ごみの廃棄で問題になることは、たいてい資源を無駄にしないことや分別のことであり、駐輪場で問題になるのは、たいてい枠外駐輪や駐輪場内の自転車 の置き方、ごみのポイ捨てなどであると限定ができる。だからこそ、そこにごみ分別を呼 びかけたり、違反駐輪の撲滅を訴えたりする意義が生まれるのである。コミケにおいては、ある場所が列の待機場になり、通路になり、休憩場になり、イベント会場になり、通行禁止になりと、利用目的を特定されたスペースは少ない。コスプレ会場や同人販売会場内などは利用用途が特定こそされているが、規範が多く、そのため違反行為は数多く存在する。 違反となる行為が多く存在するということは、違反行為ごとに見れば違反件数が少ないものが多く、壁中に違反抑止メッセージを掲示するよりは、個別の違反行為に対して直接の注意を与えたほうが明らかに効率的であるということを意味する。
後者に関して考えると、コミケはいかんせん人が多い。壁面など掲示するスペースが限られる中、そのような多数の人物に対して違反抑止メッセージを目にさせることは至難の業である。よほど大きな掲示か、非常に多数の掲示を行うかといったことが考えられるが、 そもそも人員不足などを補うための違反抑止メッセージの掲示にもかかわらず、準備撤収 に手間をかけてしまうのでは、直接の注意に対する違反抑止メッセージの優位な点を自ら 否定することとなってしまう。
以上のように考えると、違反抑止メッセージには効果的な場所とそうでない場所が存在すると言うことである。コミケなどの大規模イベントにおいては、違反抑止メッセージは 十分な効果を発揮できないことが示されたといえる。このことは違反抑止に関して違反抑止メッセージの検討に固執するのではなく、説得や態度変容などの知見を生かしつつ、対 人場面における効果的な違反抑止方略の検討が必要であることを示している。ぜひ後続の 研究に期待したい。
