「あ……」
ふと、窓の外の景色に目をやれば、ゆらりとうごめく黒い影が見えて、思わず声を上げた。
「水兎?」
「……ああ、うん。なんでもない」
だがそれは、誰にも見えていないもの。俺だけが、見えているもの。
「水兎ってこういうことあるよねー」
「浮世離れした感じだよな」
「えー、そうかなぁ」
一理あるとは自覚しているが、同意するのも面倒なので、適当に言葉を濁すのがこの場で一番正しい判断なのだと、俺はもうすでに学習していた。
学校の昼休み、大勢の生徒たちが一斉に怠惰な時間を謳歌するという、それだけの空白の中、俺はふっと見えた黒い影を、思わず目で追った。
すぐ隣で楽しそうに談笑する友人たちの声が聞こえるが、俺は相槌すら打たずに、影を見つめる。
“あれ、昨日はいなかったよね”
つい最近気づいたことだが、〈鏡界〉の住人たちは、俺が意識を向ければいつもそこにいるし、俺が意識を集中して語りかければ、会話ができる。ただ、会話には相当集中力が必要だった。向こう側から発せられる、いわゆる“言葉”は、ひどく薄くぼんやりとしていて、俺にはこちらで普通に友人たちと“会話”していては、向こうの“言葉”などわからないのだ。だから向こうと会話をしようと思うならば、完全にこちらの世界から意識を切り離す必要があった。
“へぇ、そっちはいいなぁ……”
そして、住人たちには感情があることも、最近知った。会話を始めてから、わかったことだ。“言葉”にもニュアンスがあるのだ。ただ、向こうは明確な俺たちみたいな言葉を発しているわけではないので、大まかな雰囲気だった。最近では、だいたい、向こうが何を言いたいのかわかるようになっている。多分、大きな進歩だ。
“こっちも勿論好きだよ。でも、俺たち『人』っていう生き物は、好奇心旺盛なんだ”
窓ガラスから見える影は、ゆらりと形を変えながら、俺と会話する。それは、意識が深くまで交じり合う感覚。まるで向こうに全て筒抜けで、なにも嘘などつけないかのような。曖昧でいて、真理までくすぐられる気がする。
“勿論俺も例外なく興味があって……”
ふと。
影が見えている状態の今、そういえば本来見えるはずの外の景色は見えないのか。
「あっ」
消えた。
「え? どうかした?」
「……あ、いや……、なんでも、ない」
「水兎がまた“飛んで”たー」
「ジャンピング? ホッピング? フライング?」
「いや、そこじゃないだろ」
笑いが飛び交い、会話が弾む友人たちの中で、俺はぼんやりと窓を見つめる。
窓から見える景色は、グラウンドで遊ぶ生徒たちの元気な姿と、青々と世界を見つめる空ばかり。
もうどこにも、影は、見えなかった。
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きるところがわかりませんww
長編の、とある一部、小さなお話。
小説というのもおこがましいようなものを見たら、私のもそんな気がしてきた
この話、もっと膨らまして、短編集のような、実はつながっている長編として考えますww
ではでは。