うさぎ絵本 -33ページ目

名探偵うさにょの事件簿


 ブラインドの隙間から漏れる光が、網膜を微かに
刺激する。薄目を開けて時計を見ると、短針が10
の数字を指している。


 Good。探偵はいつも早起きでなくてはいけない。


 枕元のサイドテーブルに飲みかけのブランデーが
そのまま置いてある。特有の上品な香りはすっかり
飛んでしまっているけど、何も問題はない。


 冷蔵庫から冷たい缶コーヒーを取り出し、上から
ブランデー・グラスに注ぎ込む。飲む。ウマー。


 これはカフェ・ロワイヤルという、コーヒーの正
式な飲み方のひとつだ。探偵はあらゆることに博学
でなくてはならない。


 ひとつ指摘するとすれば、カフェ・ロワイヤルは
ホットコーヒーに数滴のブランデーを加えた飲み物
であるはずだが。名探偵はCoolに己の間違いを訂正
する。


 これが探偵の朝の風景。まるでハードボイルドで
エキサイティングな一日を予期させるように、嵐の
前の静けさともいえるひと時を楽しむ。


 これも名探偵の余裕が成せる業だ。手帳には何の
予定も書かれていない。否、この名探偵は手帳すら
持っていない。いい大人が手帳も持たずに過ごせる
のは、やはり名探偵の余裕だろう。


 仕事の依頼はどう捌くのか?そこらへんのチラシ
の裏にメモをする。やがて、どこにいったかわから
なくなる。


 問題は?…もちろん、ない。なぜなら、依頼など
きたことがないから。強いて言えば、募集をかけて
いない。広告すらも出していない。完全なオファー
待ちである。


 もし仕事のオファーがきたら本気を出す。これが
名探偵の揺るがないスタンスだ。揺らがない、ぶれ
ない、己のペースを崩さない。


 これが探偵としての美学であり、誇りでもある。
さらにいえば”矜持”でもある。…矜持とは何か。
よくわからない。だって難しい言葉だから。ぐぐれ。
イヤだ、めんどい。でもなんかかっこいい言葉って 
気がする。だから使う。臆面もなく。


 名探偵は、何かかっこよさそうな言葉とかセリフ
に弱い。意味はわからなくても使う。もしも意味を
問われたら、その場でwikiるか、巧みな言い逃れで
済ませる。


 これはあくまで、鋼の心臓を持つハードボイルド
名探偵ならではの生き様だ。シロウトにはけっして
お勧めしない。


 そうこうしてるうちに眠くなって寝る。俗に言う
二度寝である。…四度寝か五度寝くらいでいよいよ
眠れなくなって、しょうがないので起きる。そして
パソコンに向かう。腰が痛い。


 タバコに火をつけようとしたら、勢い余って爪が
変な方向にクキッって曲がった。痛いというよりも
気持ち悪い。仕方なくプラモ用のニッパーで、その
部分だけ切り取った。爪が変なカタチになった。


 パソコンがなかなか立ち上がらずに、イラついて
壁を殴る。5、6発。それでも足りずに床ドンする
と、階下の家族から怒声を浴びせられて涙目。もう
やだ。そうこうするうちに、パソコンが起動した。


 「…ネットの海は広大だ」


 そして、名探偵の本当の一日が始まる。