猫の觀劇日記+α

猫の觀劇日記+α

増補吾輩は猫である

~~著者挨拶~~


 拙文を御讀み頂きし事、至極光榮に存じ、
先づは御禮申し上げ候。然るに、此の日記は
讀者諸兄におかれては讀み難き事この上なからうと、
竊かに心痛罷りあり候。元來吾輩の個人的な
記錄として殘し置きし物に候へば、
惡しからず御宥恕下されたく候。

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 番附には咲太夫呂太夫錣太夫千歳太夫と
切場語り四人が勢揃ひしたが、最早恒例と
爲つて仕舞つた感のある咲太夫病氣休演で、
呂太夫錣太夫千歳太夫織太夫の並びと成つた。
三味線は燕三藤藏勝平清志郎錦吾燕二郎清方。
と成ると三番叟は勘十郎玉男かと期待したが、
玉勢簑紫郎。まあまあ良かつた。そして
勘十郎は翁。和生で見慣れてゐるので、
少々動き過ぎ。

 「車曳の段」は藤太夫小住太夫碩太夫
南都太夫津國太夫に宗助。津國太夫の
時平が良かつた。
 佐太村は「茶筅酒」三輪太夫團七
「喧嘩」咲壽太夫清馗「訴訟」芳穗太夫錦糸
「櫻丸切腹」千歳太夫富助。咲壽太夫は近頃
進境著しいと思つてゐたが、此れ丈人物が
多いと未だ六つかしい。千歳太夫は
「寺子屋」を聽きたかつた。
 四段目「天拝山の段」は藤太夫清友。
藤太夫の白太夫を聽いて漸く腑に落ちた。
佐太村を語つた太夫達には申し訳ないが、
白太夫は斯うでなくては行かん。
 人形では白太夫の勘十郎が吾輩的には可成り
意外。ただ、「歳は寄つても怖いは親」と
語られる通り、吾輩に取つて此の作品での
白太夫は「訴訟」での嚴しい印象が強い。
しかし勘十郎の遣ふ白太夫は好々爺振りが
良く表現された。菅相丞は玉男。曾ては
立役を一手に引き受けてゐた玉男だが、
最近は動きの少ない役が多い。他に松王玉助
千代簑二郎、梅王玉佳春清五郎、櫻丸勘彌
八重一輔。時平は玉志。

 昨年の三十五周年と新譜發賣を紀念した
巡業は樂團を從へたものであつたが、近年の

公演では此れは例外で、「Acoustic Live」と

題して鍵盤の澤近のみを配するのが常である。
今回も當然其れだと思つたら、小提琴が附き
更に一部の曲にはカラオケ迄附いた。
 中島みゆき作の「雪・月・花」から始まつて、
途中にカバーの「見返り美人」「化粧」抔も含み、
みゆき作品が多かつた印象である。中でも白眉は
「裸爪のライオン」だ。此の曲は初期の巡業の
アンコール曲であり、思ひ出深い。同様に思ふ

客は多いと見え、客席からは例年常に要求が

出るものの、近年は「あの曲はもう高聲が

出ない」と答へた事もあり、生で聽けることは

ないと思つてゐた。其れが突然唄はれたので、
アク―スティックライブには無い盛り上がりと
爲つた。他に選曲で特徴的な所と云へば
河村隆一作の二曲を一擧披露は可成り目づらしい。
 おニャン子の名曲を即興で唄つたのは意表を
突いたが、アンコールに「勇者の旗」は
如何なものか。今年此の曲を唄はない分けは

無いし、靜香は元來アンコールを何曲も唄ふ

たちではないので、底が割れて仕舞つた。
 

 東京公演から「道具屋」が省かれた。「
鳥居前」は亙太夫錦吾睦太夫清友。「三婦内」
千歳太夫富助咲壽太夫寛太郎。「長町裏」
藤太夫織太夫燕三。「長町裏」の義平次は
誰がやつても大抵良い感じになるのだが、
藤太夫は中々のものであつた。そして人形は
和生で、此處は團七の玉男と人間國寶共演と
宣傳されてゐた。案内冊子には呂太夫の襲名の
話題しかなく、入稿には間に合はなかつたと
思はれる。他に三婦玉也德兵衞玉助琴浦紋秀
お辰勘彌お梶一輔。紋秀勘彌一輔に加へて
清十郎の序列はどうなのか興味深い。お辰を
任された所を見れば、勘彌が一段上なのか。
只、和生の義平次に其れ程見應へがあるとは
思はなかつたので、和生がお辰で
良かつたのではなからうか。



 

 「井戸替の段」小住太夫藤藏、「杉酒屋の
段」芳穗太夫錦糸。お三輪勘十郎、求馬玉助、
橘姫一輔。「道行戀苧環」呂勢太夫織太夫の
掛合ひに清治清志郎他、此處に遣ふのは
勿體ないのではなからうか。「鱶七使者の段」
碩太夫燕二郎と錣太夫宗助、「姫戻りの段」
希太夫勝平、「金殿の段」呂太夫清介。
切場語りが二人出て、堪能した。鱶七は玉志、
此の人は慥かに勇壮な武将も遣へるのでは
あるが、本領はもつと微妙な動きである。
「入鹿誅伐の段」は初めて生で見た。睦太夫
南都太夫芳穗太夫咲壽太夫薫太夫文字榮太夫に
團吾。此の顔觸れでなほ文字榮太夫が殿に
成るのは如何なる格附けによるのだらう。