「さみしいなあ。」
「お母さん、どこに行ったんだろう。」
学校から帰ってきて、坊やは一人家で待つ。
「前はいっしょに絵本を読んで、夕ご飯を一緒に作って、お父さんの帰りを待って、みんなで食べたのに。」
今では出来合いを買ってきて適当に済ませる。
そうして半年が経った。
ある日の夜、母親はいつものように遅くに帰ってきた。
「ただいま」
「今日は、優也の誕生日だねえ。これ、プレゼント」
そういって、TVゲームを差し出した。
優也はそれで遊びだした。
毎晩、母親が帰ってくることになると、それを取り出して遊んでいた。
母親はすっかり悦に浸っていた。人並みのことを息子にしてやったんだ。
こんなに喜んでいるではないか。
坊やはいつも心のなかで話していた。
「僕を喜ばそうとするなら、いつもそばにいてくれたらいいのに。」
「ぼくのためにだというのなら。」
長じて優也はこう語って命を閉じた。
人間とはかくも愚かしいものだ。
愛とは時間と空間と価値観を分かち合うことである。
世界に物質が溢れて豊かになり、人間は体も態度も大きくなった。
人類が抱えてきたたくさんの問題が解決されたと思っていた。
しかし、人はますます貧しくなった。
人に頼らず生きていけるようになったが、
関係性の希薄な空気の中で、生きる意味を失い、
短絡な思考に囚われてばかりいる。
愛する人がいつもそばにいて、ただ語り合い、触れ合っていればよかったものを。
すっかり忘れてしまったんだな。
彼はひとりでいるとき良く学んだ。
だから死に苦しみはないとわかっていた。
家族を悲しませまいと、ただ演じているばかりだった。
誰もいなくなって、目的もなくなって
彼は、即座にこの世から去った。
「もうこの世界に人間なんていないよ」
彼には、友も恋人も同僚もいなかったから、誰も悲しませることはなかった。
一方、世界ではいまだに・・・。