「否定しない子育て」が、親子をもっと苦しくしている理由
「ダメって言っちゃいけない」「否定的な言葉は使わない方がいい」そんな言葉を、どこかで聞いたことはありませんか。ノースカロライナの冬は、日本よりも少し穏やかです。 娘が庭で枝を振り回しながら遊んでいる横で、私はコーヒーを片手に、ある母親の言葉を思い出していました。「否定しない子育てを心がけているんです。でも、気づいたら私の方が息苦しくて」その方は、娘さんが道路に飛び出しそうになっても「ダメ」と言えず、「こっちの方が楽しいよ」と誘導し、食事中にお皿を投げても「投げたかったんだね」と受け止め続けていました。そして、ある日限界が来た。 怒鳴ってしまった自分に、激しく自己嫌悪した。「私、やっぱり母親失格なんでしょうか」その言葉を聞いたとき、私は思ったのです。 否定しない子育ては、誰を守るためのものだったのだろう、と。「否定しない」が「何も言えない」にすり替わった私たちは「否定的な言葉が子どもを傷つける」と学びました。 それは、確かに真実です。でも、いつの間にか「否定すること=悪」という図式が、親の心に刷り込まれてしまった。その結果、親は「ダメ」と言えなくなり、子どもは「世界にはルールがある」ことを学べなくなり、親子の間に、言葉にならない息苦しさが積もっていく。心理学の世界では、これを「過度な肯定的育児の逆説」と呼びます。子どもの自己肯定感を守ろうとするあまり、親が自分の感情や境界線を押し殺し続けると、子どもは逆に「世界の手応え」を感じられなくなる。 そして、親もまた、自分の感情を否定し続けることで、燃え尽きていくのです。子どもに必要なのは「境界線」アメリカの心理学者ジョン・ゴットマンは、健全な親子関係には「感情の誠実さ」が必要だと述べています。 つまり、親が自分の感情に正直であることが、子どもの情緒的な発達を支えるということ。「ダメなものはダメ」 「今は無理」 「それは危ない」そう伝えることは、否定ではなく、境界線を示すことなのです。娘が2歳のころ、スーパーでお菓子を欲しがって床に寝そべったことがありました。 周りの視線が痛い。「否定しちゃいけない」と思った私は、優しく説得しようとしました。 でも、娘は泣き続ける。私の声は届かない。そのとき、隣にいたアメリカ人のおばあちゃんが言ったんです。「You don't have to explain everything, honey. Sometimes "no" is enough.」(全部説明しなくていいのよ。時には「ダメ」だけで十分)その言葉に、ハッとしました。私は「否定しない子育て」を目指すあまり、娘の感情を受け止めるよりも、自分が"良い母親"であることを証明しようとしていたのです。親の誠実さが、子どもの安心になる「否定しない子育て」が苦しくなるのは、それが親の誠実さを奪うから。子どもは、親の言葉そのものよりも、親がどれだけ自分に正直かを感じ取ります。 無理に笑顔を作って「いいよ」と言う親よりも、少し困った顔で「今はダメ」と伝える親の方が、子どもには安心なのです。もちろん、頭ごなしに怒鳴ったり、人格を否定したりすることは避けたい。 でも、「ダメ」と伝えることと、「あなたを否定すること」は、まったく別のものです。「それはダメ」は、行動への境界線。「あなたはダメ」は、存在への否定。この違いを、私たちはもう一度、思い出していいのではないでしょうか。「権威的でありながら温かい」育児発達心理学者のダイアナ・バウムリンドは、「権威的でありながら温かい」育児スタイルが、子どもの健全な発達を最も促すと述べています。それはつまり、ルールはあるけれど、感情は受け止められる。 ダメなことはダメだけど、あなた自身は愛されている。そういう関係性です。ノースカロライナの公園で、こんな場面を見ました。男の子が滑り台の順番を守らず、何度も横入りしていました。 母親は最初、優しく「順番ね」と声をかけていましたが、5回目には、きっぱりと言いました。「No. You need to wait your turn.」(ダメ。順番を待ちなさい)そして、男の子を滑り台から離れた場所に連れて行き、落ち着くまで一緒に座っていました。男の子は泣いていました。 でも、母親は抱きしめてはいたけれど、「いいよ」とは言わなかった。数分後、男の子は自分で立ち上がり、滑り台の列に並びました。 そして、順番が来たとき、得意げに滑っていったのです。その光景を見ながら、私は思いました。 あの母親は、息子を否定したのではない。 息子が社会の中で生きていくために必要な"手応え"を、与えたのだと。境界線が、次の選択肢を生む否定しない子育てが目指したのは、きっと「子どもの心を守ること」だったはずです。 でも、いつの間にか、それは「親が何も言えなくなること」にすり替わってしまった。本当に子どもの心を守るのは、 何でも受け入れることではなく、 誠実に境界を示し、それでもあなたを愛していると伝えることなのではないでしょうか。娘が枝を振り回しているのを見て、私は言いました。「それ、危ないからやめてね」娘は一瞬、困った顔をしました。 でも、枝を置いて、私のところに来ました。「ママ、じゃあ何して遊べばいい?」そのとき、私は気づいたのです。 子どもは、境界線を示されることで、次の選択肢を求めることができるのだと。あなたが自分に正直でいることが、安心になる否定しない子育てに疲れたあなたへ。「ダメ」と言っていいのです。 「今は無理」と伝えていいのです。それは、子どもを否定することではなく、 子どもが世界と向き合うための、確かな地図を手渡すこと。あなたが自分に正直でいることが、 子どもにとって、何よりも安心な場所になる。そのことを、忘れないでいてください。🎥 YouTubeでも詳しく解説しています「お母さんの一言」は、子どもの心の中で一生鳴り続ける「お守り」にもなり得ます。動画では、発達心理学に基づいた、子どもの未来を明るく照らす具体的な声かけについて、より詳しくお話ししています。1.「未来」を分ける、親のたった一言日常の中で何気なく発している言葉が、子どもの「自分ならできる」という確信をどう左右するのか。成功する子の親が大切にしている「認め方」の本質を解説しています。2.「母の関わり」が自己肯定感の根っこを作る声かけを「技術」ではなく「習慣」に変えるためのヒントです。特別なことを言う必要はありません。子どもの自己肯定感を無理なく、着実に高めていくために、お母さんが今日からできる9つのことをお伝えします。3. 何気ない瞬間が「未来」を変える理由言葉そのものだけでなく、その背景にある親の「態度」や「行動」が、子どもの脳の発達にどう影響するのか。発達心理学の視点から、親子関係が子どもの将来の可能性を広げる仕組みを紐解きます。▼ チャンネル登録はこちらから現役ママの育児×心理ノート(YouTubeチャンネル)「育てにくさ」が「愛おしさ」に変わるヒントを、心理学の視点から定期的にお届けしています。