何も、言わない。

とっぷりと暮れた夜。
二人がそこに存在するだけの時間が、とめどなく流れてゆく。
彼が何もいわないからといって、さつきもまた何をいうでもない。
特にお互い険悪であるとか、そういったことは全くない。むしろ、その逆だ。
お互いを知り、信頼しあっているからこそこの沈黙を続けることができる。

「なぁ、さつき?」
「ん?なぁに?」

にっこりと、微笑みながら返事をしてくる彼女を愛しいと思えば。
自分の頬も自然と緩むのがわかる。
目を合わせて尚、それでもお互い何もいわずに。やがて、その沈黙の意味を解ったかのように、どちらからとなく目をそらして元に戻る。

さつきは、洗濯したメンバーのユニフォームを几帳面にたたみ、赤司は手元にある分厚いハードカバーの本をひらいて、。
内容を深く読み込むのではない。ただ、文字の羅列に目を滑らせるだけだ。
そして、空いている方の手でそばにあるティーカップを持ち上げ、丁度良い温度で待機していた中身をすいっと口に含む。

よくある恋人同士のように、べたべたとくっついては、今日は何があってどう思ってなんだったのか、みたいな他愛のない話に花を咲かせるということは、2人の間には存在しなかった。
いつも、こうしてお互いにそれぞれの事をしながら同じ時間を過ごしているだけ。
しかし、それに不満は塵ほどもない。むしろ、それで満ち足りている。

必要なことは、きちんと言うし、言わないということはつまり、必要でないことだということ。
赤司が、他愛のない話を延々とするようなタイプでないとさつきは知っていたし、さつきがそんな赤司を理解しているということを赤司も知っていた。

だから。

「さつき、今日は…」




「月が、きれいだね」