■主題:Excelのマクロを有効にしてダイエットを始める
萌華(もか)はこのところ会社に通うのが楽しくてたまらなかった。
厳密には会社に通勤することや社内で仕事をすることではない。
毎日、帰る時間が待ち遠しかったのだ。
きちんと定時で帰れるように仕事にも気合が入るようになった
この時間萌華(もか)にはやることがあった。
それは、「ダイエットプログラム管理プログラムプログラム」だ。
おかしな言葉のように響くだろう。
ダイエットプログラムを管理するプログラムをプログラミングするということだ。
略して「DPMPP」。
萌華(もか)の編み出した隠語だ。
今日も定時がやって来た。
萌華(もか)は座席から首を伸ばし遠くの方の席を眺めた。
「よし、二人とも定時だ。」
萌華(もか)の心は踊った
遠くの席でもいそいそと片づけを始めていた。
萌華(もか)も大急ぎで片付けをした。
「おつかれさまで~すっ」
萌華(もか)は元気よくあいさつすると会社を飛び出した。
会社から出ると駅とは20メートルくらい逆方向に歩き、コンビニの軒下に入った。
5分ほどすると迦皇(かのん)が出てきた。
迦皇(かのん)も駅と反対の方を見つめていた。
「お疲れ様です」
「ゴメン、待った」
「いえ、全然待ってないです。またDPMPPのこと教えてください」
ふたりは駅へ向かって歩き始めた。
『ああ、こうして歩いていると恋人同士に見えるかなぁ。』
「それで、今日はどこから始めますか」
「昨日、私、家でExcelマクロやろうとしたんですけど、そもそもできなかったです」
「どうして」
「会社のパソコンにはあるのに、家のパソコンにはマクロがなかったんです。」
「もしかしてWEB版を使っているんですか」
「ちゃんとした製品版です。うちの養鶏場でもExcelは使うので、ちゃんと買ってあります。」
「じゃあ、もしかして、『開発』のリボンが見つからないだけですか?」
「そうです。『開発』が表示されてないからです。」
「そうですか。それは、[ファイル]メニューから[オプション]を選択して、[リボンのユーザー設定]タブを開いて『開発』にチェックを入れるんですよ。あと最後に[OK]ボタンを押すのも忘れないでくださいね。」
「そうなんですね。」
駅に向かって歩きながらだったから、口で説明されてもちゃんと覚えていられるか不安だった。
「後で画面のハードコピー送りますね。」
「助かります。」
「それと、やった方がいいことっていうのもあるんですよ。」
「何ですか?」
「それは列の表示を変えておくことです。」
「あの上の方に並んでいるA、B、C・・・ってところですか?」
「そうです。それを1、2、3に変えておきます。」
「そんなことできるんですか?」
「できるんですよ。R1C1形式って言います。プログラミングの時はセルを数字で読んだ方が便利なことが多いので、これはやっておいた方がいいです。」
「やりかたは、これも[ファイル]ー[オプション]まで選ぶのは同じで、『数式』タブの中の『R1C1参照形式を使用する』にチェックを入れて[OK]ボタンです。これもスクリーンショット送りますね。」「なんか何から何までありがとうございます
」
ふたりは恵比寿駅に着いた。
「あっ、ちょうど埼京線が来ますけど、どうしますか」
「大宮駅で地下から歩かないといけないけど、埼京線にしましょうか」
迦皇(かのん)は萌華(もか)の策略に乗ってきた。
二人の帰宅ルートは大宮駅まではいっしょだ。
ただ、迦皇(かのん)は湘南新宿ライン高崎線で萌華(もか)は湘南新宿ライン宇都宮線になる。
2つの路線は大宮駅で分離する。
湘南新宿ラインだと大宮駅でどちらかが降りて終わりである。
埼京線を利用した場合は、埼京線だけが使用する地下ホームから、地上に上がり、宇都宮線、高崎線が到着するまでコンコースにあるカフェなどで一緒に時間を過ごすこともできるのだ。
しかも、各駅停車だったらゆっくり話もできて、途中で座れる可能性もあるのだ。
通勤快速なら38分なのが各駅停車だと50分かかりそれだけ長く一緒にいられる。
「あっ、もうすぐ電車来ちゃいますね。走りましょう」
頑張ってダイエットをしているとはいえ、まだまだ太っていて重たい萌華(もか)は思うように走れなかった。
萌華(もか)のトレードマークと化している大型画面のノートパソコン入りのリュックは重たく、さらに萌華(もか)の動きを鈍くさせた。
ちょっとビールが飲みたくなるメロディーが流れた。
あと一歩のところでドアが閉まった。
「ごめんなさい。行っちゃいました」
「いいですよ。あと5分で次も来るし、次は各駅だから少しは空いているかもしれないですし」
萌華(もか)はこれこそ災い転じて福となすだと思った。
上がってしまった息を整えているうちに次の電車が来た。
ドアが閉まると迦皇(かのん)の方から話しかけてきた。
「ところで、萌華(もか)さんはどうしてダイエット始めたんですか」
直球勝負な質問だった。
まさか、痩せてきれいになって彼氏のひとりやふたり作りたいと思ったからなんて言えるはずもなかった。
「実は、浦埼主任にあこがれてて、同じようになりたいなって思って・・・」
「えっ」
新入社員の迦皇(かのん)の目から見て同じ島で仕事をしてる美咲は、いつもバタバタ、ワタワタしていて、あこがれるような対象ではないように思えた。
「そうなんですね。浦埼主任、いつも忙しそうにしてますもんね」
「それもありますけど、すらっとしてかっこいいから・・・」
「なるほど」
「それでダイエット始めたら、じいちゃんが協力してくれて、それにかあさんとばあちゃんも加わって」
「へ~」
「じいちゃんったらすごいやる気になっちゃって、全員でダイエット外来も通うようになって、食事の量を減らすんだって、一人ずつ取り分けるお重まで用意しちゃったんですよ。」
「ああ、それで、お父さんとお兄さんたちは大皿で食べてて、萌華(もか)さんとかはお重にしていたんですね。」
「そうなんですよ」
「でも、おじいちゃん、すごい気合ですね。」
「じいちゃんは萌華(もか)のためなら何でもしてくれるから・・・」
ついつい一人称が家にいるときと同じになった。
「萌華(もか)さんって自分のこと萌華(もか)って呼んでるんですね」
「あっ、いや、はい、まあ、そのぅ・・・」
「それにしてもおじいちゃんは準備がいいですね。もしかしてシステム開発に向いているかもしれないですね」
「無理ですよ。じいちゃん、ガラケーだってちゃんと使えないんですから」
「まあ、年が年ですから仕方ないでしょう。でも、システム開発も下準備がすごく大切なんですよ」
萌華(もか)はこれまでの経緯を思い返してみた。
確かに、じいちゃんが先回りして、いろいろ手筈を整えてくれていたのは大きかった。
じいちゃんが家族を巻き込んでくれなかったら少食になった萌華(もか)は家庭内で笑いものにされていたのは間違いなかった。
萌華(もか)の運転免許の一件もそうだ。
免許取得前にじいちゃんが車を買ってくれてしまったせいで、完全に逃げ道を塞がれたといってもよい。
養鶏場の経営や農協や自治会のことはよく分からないが、来る人来る人みなじいちゃんに世話になっていると言う。
そんな風に言われるのはじいちゃんだけだ。
「確かに、じいちゃんは根回しうまいかもしれないです」
「システム開発も根回しですよ。Excelで作るなら、Excelをシステム開発に向いているように設定しておかないといけないです」
「わかりました。頑張ります。」
To Be Continued...
■登場人物紹介■
大関 萌華(おおぜき もか)
美咲と同じエンジェルスシンジケートで経理課に勤める。
Hカップの巨乳の持ち主といえば聞こえがよいが、肥満の家系に生まれ育つ。
子供のころのあだ名は横綱。
コルセットで急にカッコよくなった美咲にいち早く気づきコルセットダイエットを決意する。
美咲と同じ電車で通勤している。
美咲より数駅遠い町で祖父母と両親、兄3人と暮らす。
水判土 迦皇(みずはた かのん)
元フリーのSE。
萌華(もか)の兄の塁の友達の弟。
萌華(もか)が片思いを寄せている。
浦埼 美咲 (うらさき みさき)
主人公28歳。独身。彼氏あり。
恵比寿のアパレルメーカー(エンジェルスシンジケート)でネットやカタログ向けの画像加工を行う部署でお仕事中。
自宅は大都会埼玉の大宮駅から少し先のJRの駅からすぐのところに家賃8万円の1LDKに乗り換えなしで職場に通えるというだけの理由で一人暮らし。
性格は周りから周りからちょっとちやほやされてみたい気もするけど、目立つのは苦手という結構ありがちなタイプ。
案外見栄っ張りな一面もある。
本庄 歓波(ほんじょう わいは)
エンジェルスシンジケートの珍入社員でどこまでも問題児。
自分の気に入ったものにはとことん固執するのにそれ以外はとことんずぼら。
早合点で超短絡思考でおバカを絵にかいたよう。
自分勝手な性格と誤解されやすく取りつきづらいイメージを持たれ孤立しがち。
しかし本当は・・・。
岩槻 陽菜
23歳。
美咲の勤める会社で派遣社員をしている。
社内ではかなりイケているルックスの持ち主。
美咲は彼氏さんの「陽菜ちゃんってかわいいよね」の一言でやきもち持ちを焼いたことから、勝手に美のライバル視している。
陽菜本人はどう思っているかは定かではない。
というかまだ未設定。
阿倍 沃(あべ よう) 商品開発部長
会社で一番の美人で、モデルもこなし、仕事もできる。
社長の愛人という根の葉もない噂もある。
女子社員は陰で「倍沃」(べよう)と呼んでいる。
本人はそれに気づいているが、そのことはまんざらでもないらしい。
なぜなら倍沃(べよう)はコルセットダイエットの一番人気のバーヴォーグ(Burvogue)の漢字名だからである。
そして今では美咲にとってのコルセットの師匠でもある。
戸田 由喜枝
正社員なのになぜか不定期出勤で誰もが一目置く存在。
ミシンの達人であっという間にあらゆる服のお直しをしてしまう。
ミステリアスな存在である。
秋ヶ瀬 翔太
美咲の彼氏で同僚。
お人好しで頼まれたら断れない性格。
美咲にだけはなぜかやたら強気。
それ以外は未設定。
須賀谷メロ、森掛(もりかけ)桜、倍賞泉花(せんか)
WEB営業部WEB企画課の三人組
リーダー格で意地悪な須賀谷メロ
嘘付きの森掛(もりかけ)桜
強欲の倍賞泉花(せんか)
社内ではいわゆる腫物だが、本人たちは・・・
神園社長
美咲が務める会社(エンジェルスシンジケート)の社長。
高校生の娘がいる。
妻沼WEB営業課課長
美咲の直属の上司風。
課付きの課長なので実際には部下はいない。
理屈っぽく行動力はない。
ハゲデブで脂ぎっている
川里経理課長
萌華(もか)の直属の上司。
寡黙でなんでも他人事の態度。
貧相なガリガリ出っ歯。
大関一家(年齢順)
祖父:寅(とら)
祖母:桂(かつら)
父 :健人(けんと)
母 :貴理子(きりこ)
長男:塁(るい)
次男:コナン
三男:三斗(さんと)
長女:萌華(もか)
トリサミットソン社(やしろ)先生
旧姓は小川。
両親が経営する白蓮総合病院の内科医。
ダイエット外来を担当している。
大関一家に毎週土曜日ダイエットレクチャーを実施。
■作者紹介■
)プロクビレイター(のAbooです。
世界中のウエストを くびれ させることが野望のプロのクビレイターです。
クビレイトに欠かせないものといえばコルセット
コルセットで肋骨を引き締めることでアンダーバストからヒップにかけて整形級のボディラインを作っちゃおうっていう痩身術です。
世間ではコルセットダイエットなんて呼ばれています。
コルセットダイエットの必須アイテム