今日は阿倍部長の命令で春日部倉庫に直行することになった美咲。
普段は、JR宇都宮線土呂駅から乗り換えなしで恵比寿駅という通勤ルートで混みこそするが大変なものではない。

土呂駅から春日部倉庫の最寄り駅の一ノ割駅へ行くのはなかなか大変だ。

まず、土呂から大宮まで1駅だけ乗り、改札を出て東武野田線まで歩いていき、今度は春日部までゆっくりと揺られていく。

春日部でまた東武スカイツリーライン、旧東武伊勢崎線に乗り換えてまた1駅だけで降りるのである。

なかなか乗り継ぎが面倒なのだガーン

しかも、首都圏でもっとも恥ずかしいと言われる東武野田線は本数も少ない。

 

 

美咲は何とかして一ノ割駅にたどり着いた。

これがすべての元凶の始まりだった。
普段使わない電車に乗って緊張したせいか、もよおしてしまっ男性トイレ女性トイレたのだ。

幸いにも私鉄だ。
トイレはきちんとしているグッド!

美咲は迷わず多目的トイレに駆け込んだ。

ヒミツ天からのAbooの囁きヒミツ

どなたでもご利用になれます」となっているときは多目的トイレを使うことがおすすめです。
もちろん長い時間占拠するのはよくないですが、普通のトイレだと狭すぎてコルセット直すのに十分なスペースがないことあります。
それと多目的トイレにはかなり高い確率で鏡もついているのでコルセットを正しく着けられたか確認するのに便利です。
何よりも長く垂れたコルセットの紐が便器に落ちる心配がかなり低くなります。


すっきりした気持ちでコルセットを着けなおしていると翔太からの電話が鳴ったスマホ
トイレの中で電話がかかってくると本当に焦るものである。
取るべきか、取らぬべきか、トイレの中だと悟られぬように取るべきか、電車の中だったとあとで言い訳して取らぬべきか・・・。

美咲は画面に表示された赤いボタンを押した。

電話に出るのをやめたのだった。

もしかしたら、翔太がもう着いたのかもしれない。
美咲はそう思った。

大急ぎでコルセットを締めあげトイレから出た。

駅舎から出ると翔太がすでに車で待機していた。

いかにも営業車という感じのワゴン車の助手席に乗った。
これが実は2つ目の災難だったのかもしれない。

「おはよう。待ったはてなマーク

「おぅ、お前電車と違うタイミングで出てきたなえー

「えっガーンそうはてなマーク

「もしかして、うんこうんちえー

男というのは一度手に入れた女性に対して急になんでもありの失礼な物言いに変わる生き物である。

「うわ~。フツーそゆこと言うムキー

「ま、いいや、行くぞ。」

「春日部倉庫って近いのはてなマーク

「そんな遠くないけど、歩きじゃ絶対無理爆  笑

「へ~」

美咲はナビ画面をなんとなく眺めていた。

駅からどんどん離れていき、国道4号線にあたった。
それを突っ切り、再び国道4号線が現れた。

そこを左折してどんどん進んでいった。

右に南桜井駅、左に藤の牛島駅と出た。
この二つの駅は大宮から乗ってきた東武野田線の駅だ。
つまり、このどちらかの駅で拾ってもらえれば乗り換えは一度きりで済んだはずだった。

こういうことがあると嫌な予感がよぎってくるものである。

しばらくすると前方に国道16号線が現れた。
これを右に行ってちょっと行けばもう千葉県だ。

翔太はそのまま国道16号を渡った。

ここまでも十分田園風景だったが、いよいよ田んぼ中という感じになった。

そんな中に点在する倉庫のひとつ美咲の会社が使っている倉庫であった。
倉庫の外見からはエンジェルスシンジケートの名はなく渋井倉庫といかにも昔ながら運送会社が好きそうな太い筆文字の看板がかかっているだけだった。

「ここだ。行くぞニコニコ
「うん。」

「お前まさかその格好で行くつもりかはてなマーク

美咲は外出ということでスーツを着込んでいた。
しかもタイトスカートだった。

「だめはてなマーク
「中、めっちゃ埃っぽいぞえー

翔太が折りたたまれた後部座席の隙間からいつ使ったのかわからない社名ロゴの入ったジャンパーを取って渡してくれた。

 

 

「とりあえずこれ着とけビックリマーク

「なんか、これ着た方がブラウスが汚れそうだけどえー

「いいから!!後で洗濯すればいいだろ。」

渋々着替えて渋井倉庫の中に入っていくと、いかにもという感じの作業着姿のおじさんがいた。

「お世話になります。今日はうちの在庫見に来ました。あと、こっちは同僚の浦埼です。」

「あっ、ど、ども。お世話になりますあせる

「なんだ、姉ちゃん。怖くねえよ爆  笑なんかあったら声かけてくれよ。」

そういうと倉庫のおじさんは後をつけてきた。
なんかあったら声かけてと言いつつ思いきりへばりついてんじゃん。
美咲はそう思った。

翔太の言う通り倉庫内はなんとなく埃っぽかった。

「これ全部うちのはてなマーク

美咲はそういうと右の方に進んでいった。

「姉ちゃん、そっちは別の会社のだ。」

そう、美咲の会社は倉庫の一角を借りているだけだったのだ。

翔太がどこからどこまでが在庫なのか教えてくれた。

「あの上の方まで全部うちのびっくり
「そうだよ。」
「でも、あんな高いとこ取れないよ爆  笑
「気合と根性で登って取るんだよ笑い泣き
「絶対嘘笑い泣き

「おじさんすみません。あそこの在庫おろしてもらっていいですかはてなマーク

「ほんとにあれでいいのかいはてなマーク

「いいです。今日はそれを見に来たんでニコニコ

するとおじさんはどこかへ行ってしまい、ほどなくして地響きのような低い音が地面を伝わってきた。
おじさんはフォークリフトを取りに行っていた。

「じゃあ、兄ちゃん、これおろすぞ。」

「あっ、それじゃないです。その隣のですあせる

「ほんとにこれ下すのかいはてなマーク

「はい、お願いします。」

パレットに載せられ大量に積まれた段ボールのうち特に埃まみれのものだった。
華麗なハンドルさばきで埃だらけの段ボールがおろされてきた。

「すみません。荷捌き場も借りていいですかはてなマーク

「おお、場所作っておいてあるぞ。」

作業台がひとつぽつんと置かれたすぐ横に埃まみれの段ボールがおろされた。

「あっあとは大丈夫です。シュリンクの時にまた呼びます。」

地面に下ろされた段ボールが巻き上げた埃で美咲はすでに顔に埃を浴びていた。
埃がファンデーションにまとわりついて痒いような、痛いような、熱いような感じだった。

翔太が渡してくれたいつ洗濯したのかわからない会社のジャンパーが十分きれいに感じられた。

「美咲、これ全部開けて、中見てこいって阿倍部長が言ってたぞ爆  笑
「うわ~、ほんとにこれやるのガーン
「やるぞ。」

翔太が一番上の段に積まれた段ボールの口を次々と開けていった。

開けるたびに埃が舞った。
ファンデーションにべったりと積もり始めた埃がチクチクして仕方なかった。

もうここまで来たら破れかぶれだ。

美咲は翔太が開けてくれた箱から中身を漁り始めた。
地面に置いた段ボールに頭を突っ込み、次々と作業台の上に並べていった。

商品を包装したポリエチレンの袋が静電気を発し、真っ黒い汚れを吸寄せた。
それを素手で触ったから手も真っ黒になった。
袋まで開けて服を取り出したら服が汚れることも間違いなかった。
美咲は袋から商品を取り出すことはしないことにした。

作業台はすぐにいっぱいになった。

翔太はおじさんに声を掛け即席の作業台をこしらえてもらった。

プラスチック製のパレットを何段か重ね、その上に養生シートを敷いただけのものだったがなかなか使いやすかった。

気が付けばもう2時間も同じ作業をしていた。

もう少しで全部の商品を広げられる。

美咲は夢中で商品を台の上に種類ごとに並べていった。

そしてとうとう並べ終わった。

「やっと終わったねニコニコ
「おう、じゃあ、手荒って来いよニコニコ
「うん、そだね。」

緊張がほぐれた美咲に激痛が走った。

コルセットが思いきりずれてしまっていたのだ。

これだけ屈んだり立ち上がったりを繰り返せば当たり前のことだった。

しかも一ノ割駅のトイレで大急ぎでコルセットを着けなおしたせいで正しく締め上がっていなかったようだった。


『うわ~、ヤバいガーンでも手を洗いに行くついでにコルセットを直してくればいいか。』

「翔太、トイレどこはてなマーク

「おぅ、外の鉄骨階段の下だけど、お前トイレ行くのかはてなマーク

「うんショボーン

「ふ~ん。がんばれよ爆  笑

美咲は意味が分からなかったが、とりあえず外に出て、鉄骨階段を探した。

倉庫に隣接して建てられた2階建てのプレハブ小屋が目に入った。
そこには工事現場であるような武骨な階段があった。
階段の下には、いわゆる仮設トイレが設置されていた。

渋井倉庫の公式トイレはこれだったのだガーン

美咲に衝撃が走った。

『うわ~、これじゃあ、絶対コルセット付け替えできないじゃんガーン

美咲は手だけ洗って翔太の元に戻った。
コルセットが容赦なく肋骨にあたって痛かった。
思わず脇腹の上あたりを手で押さえていた。

「大丈夫か美咲はてなマークまさかぎっくりかえー
「そんなんじゃないもんえーん
「でも辛そうじゃん。」
「う、うん。大丈夫ガーン

ちょうどその時白いSUVが倉庫前に乗り付けてきた。
運転席のドアが開くと中から阿倍部長が出てきた。

「お、秋ヶ瀬お待たせビックリマークどう、進んでるはてなマーク

「ええ、まあ。」

「美咲ちゃんもお疲れ様。大変だったでしょうニコニコ

「は、は、は、はい。」

阿倍部長はすぐに美咲の異変に気が付いた。

「御免、秋ヶ瀬、ちょっと女子トークがあるからえー

そう言って、美咲は阿倍部長と席を外した。

「美咲ちゃん、大丈夫はてなマーク

「実は、あまり大丈夫じゃ・・・ショボーン

「まさか今もコルセットしてるのはてなマーク

「はい。」

「ずれちゃったはてなマーク

「はい。かなり。」

阿倍部長は美咲を自分の車の方へ連れていき後部ドアを開けてくれた。

「車の中でコルセット外しちゃいなさいニコニコ
「す、すみませんあせる

美咲はスモークガラスの後ろでもぞもぞと体を動かし、四苦八苦しコルセットを外した。
こんなときにタイトスカートで来るのは本当に間違いだと思った。
スカートのファスナーを狭い車内で外したまではよかったが、今度はきちんとブラウスしまい込んでファスナーを締めるのは容易ではなかった。

美咲の肋骨はやっと解放された。

美咲は大急ぎでコルセットを筒状にした。
ちょうど終わるころ美咲のバッグを阿倍部長が持ってきてくれた。

コルセットは無事バッグの中に収まった。

「美咲ちゃん、お腹空いたはてなマーク

そう言われると、さっきまでそれどころではなかった美咲はなんとなくお腹が空いてきたような気がした。

美咲は助手席に移動し、後部座席には翔太が乗った。

「この辺はたいしたものないけど大丈夫はてなマーク

「あっ、なんでも大丈夫ですニコニコ

美咲は痛い思いをした甲斐があったのか思わぬご馳走にありつくことになるのであった。


To Be Continued...


■登場人物紹介■

浦埼 美咲 (うらさき みさき)

主人公28歳。独身。彼氏あり。
恵比寿のアパレルメーカー(エンジェルスシンジケート)でネットやカタログ向けの画像加工を行う部署でお仕事中。
自宅は大都会埼玉の大宮駅から少し先のJRの駅からすぐのところに家賃8万円の1LDKに乗り換えなしで職場に通えるというだけの理由で一人暮らし。
性格は周りから周りからちょっとちやほやされてみたい気もするけど、目立つのは苦手という結構ありがちなタイプ。
案外見栄っ張りな一面もある。


大関 萌華(おおぜき もか)

美咲と同じエンジェルスシンジケートで経理課に勤める。
Hカップの巨乳の持ち主といえば聞こえがよいが、肥満の家系に生まれ育つ。
子供のころのあだ名は横綱。
コルセットで急にカッコよくなった美咲にいち早く気づきコルセットダイエットを決意する。
美咲と同じ電車で通勤している。
美咲より数駅遠い町で祖父母と両親、兄3人と暮らす。

大関一家(年齢順)

 祖父:寅(とら)
 祖母:桂(かつら)
 父 :健人(けんと)
 母 :貴理子(きりこ)
 長男:塁(るい)
 次男:コナン
 三男:三斗(さんと)
 長女:萌華(もか)

本庄 歓波(ほんじょう わいは)

エンジェルスシンジケートの珍入社員でどこまでも問題児。
自分の気に入ったものにはとことん固執するのにそれ以外はとことんずぼら。
早合点で超短絡思考でおバカを絵にかいたよう。
自分勝手な性格と誤解されやすく取りつきづらいイメージを持たれ孤立しがち。
しかし本当は・・・。

阿倍 沃(あべ よう) 商品開発部長

会社で一番の美人で、モデルもこなし、仕事もできる。
社長の愛人という根の葉もない噂もある。
女子社員は陰で「倍沃」(べよう)と呼んでいる。
本人はそれに気づいているが、そのことはまんざらでもないらしい。
なぜなら倍沃(べよう)はコルセットダイエットの一番人気のバーヴォーグ(Burvogue)の漢字名だからである。
そして今では美咲にとってのコルセットの師匠でもある。


秋ヶ瀬 翔太

美咲の彼氏で同僚。
お人好しで頼まれたら断れない性格。
美咲にだけはなぜかやたら強気。
それ以外は未設定。

水判土 迦皇(みずはた かのん)

元フリーのSE。
萌華(もか)の兄の塁の友達の弟。
萌華(もか)が片思いを寄せている。

岩槻 陽菜

23歳。
美咲の勤める会社で派遣社員をしている。
社内ではかなりイケているルックスの持ち主。
美咲は彼氏さんの「陽菜ちゃんってかわいいよね」の一言でやきもち持ちを焼いたことから、勝手に美のライバル視している。
陽菜本人はどう思っているかは定かではない。
というかまだ未設定。


戸田 由喜枝

正社員なのになぜか不定期出勤で誰もが一目置く存在。
ミシンの達人であっという間にあらゆる服のお直しをしてしまう。
ミステリアスな存在である。

神園社長

美咲が務める会社(エンジェルスシンジケート)の社長。
高校生の娘がいる。

妻沼WEB営業課課長

美咲の直属の上司風。
課付きの課長なので実際には部下はいない。
理屈っぽく行動力はない。
ハゲデブで脂ぎっている

川里経理課長

萌華(もか)の直属の上司。
寡黙でなんでも他人事の態度。
貧相なガリガリ出っ歯。

トリサミットソン社(やしろ)先生

旧姓は小川。
両親が経営する白蓮総合病院の内科医。
ダイエット外来を担当している。
大関一家に毎週土曜日ダイエットレクチャーを実施。


■作者紹介■

)プロクビレイター(のAbooです。
世界中のウエストを くびれ させることが野望のプロのクビレイターです。
クビレイトに欠かせないものといえばコルセット!
コルセットで肋骨を引き締めることでアンダーバストからヒップにかけて整形級のボディラインを作っちゃおうっていう痩身術です。
世間ではコルセットダイエットなんて呼ばれています。