火曜日の朝、朝早く来ることだけが取り柄と揶揄される歓波(わいは)はコルセット出勤DAY2を迎えていた。

気合と根性で生きてきた彼女は、コルセットは限界まで締め上げてきていた。

昨日は背筋(せすじ)はやたらとピンとして、1時間も座っていれば太ももの付け根は圧迫されるわ、肩回りも痛くなってくるわの状態だった汗

もしかしたらまだ何かやり方がおかしいのかと思い、一番心を許せる萌華(もか)が来るのを待っていた。

間もなく始業時間を迎えるというのに萌華(もか)は現れなかった。
他人のことなんかあまり気にしないはずの歓波(わいは)は、萌華(もか)が来ないことが心配になってきたショボーン

もちろんその間もコルセットは情け容赦なく歓波(わいは)の肋骨を締め上げていた。

「主任なら何か知ってるかなぁショボーン

そう思い美咲の方を眺めると、おっかない顔をして画面を睨みつけていた。
空気を読めない歓波(わいは)もさすがにこれは声を掛けちゃ悪いと思った。

とうとう始業時間になったが萌華(もか)は現れなかった。

今日歓波(わいは)に渡された仕事は画像の切り抜きだった。

中国から送られてきた屋外でのモデル撮影画像から背景を切り取れというものだった。

モデルは青みが買った白の毛足の長いフェイクファーを着ていて、背景は赤レンガだった。
それに青空が反射したビルを背景に合わせるというのだ。

画像なんて加工すればどうにでもなると思われがちだ。

しかし、実際にはそうではない。

2枚の画像を合成する場合は光源があっていないといけない。
反射光が入り込むような素材同士の時は背景色が似たものでないといけない。

輪郭が複雑にけば立ったような形状のものはそもそもうまく切り抜くこともできない。

そして加工痕を目立たなくさせるために解像度の高い画像でないといけない。

歓波(わいは)に渡されたものはまったく加工に向くようなものではなかった。
指示を出したのは須賀谷だった。

多少でも画像加工に携わったことがあるものなら、これは単なる嫌がらせであることは容易に想像できるものだった。

しかし、歓波(わいは)は何一つ文句言わずに引き受けた。

「本庄さんムキーこっちばっかりジロジロ見ないで、少しは手をうごかしてよむかっ

倍賞になじられた。

追い打ちをかけるように森掛(もりかけ)がたたみかけた。

「美咲主任も本庄は使えないから首にした方がいいって言ってたよ。」

そんなはずはないことは歓波(わいは)はもちろん知っていた。
つい一昨日萌華(もか)の家族といっしょにバーベキューや流しそうめんも楽しんだばかりだ。

「どうでもいいけど私たちの足引っ張らないでよねムキーもうじろじろ見るのやめてくれるムキー

歓波(わいは)は別にジロジロ見ていなかった。

コルセットで背筋が完全に伸びていて画面の上から顔が飛び出してしまうだけのことだった。

歓波(わいは)には2つの選択肢が頭をよぎった。

一つは目の前の三人組をまとめてボコってしまうことだった筋肉
しかし、もう事件は起こさないと誓っていた歓波(わいは)にはこれを選択する理由はなかった。

もうひとつは、目の前のどうにもなりそうもない画像をなんとか加工することだった。

歓波(わいは)はとりあえず人物の部分を直線で大きく切り抜いた。
そしてそのまま指定された背景の上に重ねた。

思っていたよりもいい感じだったグッド!

画像の継ぎ目を消してなじませたとしたら、白色のフェイクファーに反射した赤色のレンガの色が絶対に青い背景とは合わないととわかっていた歓波(わいは)は、継ぎ目の部分の左上のふちに沿ってハイライトを入れ、逆側の右下にシャドーを施した。

これだけだと2枚の別々の画像にしか見えないから自然になじむように画像を貫くようにざらつき感を出した。

たいした加工ではないのでものの数分で終わった。

歓波(わいは)は思った。

「上手くできたラブ

歓波(わいは)はあえて背景と完全に合成せず、人物の映ったシールを貼ったような感じにしたのだ。

画像をどう加工するかはかなりの部分WEBチームの裁量に任されるが、提出先は商品開発部門だ。

歓波(わいは)は渡された無理難題の画像を彼女なりのセンスでできる範囲で仕上げていった。

出来上がった画像が並んだエクスプローラのサムネイルはまるで画像投稿サイトのように賑やかになっていたラブ

歓波(わいは)は出来上がった画像を提出先フォルダにどんどんアップロードしていった。

WEBチームのアップロードしたファイルは他のWEBチームのメンバーは閲覧や加工どころかアクセスものできない。
これは、過去に誰かのファイルを別の人が消してしまったという事件があって大騒ぎになったことからすべて自己責任で片づけられるようセキュリティをかけているからだ。

その時ファイルを消したとされるのが美咲で、消されたのが森掛(もりかけ)だっということになっている。

11時を回ったころ、歓波(わいは)は渡された仕事を全部終わらせていた。

「須賀谷さん、終わったっすえー

「えっはてなマーク嘘でしょ。終わるはずないんですけどえー

「マジで終わったっすえー

「どうせ真面目にやってないんでしょ。あんたがちゃんとやらないと怒られるのはこっちなんだからムキー

すると内線が鳴った。
普段は内線が鳴ってもすぐに出ることがない倍賞がすぐに出た。

彼女らは内線を回してきているのが誰か確認をして、ヤバそうなものはすぐに出るようにしていたのだ。

今回は阿倍部長からだった。

「メロちゃん、桜ちゃん、倍沃(べよう)に呼ばれたよガーン

須賀谷メロ、森掛(もりかけ)桜、倍賞泉花(せんか)の3人は阿倍部長の元へと走っていった。

3人は5分もしないうちに戻ってきた。

「本庄さん、なに倍沃(べよう)に吹き込んだのムキー
「私たちのことチクってんじゃないよムキー
「いつか絶対ばれるからムキー

歓波(わいは)には何のことかわからなかった。
とはいっても大体想像はついていた。

ほどなく大声が響いた。

「本庄!!

阿倍部長が何戦ではなく大声呼んだ。
歓波(わいは)は手を挙げて応えた。

そのまま、阿倍部長のところへ行った。

「これ、本庄でしょニコニコ

安陪部長の画面には歓波(わいは)が今さっき作った画像が映し出されていた。

「そうっすえー

「森掛(もりかけ)の指示じゃないよねニコニコ

「じゃないっす。何すかはてなマーク

「センスいいなって思ってラブラブラブ音譜

「そんなことないっすえー

「で、何言われたのえー

「なんもないっす。」

「なんか言いたいことあるんじゃないのはてなマーク

「ないっす。あ、そういえば今日モカッチャ見てないっすえー

「えっはてなマーク大関のことはてなマーク

「そうっす。」

「今日はあなたのモカッチャはお休みです。そこに書いてあるでしょ。」

「そうっすか、どうしたんすかねショボーン

「本庄歓波(わいは)!!

「何すかはてなマーク

「お前は社会人としてもっとちゃんとしないといけないなえー

「それよく言われますあせる

「じゃあ、今日はしごいてやるから、一緒にお昼いくよ。席に戻ってよし。」

「はあ、じゃあ、お昼にまたここ来ればいいっすねニコニコ

「いいすっよ笑い泣き

「じゃあ、後でまた来ますニコニコ

「歓波(わいは)ちゃんニコニコ

「何すかはてなマーク

「キマってるねニコニコ

そういってコルセットをした歓波(わいは)の背中をポンポンと二度叩いた。


To Be Continued...


■登場人物紹介■

浦埼 美咲 (うらさき みさき)

主人公28歳。独身。彼氏あり。
恵比寿のアパレルメーカー(エンジェルスシンジケート)でネットやカタログ向けの画像加工を行う部署でお仕事中。
自宅は大都会埼玉の大宮駅から少し先のJRの駅からすぐのところに家賃8万円の1LDKに乗り換えなしで職場に通えるというだけの理由で一人暮らし。
性格は周りから周りからちょっとちやほやされてみたい気もするけど、目立つのは苦手という結構ありがちなタイプ。
案外見栄っ張りな一面もある。


大関 萌華(おおぜき もか)

美咲と同じエンジェルスシンジケートで経理課に勤める。
Hカップの巨乳の持ち主といえば聞こえがよいが、肥満の家系に生まれ育つ。
子供のころのあだ名は横綱。
コルセットで急にカッコよくなった美咲にいち早く気づきコルセットダイエットを決意する。
美咲と同じ電車で通勤している。
美咲より数駅遠い町で祖父母と両親、兄3人と暮らす。

大関一家(年齢順)

 祖父:寅(とら)
 祖母:桂(かつら)
 父 :健人(けんと)
 母 :貴理子(きりこ)
 長男:塁(るい)
 次男:コナン
 三男:三斗(さんと)
 長女:萌華(もか)

本庄 歓波(ほんじょう わいは)

エンジェルスシンジケートの珍入社員でどこまでも問題児。
自分の気に入ったものにはとことん固執するのにそれ以外はとことんずぼら。
早合点で超短絡思考でおバカを絵にかいたよう。
自分勝手な性格と誤解されやすく取りつきづらいイメージを持たれ孤立しがち。
しかし本当は・・・。

阿倍 沃(あべ よう) 商品開発部長

会社で一番の美人で、モデルもこなし、仕事もできる。
社長の愛人という根の葉もない噂もある。
女子社員は陰で「倍沃」(べよう)と呼んでいる。
本人はそれに気づいているが、そのことはまんざらでもないらしい。
なぜなら倍沃(べよう)はコルセットダイエットの一番人気のバーヴォーグ(Burvogue)の漢字名だからである。
そして今では美咲にとってのコルセットの師匠でもある。


秋ヶ瀬 翔太

美咲の彼氏で同僚。
お人好しで頼まれたら断れない性格。
美咲にだけはなぜかやたら強気。
それ以外は未設定。

水判土 迦皇(みずはた かのん)

元フリーのSE。
萌華(もか)の兄の塁の友達の弟。
萌華(もか)が片思いを寄せている。

岩槻 陽菜

23歳。
美咲の勤める会社で派遣社員をしている。
社内ではかなりイケているルックスの持ち主。
美咲は彼氏さんの「陽菜ちゃんってかわいいよね」の一言でやきもち持ちを焼いたことから、勝手に美のライバル視している。
陽菜本人はどう思っているかは定かではない。
というかまだ未設定。


戸田 由喜枝

正社員なのになぜか不定期出勤で誰もが一目置く存在。
ミシンの達人であっという間にあらゆる服のお直しをしてしまう。
ミステリアスな存在である。

神園社長

美咲が務める会社(エンジェルスシンジケート)の社長。
高校生の娘がいる。

妻沼WEB営業課課長

美咲の直属の上司風。
課付きの課長なので実際には部下はいない。
理屈っぽく行動力はない。
ハゲデブで脂ぎっている

川里経理課長

萌華(もか)の直属の上司。
寡黙でなんでも他人事の態度。
貧相なガリガリ出っ歯。

トリサミットソン社(やしろ)先生

旧姓は小川。
両親が経営する白蓮総合病院の内科医。
ダイエット外来を担当している。
大関一家に毎週土曜日ダイエットレクチャーを実施。


■作者紹介■

)プロクビレイター(のAbooです。
世界中のウエストを くびれ させることが野望のプロのクビレイターです。
クビレイトに欠かせないものといえばコルセット!
コルセットで肋骨を引き締めることでアンダーバストからヒップにかけて整形級のボディラインを作っちゃおうっていう痩身術です。
世間ではコルセットダイエットなんて呼ばれています。