歓波(わいは)の初コルセット装着は何とか無事終わった。

歓波(わいは)の提案に萌華(もか)のおかあさんが全面的に乗っかりなぜかファッションショーまで行った。
時計は正午を回り間もなく1時に差し掛かろうとしていた。

ノリノリになっていた3人はケラケラと笑いながら萌華(もか)の部屋で過ごしていた。

あたりからいい香が漂ってきた。
3人の会話が止まって一瞬静かになると、外では何か大がかりなものがガタガタと音を立てていた。

「もうすぐご飯になると思いますけど、どうしますかはてなマーク

「どうしますかってはてなマーク

「コルセット、外しますかはてなマーク

「う~ん。」
「ワイはせっかくできたから外したくないっすニコニコ
「でも歓波(わいは)ちゃん、そんなにコルセット締めてご飯食べたら苦しいよえー

「そだね、萌華(もか)ちゃんの言うとおりだね。思い切って外しちゃおうかニヤリ

「主任もそういうならワイも外してもいいっすニコニコ

美咲と萌華(もか)は、いつも通り手慣れた手つきでさっとコルセットを外し、外したコルセットを巻物のようにした。

「モカッチャ、ヤバいっすあせる

見ると歓波(わいは)はコルセットがぎゅっと締まってしまって外れなくなっていた。

「歓波(わいは)ちゃん・・・。着け方だけじゃなくて外し方もか・・・」

「血相もない汗

「もしかして歓波(わいは)ちゃんって『血相もない』をはやらせようとしてるはてなマーク

「別にしてないっす。ワイの周りだとみんなそう言うっすニヤリ

「それって多分みんな歓波(わいは)ちゃんの真似してるだけだと思うよ。」

「それはそうと、どうしたらいいすかはてなマーク

美咲は歓波(わいは)のコルセットの編み上げに指を引っかけて、コルセットを緩めてあげた。
しかし、いつも自分のコルセットを緩める時のようにするするとは緩まなかった。
『まだ、コルセットが新しいからかな』
美咲はそう思った。

ヒミツ天からのAbooの囁きヒミツ

姿勢が悪いとコルセットは締まりづらいし、緩みづらいです。

コルセットを美咲に緩めてもらった歓波(わいは)は、外したコルセットを筒状にまとめていた。

ドンドン。

襖戸を叩く音がした。
美咲的にはこれがノックと思えるものではなかった。

「開けるぞ」

か細い若い男の声だった。

襖戸がちょっとだけ開いた。
まるで覗きでもするかのような微妙な開き方だった。

「今行くから開けないでムキー

萌華(もか)が大声を上げた。

そんな言葉を無視するかのように襖戸がゆっくりと開き始めた。

「お父さん、だからやめてって言ってるでしょ!!

萌華(もか)が再び叫んだ。
美咲は襖戸の向こうに若い男の影を見た。

「萌華(もか)ちゃん、お父さんじゃないよえー

「嘘、絶対あり得ない!!何でムキー

そこに立っていたのは一番下の兄の三斗であった。
そしてなぜか妙に恥ずかしそうにしていた。

「ご、ごめん。」
「だからそうやってデリカシーないから女子から嫌われるんだよ!!

「ご、ごめん。め、めし、ご、ご、ご、ごはんできたから呼びに・・・」

「それなら、外から呼べばいいじゃん。なんで、女子の部屋に入ろうとすんのはてなマークこのヘンタイ痴漢モロゲッソヨ!!

歓波(わいは)が突如笑い出した。

「モカッチャはいいなぁ、兄弟がいておねがい

「そんなことないよ。邪魔なだ・・・むかっ

「どうしたの、萌華(もか)ちゃん、急にはてなマーク

「へっ!?

色白の萌華(もか)の顔が耳まで真っ赤にして、急に大笑いし始めた爆  笑

萌華(もか)は完全にあっけにとられたようだった。

いつもはぼさぼさ頭で、ときどきジーンズのチャックが開いていたりとどこまでもだらしのないのに、今日に限って頭を固め、ずいぶん前の親戚の集まりか何かのときにだけ一度だけ着たチノパンを穿いていた。
どれだけ大量のヘアジェルを塗ったくったのか、髪の毛はパリパリになり櫛目に沿って乾いて固まったジェルが白く粉を吹いていた。

後で萌華(もか)から聞いた話だがそれはあり得ないことだったらしい。

三斗の顔も真っ赤だった。

「兄ちゃん、美咲さんは彼氏いるから、兄ちゃんには1ミリもチャンスないから爆  笑

「か、かまわねえよえー

三斗の視線は全く美咲と合っていなかったから、萌華(もか)の予想は間違っているだろうと確信した。

「とにかく、お食事をいただきましょうニコニコ
「そうっすね。いい匂いっす。早く食べたいっす。」

三斗に付いて3人は庭に向かった。

庭を見た美咲は驚いた。

さっきから漂う匂いからバーベキューバーベキュー左バーベキュー真ん中バーベキュー右はあるなと思っていたが、まさかの大がかりな装置まで登場していた。

その装置は物干し台から始まり10メートルほど延び、軽トラの荷台に架けられていた。
装置を挟むように会議テーブルが左右に2基ずつ並べられていた。

よく見ると、装置の上には水道のホースが付けられ、軽トラの先には大きなタライが置いてあった。

「なんすかこれはてなマークピタゴラスイッチみたいっす。」

「歓波(わいは)さんが多分こういうのやってみたかったんじゃないかな思ってニコニコ

萌華(もか)のおかあさんが答えた。

昔ながらの農家の作りを楽しむ歓波(わいは)をもっと喜ばせようと流しそうめんを準備してくれていたのだ。
これは美咲にとっても初めての体験である。

心が躍った。
食欲もわいてきた。
『コルセット外してよかったぁラブ今日はチートデーでいいや爆  笑

大盛りの肉や野菜、萌華(もか)の家でとれた新鮮な卵などが縁側にうずたかく積まれていた。

各自にバーベキューを取り分けるお皿と、なぜか流しそうめん用にはふ2つおちょこが配られた。

「お客様は上流に並んでください。」

そういうと大関家の8人は、生卵をおちょこに落とした。
美咲と歓波(わいは)は麺つゆを入れた。

どうやら大関家ではそうめんも生卵で食べるようだびっくり

美咲は急に思い出した。
いきなりそうめんはヤバい。
ベジファーストをしないといけない。

そうするとバーベキューを先にするべきだ。

しかし、みんな並んで待っているから、列から外れるのも申し訳ない。
いくらダイエット至上主義に徹していたとしても人間関係を破壊するほど固執することはよくない。

そのまま流しそうめんに参加することにした。

萌華(もか)のお母さんがそうめんを流し始めた。

竹筒の上をそうめんが風流に流れてきた。
などということはなかった。

大食漢ぞろいの大関家の流しそうめんだ。
流れてくる量が尋常ではなかった。

箸でひとすくいの量ではなかった。

美咲は箸をのばした。

流しそうめんのすくおうとしたら箸の隙間をすり抜けて下流へと流れて行ってしまうなんてものではなかった。

箸にずっしりと引っかかった。

美咲は一口分だけすくおうと箸を上げた。

土石流のようになったそうめんは一糸乱れることなく下流へと落ちていった。

すぐ下で萌華(もか)がそうめんを堰き止めた。

萌華(もか)はすくったそうめんをおちょこに入れずざるに取った。

「美咲さん、半分こしましょうニコニコ
「そだね汗
「うちの量だから、すごいいっぱいです汗
「モカッチャ、ワイもちょっととっていいっすかはてなマーク

ふたりの行動から察した萌華(もか)は声を掛けた。

「おかあさん、多すぎだよ。もっと少しずつ流して」
「あらごめんなさい。」
「モカッチャママ血相もない爆  笑

歓波(わいは)の一言に、すすりかけていたそうめんを吹き出しそうになった。
美咲はむせた。

麺類を食べているときに笑かすのは本当に反則技である。
しかし歓波(わいは)の場合は天然だから何も言えない。

今度は旅行番組で見るくらいの量のそうめんが流れてきた。

歓波(わいは)がそうめんを捕まえようとしたが、あえなく逃げられた。
美咲もチャレンジしたが逃げられた。

またしても下流で待っていた萌華(もか)が捕まえた。

そんなことが3度ほど続き、その都度萌華(もか)からそうめんをもらっていた。

「萌華(もか)ちゃん上手だねニコニコ
「慣れれば大丈夫ですよウインク

何度かチャレンジしたのち、ついに美咲も歓波(わいは)も一度ずつそうめんをキャッチできた。

「そうめんは終わり~」

萌華(もか)のお母さんの一言に、美咲は少し残念に思った。

ひとつは一度しかそうめんをキャッチできなかったことで、もう一つは萌華(もか)のお兄さんたちがそんなに食べられなかったのではないかと感じたからだった。

しかし、萌華(もか)の家の大関四元豚と言われる男衆の態度は違った。

逆に目が輝きだしたのだ。

そうめんはなくなったはずなのに誰も席を外そうとせず、相変わらず上流を見つめていた。

「はい、じゃあ、次の行きますよ~。」

萌華(もか)のお母さんの号令で次のものが流され始めた。

そうめんよりも黄色みががかっていた。
一つ目は先頭に陣取っていた歓波(わいは)が見事にキャッチした。

お腹が空いているとかそういう問題でなく、流れてくるものをキャッチするのに夢中だった美咲は二つ目をキャッチした。

その塊はそうめんとは違って箸の間をすり抜けなかった。

見事に箸に絡みついた。

すく上げた物体を見て、下流の男性陣が目を輝かせていた理由がわかった。
その黄色みがかったものは、同じ麺類でもラーメンだったのだラーメン

まさかの流しラーメンを人生初体験していたのだ。

「ゴマダレで食べるとおいしいですよ。」
そう言って萌華(もか)がゴマダレをくれた。

美咲はあっという間に食べ干した。

『流しラーメン、斬新だけどいいかもしれない』
そう思った。

美咲は次に流れてきたラーメンをすくい上げた。
そしてすぐに食べ切った。

その直後、美咲に思いがけない感覚が訪れた。
急にお腹がいっぱいになったのだガーン

コルセットというリミッターを解除してるにもかかわらずだ。
すすった回数はそうめん4回とラーメン2回だけである。

どう計算しても0.5人分程度しか食べていないはずであった。

しかし、この満腹感は、お腹が苦しいなどということはなかった。
むしろ、もう充分食事を楽しんだという感じのものだったのだ。

萌華(もか)の家で農家の朝食をご馳走になっていた美咲は、そもそも空腹ではなかった。
お腹が膨れるのを無理やり押さえつけるコルセットがなくても、いつもコルセットをしていたおかげで、胃が張るような感覚をもってお腹いっぱいと感じるのではなく、みぞおちの下あたりで口に入れたものが引っかかる感じがしただけでお腹いっぱいと判定するように脳内のプログラムが書き換わっていたのだ

しかも、流しそうめんは大量の水分といっしょに食べることになるから水分でもお腹を満たしていたのだ。

興奮してがっつく歓波(わいは)を尻目に美咲は少し食休みすることにした。

縁側に腰掛けると、もう一人食事の手を休める人を見かけた。
というよりもどちらかといえば食事が手に付かないような感じだった。

美咲は自分の席をその人に譲ることにした。

彼は頑なに口では辞退していた。
しかし、最後は「すみませんおねがい」と言って照れながら美咲が元居た場所についた。

萌華(もか)が「お兄ちゃんずるいよ」となじったがその場を動こうとしなかった。

そこには頭をジェルで異常に固め、チノパンを穿いた三斗が立っていた。
彼はなぜかラーメンが流れてくる上流ではなく、歓波(わいは)を見つめていた。

美咲は気づいてしまったガーン
「もしかして・・・」



To Be Continued...


■登場人物紹介■

浦埼 美咲 (うらさき みさき)

主人公28歳。独身。彼氏あり。
恵比寿のアパレルメーカー(エンジェルスシンジケート)でネットやカタログ向けの画像加工を行う部署でお仕事中。
自宅は大都会埼玉の大宮駅から少し先のJRの駅からすぐのところに家賃8万円の1LDKに乗り換えなしで職場に通えるというだけの理由で一人暮らし。
性格は周りから周りからちょっとちやほやされてみたい気もするけど、目立つのは苦手という結構ありがちなタイプ。
案外見栄っ張りな一面もある。


大関 萌華(おおぜき もか)

美咲と同じエンジェルスシンジケートで経理課に勤める。
Hカップの巨乳の持ち主といえば聞こえがよいが、肥満の家系に生まれ育つ。
子供のころのあだ名は横綱。
コルセットで急にカッコよくなった美咲にいち早く気づきコルセットダイエットを決意する。
美咲と同じ電車で通勤している。
美咲より数駅遠い町で祖父母と両親、兄3人と暮らす。

大関一家(年齢順)

 祖父:寅(とら)
 祖母:桂(かつら)
 父 :健人(けんと)
 母 :貴理子(きりこ)
 長男:塁(るい)
 次男:コナン
 三男:三斗(さんと)
 長女:萌華(もか)

本庄 歓波(ほんじょう わいは)

エンジェルスシンジケートの珍入社員でどこまでも問題児。
自分の気に入ったものにはとことん固執するのにそれ以外はとことんずぼら。
早合点で超短絡思考でおバカを絵にかいたよう。
自分勝手な性格と誤解されやすく取りつきづらいイメージを持たれ孤立しがち。
しかし本当は・・・。

阿倍 沃(あべ よう) 商品開発部長

会社で一番の美人で、モデルもこなし、仕事もできる。
社長の愛人という根の葉もない噂もある。
女子社員は陰で「倍沃」(べよう)と呼んでいる。
本人はそれに気づいているが、そのことはまんざらでもないらしい。
なぜなら倍沃(べよう)はコルセットダイエットの一番人気のバーヴォーグ(Burvogue)の漢字名だからである。
そして今では美咲にとってのコルセットの師匠でもある。


秋ヶ瀬 翔太

美咲の彼氏で同僚。
お人好しで頼まれたら断れない性格。
美咲にだけはなぜかやたら強気。
それ以外は未設定。

水判土 迦皇(みずはた かのん)

元フリーのSE。
萌華(もか)の兄の塁の友達の弟。
萌華(もか)が片思いを寄せている。

岩槻 陽菜

23歳。
美咲の勤める会社で派遣社員をしている。
社内ではかなりイケているルックスの持ち主。
美咲は彼氏さんの「陽菜ちゃんってかわいいよね」の一言でやきもち持ちを焼いたことから、勝手に美のライバル視している。
陽菜本人はどう思っているかは定かではない。
というかまだ未設定。


戸田 由喜枝

正社員なのになぜか不定期出勤で誰もが一目置く存在。
ミシンの達人であっという間にあらゆる服のお直しをしてしまう。
ミステリアスな存在である。

神園社長

美咲が務める会社(エンジェルスシンジケート)の社長。
高校生の娘がいる。

妻沼WEB営業課課長

美咲の直属の上司風。
課付きの課長なので実際には部下はいない。
理屈っぽく行動力はない。
ハゲデブで脂ぎっている

川里経理課長

萌華(もか)の直属の上司。
寡黙でなんでも他人事の態度。
貧相なガリガリ出っ歯。

トリサミットソン社(やしろ)先生

旧姓は小川。
両親が経営する白蓮総合病院の内科医。
ダイエット外来を担当している。
大関一家に毎週土曜日ダイエットレクチャーを実施。


■作者紹介■

)プロクビレイター(のAbooです。
世界中のウエストを くびれ させることが野望のプロのクビレイターです。
クビレイトに欠かせないものといえばコルセット!
コルセットで肋骨を引き締めることでアンダーバストからヒップにかけて整形級のボディラインを作っちゃおうっていう痩身術です。
世間ではコルセットダイエットなんて呼ばれています。