著作者人格権のみなし侵害(113条11項)を認めなかった事例

 

▶平成28年1月22日東京地方裁判所[平成27(ワ)9469]▶平成28年6月9日知的財産高等裁判所[平成28(ネ)10021]

3 争点(2)(被告の行為が原告Aの著作者人格権のみなし侵害行為に当たるか)について

(1) 原告Aは,被告が原告著作物を許可なく複製し,本件オークションサイトに,『★☆オマケとしてご希望の方には 精神工学研究所の【DB法】のPDFファイルとAさんの【催眠術の掛け方〔専門版〕自己催眠編】のデータをお付けします。』などと記載し,原告著作物を「オマケ」として頒布した【行為が,原告著作物の価値に対する社会的評価を著しく低下させ,その結果,その著作者である控訴人Xに対する社会的評価を低下させるおそれがある行為であることを理由に,】被告の上記行為は著作権法113条6項[注:11項]の著作者人格権のみなし侵害行為に当たる旨主張している。

ところで,同条項の「著作者の名誉又は声望」とは,著作者がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的名誉声望を指すものであって,人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価,すなわち名誉感情は含まれないものと解すべきである(最高裁判所昭和61年5月30日第二小法廷判決参照)。

(2) 本件についてみると,被告の上記行為は,原告著作物を原告らの許可を得ることなく複製し,DVD-Rに記録して複製物1枚を作成し,本件オークションサイトにおいて,原告著作物を複製したもの(データ)を第三者の発行したDVDのおまけとして頒布する旨記述し,原告著作物の複製物を落札者に送付したというものである。原告Aが,原告著作物を「オマケとして」「お付けします」などと記述されたことによって名誉感情を害されたことは理解できるとしても,上記記述を付して原告著作物の複製の頒布が一度申し出されたことによって,それを見た通常人が,原告著作物の内容が,上記第三者の発行したDVDに付加価値を与えるものであると考えることはあっても,【原告著作物の価値についてまで思いを巡らせ,それが価値のないもの,あるいは著しく価値の低いものであるなどと認識することが通常であるとはいえず,更には,原告著作物の著作者に対する評価を低下させることが通常であるともいえないから】,被告が,上記記述をしたことや,無断で原告著作物を複製,頒布をした行為が,原告Aの社会的評価を低下させる行為であるということはできない。そうすると,被告が,原告Aの名誉又は声望を害する方法により原告著作物を利用したと認めることはできない。

したがって,被告の行為は,原告Aの著作者人格権のみなし侵害行為に当たらないから,その余の争点につき判断するまでもなく,【控訴人Xの著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求及び謝罪広告請求】には

いずれも理由がない。

 

[控訴審]

2 控訴人Xの当審における追加請求の可否)について

控訴人Xは,被控訴人が控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複製権,頒布権)を侵害する不法行為を行ったことによって控訴人会社の代表者としての控訴人Xが精神的苦痛を受けたとし,このこともって控訴人Xの被控訴人に対する慰謝料請求の根拠となる旨主張する。

しかしながら,控訴人Xの被控訴人に対する慰謝料請求が認められるためには,被控訴人の行為が控訴人Xとの関係で不法行為を構成することが必要であり,そのためには,被控訴人の行為が控訴人Xの権利又は法律上保護される利益を侵害するものであることが必要となる(民法709条)。しかるところ,被控訴人が原告著作物を複製・頒布した行為は,原告著作物の著作権者である控訴人会社との関係では,その権利(著作権)を侵害する不法行為を構成することが明らかであるものの,原告著作物の著作権者ではない控訴人Xとの関係では,同人のいかなる権利又は法律上保護される利益を侵害することになるのかが不明というべきである。控訴人Xは,自らが控訴人会社の代表者であり,控訴人会社の著作権侵害によって精神的苦痛を受けたことをその主張の根拠とするが,会社の代表者たる個人が,当該会社に帰属する著作権に関して当然に何らかの権利や法律上保護される利益を有するものではないから,控訴人Xが控訴人会社の代表者であることのみをもって,控訴人会社の著作権を侵害する行為が控訴人X個人の権利又は法律上保護される利益をも侵害することが根拠付けられるものではなく,そのほかにこれを根拠付け得る事情も認められない。

以上によれば,控訴人会社の原告著作物に係る著作権(複製権,頒布権)侵害を理由とする控訴人Xの慰謝料請求には理由がない。

【より詳しい情報→】http://www.kls-law.org/