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チャイムが鳴る少し前に二年C組の教室に入ると、後ろの方に人だかりができていた。
「何かあったの?」私は輪の一番外側にいた珠美の肩を叩いて聞いた。

「あ、千恵子」珠美は私を輪から少し離れたところまでひっぱると、声をひそめていった。

「大変よ。今日子がゆうべ、塾の帰りに自分の<ダブル>を見たんだって」
「ダブル?」私は首をかしげた。
「何それ」

「千恵子、ダブルを知らないの?」珠美がまるで宇宙人でも見るような目で私を見た。
「自分とまったくおんなじ人のことよ」
「そっくりさんのこと?」
「そうじゃなくて・・・・」珠美はいらいらしたように拳を振り回した。
「なんていうか、自分の生命エネルギーみたいなものが、自分からぬけだして形になったものなの。だから、自分のダブルを見た人は、四十八時間以内にもう一度ダブルを見つけないと死んじゃうのよ」
「え」と私は目を丸くした。
「大変じゃない!」
「そうなのよ」珠美は、やっとわかったか、というように腰に手をあてた。

「だから、今日の放課後、みんなで手わけして今日子のダブルを探しに行こうかって話してたんだけど・・・・。」
「ふうん・・・・。」私は皆に囲まれて、泣きそうな顔をしている今日子を見た。今日子は小学校のときから『幽霊を見た』とか『金縛りにあった』といっては、皆の注目を集めることが多かった。

そういう話にまったく興味がない私は、本当かな、と思いながら、自分の席についた。

その日の放課後、「いっしょに今日子のダブルを探しに行かない?」と誘う珠美に、「今日は家庭教師がくるから」と断って、私は真っすぐ家に帰った。家庭教師の山岸さんは、近所に住んでる大学生のお兄さんで、私が受験しようとしている高校の出身ということを聞いてたお母さんが、家庭教師をお願いしてくれたのだ。

「先生、ダブルって知ってますか?」授業の合間の休憩時間、お母さんが持ってきてくれた団子をつまみながら、山岸さんに聞いてみた。

「ダブル?」
「はい、もう一人の自分、っていう意味らしいんですけど・・・」私は、今日学校で珠美から聞いた話をくり返した。
「ああ、それなら聞いたことがあるよ」熱いお茶を飲みながら、山岸さんは笑った。
「『ドッペルゲンガー』みたいなものだね」
「『ドッペルゲンガー』?」私は口の中でくり返した。なんだかふしぎな響きの言葉だ。山岸さんはうなずいて、
「ドイツ語で<二重に歩く者>っていう意味なんだけど・・・たとえば、エレベーターに乗ろうと歩いてたら、着ている服は勿論、髪型や靴、持っているかばんまでまったくおんなじ人がすぐ目の前をあるいている。その人が、ひと足先にエレベーターに乗ってこちらを振り返ると、自分とまったく同じ顔をしてにやりと笑った―――――これが『ドッペルゲンガー』なんだ」

私はゾクっとした。今朝、珠美に聞いたときは別に怖くなかったのに・・・やっぱり話し方のちがいだろうか。
「昔から、自分の『ドッペルゲンガー』を見ると、近いうちに死ぬといういい伝えがあってね、有名なあところでは、あの芥川龍之介やゲーテも『ドッペルゲンガー』を見ているらしい。
「それじゃあ、ダブルっていうのは何ですか?」
「ダブルは最近広まりだした怪談のことで、基本的には『ドッペルゲンガー』と同じなんだけど、違うところもあるんだ。まず、『ドッペルゲンガー』の場合は『見たら死ぬ』なんだけど、ダブルの場合は『ダブルを見てから四十八時間以内に死ぬ』と期限がきめられている。その代わり、ダブルにも助かる方法があるらしい。」そういえば珠美もそんなこと言ってた。
「四十八時間以内に、そのダブルを見つければいいんでしょ?」
「ところが、それだけじゃだめなんだ」山岸さんは笑って首をふった。
「そのダブルに気づかれないように近づいて、自分の体をダブルとぴったり重ねないといけないらしい。そうすれば、ダブルは吸収されて、消えてしまうんだってさ」ふうん、と私はつぶやいた。
「けっこう大変なんですね」
「まあ怪談だけどね」山岸さんは笑って、椅子の背もたれに大きく体をあずけた。


次の日。今日子は朝から休んで高校生の姉と一緒にダブルを探しているらしい。そこまでしてダブルが見つからなかったらどゆう言い訳をするつもりだろう。――――――私はちょっと心配になったけど、どうせダブルなんていないとすぐ思い直した。

その日の放課後。どうやら今日子はまだダブルを見つけていないらしく、女子生徒は探すのを手伝いに行ったけど私は塾があったのでまっすぐ帰った。その塾の帰り道。私は今日子の姿を見かけた。誰かを探していない様子で商店街でぶらぶらしていた。やっぱりダブルを探してるなんて嘘だったんだ―――――――私はちょっと脅かしてやろうと思い今日子の後ろからこっそり近づいた。そして、
「今日子、ダブルは見つかった?」肩をポン、とたたきながら声をかけた。

今日子はびっくりしてゆっくりとこちらをふりかえった。そして今日子はニヤリと笑い肩越しに視線をうつしていた。私がふりかえるとそこには今日子がいた。今日子は私をじっと睨んでダブルが消えたほうに走っていった。
「今日子…。」

今日子は思っただろう―――――『もぅちょっとだったのに』と―――――。

さぁアナタはこの話を読んでしまいましたね――――。
さて、、、今アナタの後ろにいるのは誰でしょう・・・・。

終る



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