「何でも一つだけ、 望むものが手に入るとしたら

何が欲しい?」


ぼんやりと 反芻した君は


「かぞく が いいな」


と つぶやいたね。




吐息にのせて、しゃぼん玉を生み出すように

そっと つぶやいて。



僕の視線が 問いただすかのように

感じたのだろうか

すぐに笑って ごまかして。



そんな様子に

ツキリ と 胸がきしんだ。




本当に さびしがりや なのだから。


孤児というわけでもあるまいに。


親とともに 生活しているというのに。


それなのに

「かぞく」が ほしいというのかい。



さびしがりやの くせに

家族に わがままを言わない君。


だからかい?


気がねなく 甘えられる存在としての 

「かぞく」というものをほしがるのは。



「良い友達に恵まれている」


そういって笑った君。


それでも


「友達と家族って同義語ではないのよね」


そうも言った君。



ねえ、今でもまだ 寂しいのかい。


エンヌ。



あぶなっかしいと 思わない?

エンヌのことよ。 エチエンヌ。


あのこを見てるとね、時々、人間じゃないものを相手にしているような

気になることがあるわ。


これは、あたしの推測でしかないいんだけどさ。

エンヌって本当は何にも興味がないんじゃないかな。


なんか、なにもかもどうでもいいって

思ってそうで、ときどき不安になる。


ふらっといなくなっちゃいそうで。

気がついたらきえてそうで。

あぶなっかしくてさ。


まあ、ジャンがいる限り

大丈夫とは思うけどね。


「笑わないといけないから

 笑ってるっていうのは、 

 笑顔じゃないよ。

 無表情とおなじ」


ねえ、あれは

爆弾発言だったのよ わたしにとって。



貴女に言われて

ひどく動揺したわたしが いた。


言った本人は 忘れているかもしれないけれどね。

チェル。