タイムリーなことに、今回新譜が発売されるのにあわせて、ロジャーと個人的にも繋がりのある濱田高志さん(ミシェル・ルグランをはじめ、私の興味があるフィールドのあちこちに登場してきます)を講師に迎えてのトークイベントが、9月29日土曜日に、お馴染みの御茶ノ水のESPACE BIBLIOで開催され、貴重な話を聞けたので併せてレビューしたいと思います。
ロジャー・ニコルスといえばまずはこの1枚、1967年にリリースされたロジャーとマクレオド兄妹(マレイ&メリンダ)による1stアルバム『Roger Nichols and the Small Circle of Friends』。今でこそ名盤の誉れ高いですが、発売当初はさほど話題にならず、アメリカですら数十年もの間廃盤だったり、当時日本でも国内盤としてのリリースはなく、一部の洋楽ファンの間でひそかに聴かれていたにすぎませんでした。
パイド・パイパー・ハウスの長門芳郎さんらが地道に宣伝活動をし、ピチカートファイブの小西康陽さんなどを巻き込んで、少しずつ業界の方々を中心に広まっていきました。
そして1987年に世界に先駆けて日本で初CD化されたのをきっかけに、一気にブレイクしました。
コンプリートとかデラックスとかタイトルに付いていますが、アルバムからの『Love So Fine』のシングルカットの際にカップリングされた『Let’s Ride』(ポールとの初共作)と、後にリリースされたシングル『The Drifter/Trust』(これらもポールとの共作)を含めたステレオ録音の15曲に、既発シングルの中からアルバムに収録されなかった4曲をピックアップし19曲というのが、いわゆるコンプリート盤。現在は1964年にRoger Nichols Trio名義で初録音したクリスマス用のノヴェルティソング『St. Bernie The Sno-Dog』を追加した20曲入りのものもリリースされています。
一方デラックス盤は2枚組で、1枚目がステレオ録音の15曲、2枚目のボーナスディスクがプロモオンリーだったモノラル盤の12曲にモノラルのシングル曲を9曲を加え、メキシコ盤の紙スリーブケースに入れたもの。マニア向けかとは思いますが。
さらに昨年(2017)、小西康陽さんが以前ライナーノーツに「こんなの欲しいよね」と書いていた、Roger Nichols Trio時代のシングルも含めた、すべてモノラルミックスの7inch 10枚組ボックスが国内リリースされたのが極め付けでしょうか。
海外の動きとしては、アルバム発売50周年を記念して、つい先日12inchLPにアルバム発売後の7inch『The Drifter/Trust』を加え、これら全15曲収録のCDを付けた限定盤がドイツのTapete Recordsからリリースされました(これでステレオもモノも比較的手軽にレコードで聴けるようになりました^ ^)。
そろそろこのアルバムに関する企画も出尽くしたのではないかと思いますが(^_^;)
さらに今秋には3人の監修者(長門芳郎さん、小西康陽さん、橋本徹さん)がそれぞれロジャーの作品からセレクトした曲をカップリングした7inch 3枚組のリリースが予告されていますが、どんな内容になるのでしょうか?
さて、1stアルバムのリリース後、マクレオド兄妹もそれぞれの道に進んでいったため、やがてトリオも自然消滅してしまいました。その頃紹介で知り合った同い年のポールとロジャーは、お互いの才能を評価し意気投合。ここに晴れてヒットチューンを連発することになるコンビが誕生しました。
カーペンターズに書いた『We’ve Only Just Begun 愛のプレリュード』『Rainy Days and Mondays 雨の日と月曜日は』『I Won’t Last a Day Without You 愛は夢の中に』は特に高い評価を受けました。
1970年のポールの個人名義のアルバム『SOMEDAY MAN』は全曲、このコンビでの作品で、プロデュースはロジャー。
この頃、売り込み用に作ったデモ音源がのちに正式にリリースされる『We’ve Only Just Begun』です。ヒットにつながった曲もあれば、デモオンリーになってしまったものもあります。
その後いろいろあってポールと決裂したロジャーは、CMなどを手がけたり(日本でもネスカフェのCMは有名)、細々と仕事をしていきますが、音楽シーンのメインストリームからは消えてしまいます。
1980年発売の竹内まりやさんのアルバム『Miss M』の中で『Heart to Heart』という曲の作曲者としてクレジットされていますが、これはカーペンターズの『NOW』と同じ曲(カレンの生前最後の録音)。もともとはCM用に書いた曲で、ともにこのカヴァーということですね。
そして発売から20年近くの時を経て、日本で前述のデビューアルバムが再評価(というよりほとんど初めて一般のリスナーの耳に届いた)され、復活を遂げました。このアルバムが音楽界に与えた影響は計り知れなく、90年代以降のポップスシーンの源流のひとつはここにあると言っても過言ではないでしょう。
しかし、細野晴臣さんや大瀧詠一さんらはオリジナルのリリースからほどなくしてこのアルバムに触れていたそうなので、彼らの残してきた70年代、80年代の音楽にも、そのエッセンスが取り込まれているのは間違いありません。
そんな復活劇とバブルが後押しし、日本発の2ndアルバム『BE GENTLE WITH MY HEART』(1995)がRoger Nichols and a circle of friends名義でリリースされました。ロジャーによるヒット曲のセルフカヴァーと新曲によるアルバムでしたが、SCOFのオリジナルメンバーとの録音ではなかったこともあり、結果的に評価は今ひとつでした。
この日本での流れの中でロジャーという作曲家に強い興味を示し、自ら積極的にアプローチしていったのが濱田高志さんです。ライナーノーツによれば、1994年ごろから連絡を取り合うようになったようです。
ロジャーの素晴らしい音楽に触れ、できる限りの曲を聴きたいと手紙を書き(FAXだったかな? 当時まだeメールはなかった。現在はSkypeだそうです)、時間をかけてやりとりしながら交流を深めていきました。根気よく説得し、未発表作品やデモ音源、CM作品などを掘り出していきます。
そんな中で、是非ともSCOFのオリジナルメンバーで新譜を出したいと、さらにプッシュ。その熱意はロジャーの重い腰を上げさせました。
ちょうどオリジナルメンバーが揃いやすい状況になった時期だったことも後押しし、そうして出来上がったのが、本当の意味での2ndアルバム『FULL CIRCLE』(2007)です。聴いていただければわかりますが、これぞまさに40年の時を経て復活したSCOFの音楽です。翌年にはデモ音源5曲を収録した盤もリリースされました。
これをきっかけに、2011年には小西康陽さんのソロプロジェクトPizzicato OneのカヴァーアルバムにRoger Nichols and the SCOF名義で参加し、映画「MASH」からジョニー・マンデルによる「Suicide is Painless もしもあの世に行けたなら」を演奏。さらに2012年には奇跡の3rdアルバム『MY HEART IS HOME』をリリースし、ソフトロックファンを狂喜させました。
ロジャーの信頼を得た濱田さんは、倉庫に眠っていた音源、およそ400曲以上を一括して託され、これらをデジタルに移行したりの地道な作業を経て、ロジャーと検討を重ねた末に生まれたのが、一昨年にリリースされた2枚組CD『Roger Nichols Treasury』になります。すべて未発表音源。
そしてさらに収録しきれなかった作品から厳選して、今回の『Roger Nichols Treasury Extra Tracks』のリリースとなりました(濱田さんが関わった既発の3枚はアナログでのリリースもありましたが、今回のアルバムはCDオンリーだそうです)。
これらに収録された曲たちの選定にはいろいろと紆余曲折があったそうで、濱田さんのトークではそのあたりのエピソードが語られました。
濱田さんのリストアップしたものをもとに、ロジャーと採用・不採用を決めていったそうですが、OKかと思いきや、ロジャーから新しいデモが送られてきて、「ぜひこれを入れたいんだけど」と。現役作曲家のロジャーとしては、過去のものより今の自分の作品を聴いて欲しいとのことなのですが、ファンの多くが期待しているのはSCOFのようなサウンドであって、CDが売れないご時世にロジャーの希望するような選曲は難しい状況。まあ、そんなことを何度も繰り返しながら、今の形におさまったとのことでした。
今回収録を見送った、ロジャーお気に入りの近作は、本人としてはどうしても公開したかったようで、まずはiTunesなどでネット配信され、やはり音盤にしたいとのことで、自主制作盤『Music for the fun of it』としてCD-Rでリリース、200枚限定で焼いたのだそうです。
ここからが、ロジャー、なかなかちゃっかりしていて、本人用の何枚かを除いて、「これ、よろしくね(売ってね)」と濱田さんに託すことに。いちおう公式なリリースなのだけれどCD-Rだし、ブートみたいで...ということで、ちゃんと本人による正規のものであるという証拠に、サインを入れてはどうかと濱田さんが提案。「そんなんでいいの?」ということで、写真のごとく仕上がったものを送ってきたそうです。
幸いネットを介した通販での売れ行きは好調で、今回のイベント時に濱田さんの預かった分は完売。「僕には1円も入ってきませんけどね」と苦笑されていました。
昨年、体調を崩して入院された時期があったのだそうですが現在は復帰して、お元気にマイペースな活動をされているそうなので、ひとまずは喜ばしいことです。
濱田さんは、「もう一枚、(CDを)作りたいんだよね」と話されていました。実現すれば嬉しいですけどね。でも、SCOFのような曲を聴きたいというと、「あんな曲はいくらでも書けるから、今は書かない」と言って、ここ5年くらいは地元の男性歌手と録音した最近のものなどを、「いい曲だろう?」と送ってくるのだそうです(^_^;)
中にはいい曲もあるけど、こういうのばかりじゃねと困っている濱田さんでした。
というわけで、こんな背景を踏まえつつの今回のイベント、前半は『Roger Nichols Treasury Extra Tracks』にも漏れてしまった音源を聴きまくるというものでした。濱田さんは入れたかったけど、ロジャーがノーと言ったものや、マスターテープの状態が悪く、商品としては復元が困難なもの、収録されている音源の別ヴァージョンなどなど、ここでしか聴けないレアなものでした。
後半は1982年にノルウェーのテレビ番組に出演した時のインタビューと演奏の映像約40分全編を鑑賞。この時の演奏は抜粋でレコードになっているそうで、それを知った濱田さんが映像は無いのかとロジャーに問い合わせ、発掘してもらったのが今回見せていただいたもので、動くロジャーを見たのは初めてでした。
というわけで、駆け足でロジャー・ニコルスの足跡を辿ってみましたが、リリースされている音源は決して多くはないので、まとめてロジャーの世界を聴いてみるのは如何でしょうか?
濱田さんは今後、ロジャーに関する著書『ロジャー・ニコルス クロニクル』(仮)を上梓する予定とのことで、ミシェル・ルグラン クロニクルのような素敵な本が出来上がってくるのを楽しみに待ちたいと思います。














