久しぶりに良い本を読んだ。

 

それはカナダの女流作家 アン・マイクルズの

「冬の眠り」という本。

 

時代は60年代位か?

エジプトのアスワンハイダムの工事の描写から

本は始まる。

そして続いてカナダの大西洋と五大湖を結ぶ運河の建設、

そして戦後のワルシャワの破壊の後の復興の様子へ。

 

この三つに共通しているのは「喪失」というキーワード。

 

人間が生活していた場所が、ダムや運河の為に

水没してしまう。

そして戦争によって破壊されてしまう・・という喪失感。。

 

そして喪失から癒しへのプロセスが

主人公カップルの妻が、死産を受け止めていく過程の中に

丹念に描かれている。

 

主人公夫婦の夫は建築家でダム建設にかかわり

妻は植物学を学んでいる。

 

妻は両親亡き後の実家に生えていた植物や種を

大事に持ち帰り、

夫の母の庭に移植したり、

死産の後、夫婦がうまくいかなくなって別居していた時には

住んでいる街のあちこちに、夜の闇に隠れて

苗を植えたりするような女性だ。

 

人間が住んでいる土地というものは

自然や樹木や植物、農作物、そして街や建物、人々

そして先祖が眠るお墓から出来ている。

 

それはそこの住んでいる人達とは

切っても切れない繋がりがある。

人間はその土地の一部であると言っても良いかもしれない。

 

ダムの為の水没という、

極端な破壊的力によってもたらされる喪失。

 

同じく恐ろしい暴力的な破壊力そのものの戦争によって

郷土と切り離された人間の弱さや、

それを乗り越えていかなくてはならない苦しみが伝わってくる。

 

最近テレビで「ぽつんと一軒家」という番組を

面白く見ているが、

この前はダム湖に沈んだ村の住人のエピソードを

やっていた。

丁度この本を読んだ後だったので

ひとしお感情移入して見てしまった事だった。

 

作家のアン・マイクルズという人は

詩人でもあるらしい。




 

道理で文章の感じがとても良い。

思索的哲学的な深いものが感じられる。

 

一度最後まで読んでしまった今、

パラっと本を開けて、どこからもう一度目を通しても

そこにある言葉や文章に又引き込まれて、色々感じられたり

気付きがあるような・・・

そんな気がする。

 

これは図書館から借りた本なので

返さなくてはならないが、

手元に置いて時々読み返したいから

買おうかなぁ・・とちょっと考えている。

 

久しぶりに良質な本に巡り合ったと思う。