消費者心理とマーケティング -消費者の気分(ムード)-
消費者心理とマーケティング -消費者の気分(ムード)- として、消費者の気分が消費行動に与えて影響について考えて行きます。
心理学の過去の研究から、人間のその時の気分というものは、人間の行動に大きな影響を与えることが分かっています。
(1)気分は消費者の行動に直接的な影響と間接的な影響を与えます。
直接的な影響とは、過去の経験上、良い結果をもたらされた行動を行い、悪い結果をもたらされた行動を慎むという傾向です(オペラント条件付け;Operant conditioning)。つまり過去の学習から得られた行動に気分は直接結びつくということです。
オペラント条件付けの例として、数年前(日経平均が8,000円台の頃)に株式投資を始めた人は、大幅な株価上昇という経験(学習)しているので、今後も(一時的なボーナスが入った場合など)株式投資を行いやすいが、最近(今年の4月頃)株式投資を始めた人は、急激な下落を経験(学習)しているので、今後、一時的なボーナスが入った場合などには株式投資に二の足を踏むということです。
また、ある色のスーツを来た時に繰り返し商談で失敗をし、そのスーツを商談時に着なくなるというのもオペラント条件付けです。
間接的な影響とは、消費者の気分の状態は、消費者の商品などに対する期待、実際の評価など(cognitive process)にも影響を与えるということです。良い気分の際は、悪い気分の際に比べて、同じ商品に対しても、より良い評価を下す傾向があることが言われています。
テレビCMに高感度が高く、良く見かけるタレントを使用することもその一例です。そのようなタレントの登場によって、消費者により良く、宣伝している商品を評価してもらおうという試みです。(広告に関しては今後扱います)
また店舗の雰囲気や店舗で流れている音楽、店舗の内装・外装の色などが消費者行動に影響を与えるのも、同じ論理です。ちなみに音楽によって顧客の店舗での滞留時間などは明らかに変わります。(この点に関しては、次回扱います)
(2)以降は、気分の良いケースと悪いケースについて考えて行きます。
基本的な考え方として、人間は気分が良いときはその良い気分を持続させたく、気分の悪いときは、その悪い気分を改善させたい(忘れたい)という性質を持っています。その人間の本源的な性質が消費者としての行動にも出てきます。
気分が良い (positive mood) 場合の研究結果はたいてい一致しています。
消費者は良い気分を自分にもたらすと期待できる行動を行います。
- 自己の存在価値を高める行為 (他人から認められたい)
- 自分の目標に近づける行為 (挑戦心が芽生える)
- リスクの高い行為への挑戦 (ハイリスクに関しても、思わず挑戦)
- 他人に対する親切な行為 (寄付、他人へのギフトなど)
- 他人とのふれあい、チームスポーツへの参加、友人との外出
大和総研の吉野アナリストがワールドカップの日本代表の試合の結果のサプライズと翌日の日経平均の騰落率の関係をコメントしていました(週刊朝日6月9日号)。サプライズのある勝利の翌日の株価は上がっているようです。これは、日本代表が思いがけなく勝ったことが、投資家の気分の高揚につながり、心の中にあった(1)株で儲けて自分の能力をアピールしたい、(2)株で儲けて *** を買いたいなどの欲求が表面化し、リスクへの態度も緩和することで、株式市場で投資する投資家が増えたからだと思います。
気分が悪い (negative mood) 場合の研究結果は一定していません。
ただし、気分を改善させる行為を行いたいという人間の本源的な欲求があることは事実です。
ここでは一部の見解を紹介します。
(1)衝動買いは消費者の気分の状態と関係があるという見解があります。
気分が悪い消費者がネガティブな気分の状況から脱するために、衝動買いをするという論理です。衝動買いは、物自体を購入するのではなく、買い物から得られる楽しみ・気分の高揚を購入するという一面があります。よって買い物による気分の高揚によってネガティブな気分を一時的に改善するのでしょう。(衝動買いについてはいずれ取り扱います)
(2)他人との交流よりも、自己完結する行為(読書、音楽を聴く、テレビを見る)をする傾向がある。
いやな気分のことを思い出さない行為をする傾向があります。
(3)中には、外出し、ネガティブな気分を忘れることができる行為(ショッピング、映画鑑賞など)を行うケースもあります。
(4)環境を変える行為も好みます。
新しい刺激を売ることでネガティブな気分を忘れる。
まとめとしましては、消費者の気分の状況は明らかに、直接的または間接的に消費者行動に影響を与えます。
通常の場合は、気分が良いほうが、より良い商品等の評価が得られるなどのメリットが得られるため好ましいと考えられます。
小売業の場合は、店舗の顧客を如何に気分良くさせるかによって結果が明らかに変わると思われます。些細なことで消費者の心理は変わりますので、改善の余地は大きいのではないでしょうか。
ここに関わる消費者心理学の研究は次回扱います。
また、メーカーの場合も、広告宣伝の方法などの行かせるのではないでしょうか。(既にかなり取り入れられていますが)
また商品開発へはまだ、充分生かせると思います。
キーワードは、ポジティブな消費者は、リスクを取り新しいことに挑戦することです。
ただし、気分の悪い消費者も衝動買いなどの例のように潜在顧客として充分魅力的です。
メーカーなどの商品開発にも十分生かせます。ネガティブな消費者はネガティブな気分を忘れたがっています。
ただし、注意すべきことは、ネガティブな気分の人は、同じ情報でも、よりネガティブに反応・評価しますので、気をつけるべきです。さもなければ、ネガティブな口コミなどに発展しかねません。
次回は、店舗の雰囲気が消費者行動に与える影響を扱います。
主な参考文献:
Kacen,J.J. (1994). Phenomenological insights in mood and mood related consumer behaviors. Advances in Consumer Research, 21, 519-525.
Ronald,J.F., & Christenson,G.A. (1996). In the mood to buy: Differences in the mood states experienced by compulsive buyers and other consumers. Psychology and Marketing, 13, 803-819.