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飲酒を断れない雰囲気をつくるアルコールハラスメント(アルハラ)による、若者の死亡事故が後を絶たない。二 年前、大学のサークルでの飲酒後に亡くなった一年生の男性=当時(20)=の母親(50)は、今も心の傷が癒えない。四月は新入生歓迎コンパの季節。「な ぜ死ぬまで飲まなければいけなかったのか」を問い続ける母親は、啓発DVDに出演し、アルハラ防止を呼び掛けている。 (山本真嗣)

 目の前には四つのグラスと焼酎の瓶。上級生三人の前で男性はつがれた焼酎をストレートで飲み、グラス全てを空けた。近くの段ボール箱に吐いた後、再び上級生が注ぎ、それを飲む。十五分で七百二十ミリリットルを、ほぼ一人で飲み干した。

 二〇一二年三月、千葉県内の民間の宿泊施設で開かれた大学のテニスサークルの春合宿の打ち上げ。母親は部員たちから聞いた酒宴の異様さに耳を疑っ た。部員ら約八十人が参加し、男子全員でカップ酒(百八十ミリリットル)をいっき飲み。その後はワインや焼酎などが続いた。男性は翌朝、布団の中で吐いた ものを喉に詰まらせた状態で見つかった。病院に運ばれたが、死亡が確認された。窒息死だった。

 夫と病院に駆け付けると、変わり果てた長男の姿があった。着ていたシャツやスエットは吐しゃ物や排せつ物にまみれていた。「こんなになるまで…。一体、何があったのか」

 事実解明を求める両親に対し、大学が四月にまとめた報告書では、打ち上げ当日の事実関係の記述はA4判の二ページだけ。集団心理やゲーム感覚、 「誤った伝統」による過度な飲酒は認める一方、「飲酒の強要は認められない」とした。やり場のない怒りと悲しみ。「息子は勝手に飲んで、勝手に死んだの か。そんなはずはない」

 何人もの部員に話を聞くうち、焼酎をついだ先輩の一人が言った。「飲まなきゃいけない、つがなきゃいけない雰囲気だった。皆そうしてきた」。長男は何度も吐く姿を目撃された。その異常さに誰も気付かなかったのか。もっと早く救急車を呼んでくれれば…。

 母親は長男の死後、長男が生前に使っていた部屋で寝ている。あおむけになると、はにかんだ笑顔の遺影が目に入る。「おはよう」「おやすみ」。毎日、話し掛けている。

 事故後、サークルは解散した。だが、他の大学で同様の死亡事故が続くと、胸が張り裂けそうになる。「息子は命を懸け、アルハラの“伝統”を止めた。こんな悲しい思いをするのは終わりにしてほしい」

      ◇

 飲酒事故 で子を亡くした親らでつくる「イッキ飲み防止連絡協議会」(東京)によると、死者が出る飲み会には、上下関係など断れない場の空気がある▽濃い酒を速く飲ませる▽酔いつぶれた人を放置する-との共通点がある。

 同協議会は今春、これらを学生向けに解説した啓発用DVD(税抜き二万円)を制作。この母親も出演し、責任ある行動を呼び掛けている。学生らが 「怖い」と感じた飲み会のエピソードや事例も募り、ホームページで掲載する予定だ。問い合わせは事務局=電03(3249)2551=へ。

◆「飲酒自粛」要請する大学も

 NPO法人「アルコール薬物問題全国市民協会」の集計では、この五年で少なくとも十六人の学生ら十~二十代の若者が、急性アルコール中毒などで亡くなっており、各地で対策が進んでいる。

 名古屋商科大(愛知県日進市)は全てのクラブやサークルに、飲み会に未成年が含まれる場合の対策を提出させている。飲酒するグループと完全分離す る「分酒」や、アルコールを一切出さないクラブも。筑波大(茨城県つくば市)は、各クラブに新入生歓迎コンパでは成人も含めてアルコールを自粛するよう要 請。昨年七月に死亡事故のあった北海道大では、北大病院に急性アルコール中毒で学生が搬送された場合は大学に通報、退院後に個別指導している。

 同協会が昨年七月、七百四十八大学に実施したアンケート(回収率43%)では、学内での飲酒を全期間禁止したのは56%、学園祭だけ禁止が11%あった。