年末に大掃除は当たり前ですが、インターネットの大掃除も必要ですね。


昔、『ななくさ Wine Club 』というホームページをやっていたのですが、そこを久しぶりにのぞいてみたら、かつて書いていたワイン関係のエッセイがまだありました。


それを自分で読み直してみて、「おや、こんなこと書いていたのか。」「こんなこと考えていたのか。」という新鮮な感動がありました。


自分の書いたものに自分で感動するなんておかしい話ですが、まあ今よりはもっとワインについても真摯に向き合っていたような気がします。


ということで、かつてのエッセイを今日は一部載せてみます。(ブログネタがないときは、しばらくはこのパターンで行くかも。。。。(笑))


2002年10月。

指揮者の小澤征爾さんのウィーン国立歌劇場音楽監督就任にあたってのものです。



『ななくさ Wine Club』から↓




2002年10月6日

      がんばれ、オザワ!


 久しぶりに、小澤征爾の振るマーラーの第9番を見ながらこれを書いている。

彼が長年にわたり主席指揮者・音楽監督を務めてきたボストン交響楽団を離れ、今秋からウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任するにあたり、ボストンの市民へのお別れを告げるラストコンサートのビデオである。


4月20日に行われたコンサートのステージに立つ彼を、聴衆はスタンディング・オーベーションで迎えた。

指揮台の手すりに手を添えて聴衆の拍手に応える彼の風貌は、その髪型のせいもあって最近ますます獅子のごとくである。

拍手が終わり指揮台に立った小澤は、しばらく目を閉じて精神を集中させる。

そして、これから作り上げる別れの音楽への研ぎ澄まされた鋭い光と、どこか優しげな落日の陽光の宿る眼差しでオーケストラを見つめつつ、指揮棒を持たない右手を振り下ろす。


マーラーの白鳥の歌とも言うべき第9の第一楽章の弦のピッチカートが流れ出す。

同じマーラーでも、ユダヤ的な色彩の希薄な、野卑なところのない清潔な旋律が流れて行く。

これは、小澤の才能を認めて世に送り出してくれた故バーンスタインがベルリンを振った「泣き・うめきの第9」の対極にある演奏と言っていいだろう。


同じメルロのワインでも、サン=テミリオンとカリフォルニアでは明らかに個性が異なるのと同じである。

オーケストラがテロワールだとすれば、さしずめ指揮者は醸造家と言えようか。

毒を抜かれたマーラーへの好みは分かれそうである。(つづく)