キスマーク Myself 

 朝5時半まえだったろうか、電話がけたたましく鳴る。

 ・布団を跳ね起き、来るべきものが来たと思って電話に出る。

 ・やはり病院の看護師からだ。

 ・容態が急変して、今心臓マッサージをしているという。

 ・「気をつけておいでください」との言葉を受ける。



 ・即、かみさんを起こし、顔を洗ってから車で病院へ。

 ・頼むから、助かってくれ、と祈りつつ病院に着く。

 ・病室の向かい側の集中治療室に母のベッドがあり、小さな人形みたいになった母の体を先生が心臓マッサージをしている。

 ・「12022277、66・・・」モニターには心拍数が激しく上下しながら点滅する。

 ・酸素マスクをした母の体はぴくりとも動かない。



 ・看護師の話を聞く。

 ・「5時頃に酸素の吸入が悪くなって、心拍数が落ち、一度停止しました。すぐに心臓マッサージをして回復しましたが、その際、肋骨が折れたかもしれません。すみません」とのこと。



 ・相変わらず心拍数は上下している。

 ・呼吸はしているものの、全然意識も戻らず、きびしい状態が続く。


 ・再び、心臓が停止。

  ・AEDで電気ショックを与える。

 ・母の体が飛び跳ねる。

 ・注射を数本打ち、心臓マッサージを先生と看護師が交互に続けている。



 ・先生の話を聞く。

 ・「自発呼吸が難しいし、たとえ回復しても重い障害が残ります。なかなか難しいと思ってください」と。

 ・「それは危篤ってことですか」

 ・「そうです」


 ・しばらくして、かみさんがやってきた。

 ・「ばあちゃん!ばあちゃん!しっかりして!」と叫ぶが、反応は返ってこない。



 ・胸部のレントゲンを撮影。

 ・すぐに出来上がった写真を見ると、肺にタンがくっついていて、それが呼吸不全を引き起こしたのだろうという。

 ・心臓マッサージを続けてはいるけれど、だんだん波形が小さくなってきた。

 ・「一応、数字は出ますが、これはマッサージをしているからで。心臓が自発的に動いているわけではありません。すみませんが、これ以上続けても、難しいと思います」



 ・「ばあちゃん!もう一度帰ってこんね。そっちに行ってはいかんが!

みんなに別れを告げてないがね!帰ってこんね!」と涙声で叫ぶが、母の体はピクリともしない。

 ・「おかあさん!おかあさん!」とかみさんも涙声で叫び続ける。。。。



 ・しかし、もうこれ以上無理だというのはわかる。

 ・「確かめさせてもらいます」と言って、先生が母の心臓、呼吸、瞳孔を確認。

 ・「6時47分、ご逝去されました」と。



 ・しばらく経って叔父夫婦、いとこ夫婦が駆けつけてきた。

 ・「なんでまた・・・・・」

 ・あとは声にならない。



 ・看護師に促され、葬儀屋に電話。

 ・母が積み立てていた葬儀屋さんに引き受けてもらうことになる。

 ・8時30分に遺体を引き取りに来るという。

 ・それまでに看護師の方が遺体を清めるという。



 ・しばらく別室で待ってから集中治療室に戻り、大方きれいになった母の遺体を最期に拭いてやる。

 ・「ごめんね、ごめんね」と後から後から涙が出てくるのを抑えられない。

 ・冬になると肌が弱って、うっ血の症状があちこちに出ている腕をさすり、まだほの温かい顔から頭を撫でるように拭く。

 ・もう帰ってこない、もう話してくれない、もう苦しい息さえ立ててくれない、昨日の夕方起こしてみればよかった・・・と後悔ばかりが心を駆け抜けていく。

 ・「ごめんね、ありがとうね、痛かったね、でも、よくがんばったね」と声をかける。