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安田和夫は思うように眠れなかった。
初めてサイパンを訪れた5月のような高揚感はなかったが、
この部屋の真上にいる石田陽子のことを考えると、
心と体が火照って、エアコンの設定温度を下げてみても、
とても寝付けるものではなかった。
思い出すように、安田は心の中で呟いた。
俺のマイアミ・ビーチ到着に間に合わせるように、
急いで書き上げた手紙を封筒に包み、
ドアの下から差し込んだ陽子は本当にベッドで眠っているのだろうか。
音楽を聴きながら、本を読んでいるのかもしれない。
仕事が遅番だったようで、疲れた身と心を癒すため、
長めに風呂に浸かっているのかもしれなかった。
真夜中に部屋を訪ねるのは非常識だ。
彼女が若い独身女性で、二人が恋人同士という規定事実もない。
手紙を受け取るまでの2ヶ月間近くほとんど忘れかけていた、
頭の片隅の存在だった陽子に会うことが最大の目的としてサイパンに来てみると。
考えれば考えるほど、イメージ膨らむばかりで、
1週間のサイパンでの予定がまったくの白紙であることに安田は気付いていなかった。
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ブログ連載小説・幸田回生
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