友人との新年会。

2軒目に向かうため、品川から五反田まで歩く。

高級住宅街の夜は静かで寒い。

だが、駅が近くなると一気に明るく活気づいてきた。

歓楽街である。

 

呼び込みも激しい。

「アソビ どうですか」

などと客引きが声をかけてくる。

それはそうであろう。

男二人で歓楽街を歩いているのだから。

 

呼び込みを断りつつ、歓楽街が終わるころ。

おそらく最後の呼び込みが声をかけてきた。

 

「さ。そろそろおっぱいの時間。いかがですか」

 

直球である。

アソビ、という抽象化した言葉が、一気に具体化された。

目的地が無いと引き込まれてしまうのではないか。

 

村上春樹のエッセイで、ホームレスにお金を渡すシーンがある。

ハンバーガーショップで、料理の匂いが漂う場所で、ホームレスに

「ハンバーガーを食べたいので1ドル欲しい」

と言われ、つい渡してしまう。

これも具体化の力なのだろう。

 

呼び込みを手で断り、辿り着いた居酒屋では、客引きの話になった。

 

友人は、この歓楽街を頻繁に通るらしい。

たまに個性的な客引きがいるそうである。

 

印象に残っているのは

「お遊び」いかがですか?

だそうだ。

この「お」が付くことでチャラさが醸し出され、その気になってしまうのだろうか。

 

とはいえ、既に高齢の二人。

2軒目を出て、客引きをすり抜け、早々に帰路につくのだ。