そうだ…僕は、君のために弾こう。
届くかな…届くといいな。
ベートーベン
ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」
この曲は紛れもなく彼女のもの。
彼女は奏でる、力強く、美しく、艶やかに。
天使のように愛らしく、そして女神のように凛々しく。自分らしく、あるがままに、威風堂々と。
まるで映画のワンシーンのようだった。
僕は友人A役だったけど…
少年は知っている、自分は物語の主人公にはなれないことを。またそれに見合うだけの輝きを持たないことを。その事を言い聞かせるかのような、諦めにも似た感傷的な言葉が響く。
少年はモノトーンの世界にいる。譜面のように、銀盤のように、白と黒の静寂の世界で時が止まる。
サン・サーンス
序章とロンド・カプリチオーソ
私の伴奏者に任命します!
少女はいざなう。カラフルな音の世界に。
少女は奏でる、全身全霊で。
なぜそこまでして弾くのか、何が少女を奮い立たせているのか。
届くように、忘れられないように、聴いている人の心にずっと住めるように。
生きてきた証を遺せるように。
少女の旋律に少年の伴奏が重なっていく。
君の音が聴こえる
僕がいて…きみがいる
世界は鮮やかに彩られる
バッハ平均律曲集
ブレリュードとフーガ
君は誰だい、本当の君はどこにいるんだい?
少年は自問自答する。母親に捨てられた黒猫が問いかける。
君は、どうせ君だよ。
そんなとき、少女の言葉に少年は救われる。どこまでいっても自分は自分でしかない、ありったけの自分で真摯に弾けばいい。
怯むな、恐れるな、立ち止まるな、進め!その先へ…光の射す方へ!!
ケッヘル番号265
モーツァルト「きらきら星変奏曲」
少年は暗い海の底でひとりぼっちになる。
水面は激しく揺れる、焦燥する、混乱する、メトロノームが止まる。
その瞬間、照明のライトが降り注ぐ、まるで星が瞬くように。
星は君の頭上に輝くよ。
ショパン・エチュードOp.25-11
Winter Wind (木枯らし)
音楽は自由だ。
苦しみのなかで見いだした答え。その圧倒的なまでの感性と直線的な感情は、聴くものを引きつける。音が変わる、音が煌めきだす、音が色づき始める。
あの日の少年が重なる。
風が吹きすさぶ、落ち葉が舞う。音色が、世界が染まっていく。
クライスラー「愛の悲しみ」
ラフマニノフ ピアノ編曲「愛の喜び」
僕はピアノを弾いてもいいのかな?
少年は呪われた過去と対峙する。突きつけた言葉は後悔と自責の念に苛まれ、少年を闇に落とす。音が聴こえないのは罰、僕が背負うべく罪。そう思っていた。
暗い海の底でも光は射す。
『音が聴こえなくなる』…それは贈りものだよ。
それは大切な人を抱き締めるように…優しく。
そうイメージした通りに指と足が自然と動く、イメージが音を創造する。
人の心が震えるように、波打つように、沸き立つように、触れあうように。
音は響く、どこまでも。
そして…音は届く、どこまでも。

P.S. *hana* さんへ
グランドピアノの購入を検討されていましたが、その後どうでしょうか?
それにしても三浦大知さんの「Knock Knock Knock Piano ver」は最高ですね♩
海の上のピアニストより