知念実希人先生による、本格ミステリの粋を凝縮した一冊『硝子の塔の殺人』。 
今回は、その圧倒的なリーダビリティと仕掛けに満ちた物語をご紹介します。

作品紹介

  • 著者: 知念実希人

  • 初版発行: 2025年10月3日(実業之日本社文庫版)

  • 装丁: 川谷康久(川谷デザイン)

  • 装画: 青依 青


舞台は、雪深い山奥にそびえ立つ、地上11階・地下1階の巨大な「硝子館」。
ミステリを愛する大富豪・神津島太郎によって建てられたこの奇妙な館に、癖の強いゲストたちが招かれることから物語は動き出します。

犯人が主人公、という異色の幕開け

物語の冒頭、読者は驚かされることになります。
なんと、主人公である医師・一条遊馬が、ある目的のために館の主人を殺害する計画を実行に移すのです。

「犯人の視点」で進む倒叙ミステリかと思いきや、事態は思わぬ方向へ。一条が計画した殺人とは別に、館内で「第二の殺人」が発生してしまいます。

殺人者でありながら、別の殺人鬼を探し、自らの罪をなすりつけようと画策する一条。この二重構造の緊張感が、ページをめくる手を止めさせません。

ミステリマニアを熱くさせる「館」の住人たち

館に集められたのは、刑事、料理人、医師、メイド、霊能力者、小説家、編集者、執事、そして名探偵。
驚くべきは、彼らの多くが「重度のミステリマニア」であるという点です。

作中には実在する名作や作家の名が次々と登場し、ミステリの定石を逆手に取った議論が繰り広げられます。本格ミステリへの深い敬意と愛が随所に散りばめられており、ファンにはたまらない演出が続きます。

異色の名探偵・碧月夜(あおい つきよ)

この物語の鍵を握るのが、自称名探偵の碧月夜です。
スーツを纏った美しい容姿とは裏腹に、口を開けばミステリ談義が止まらず、捜査を停滞させては周囲を困惑させます。

しかし、そんな彼女が時折見せる「か弱さ」や、難題に直面した際の苦悩。そこにつけ込もうとする一条の視点も含め、二人の奇妙な関係性も本作の大きな魅力となっています。

すべてが伏線、そして清々しい結末へ

物語の後半、館の主人が隠していた裏の顔や、過去の因縁が次々と明らかになっていきます。
散りばめられたすべてのピースが、クライマックスに向けて一つに収束していく様は見事の一言です。

自らの罪を詭弁で逃れようともがいた主人公が、最後に行き着く真実。そして迎えるエンディングは、血塗られた事件の連続だったとは思えないほど、どこか清々しさを感じさせるものでした。

まとめ

クローズドサークルという王道の舞台を使いながら、主人公が犯人という変化球、さらにはそれを上回る「超・変化球」が待ち構えている至高のミステリーです。解き明かされたトリック。明かされる殺人犯。主人公は犯人として捕まります。しかしそれで話は終わらない。待ち受ける謎。更に増える疑問点。主人公は真相にたどり着き、真犯人と対決する。連続殺人事件に隠された本当の真実。それは、私の想像を超える結末でした。謎を謎のまま終わらせない最後も良かったと思います。

緻密に計算されたトリックと、キャラクターの魅力。知念実希人先生が描く、新たな本格ミステリの金字塔をぜひ体験してみてください。

呪術ミステリーというジャンルだそうで、タイトルに惹かれて買ったものの、ずっと未読でした。2025年ついに読破したので、感想書きます。

ウインクチューニヤリ書籍データ

著者:川瀬七緒(かわせ ななお)

装丁:多田和博

カバー写真:amana images

初版:2011/8/8

発行所:講談社

331ページ

第57回江戸川乱歩賞受賞作

 

びっくりおねがいえーあらすじ

文化人類学者、中澤大輔を訪ねてきた一人の美少女。祖父が何者かに惨殺された事を告げる。そして鞄から取り出されたのは一枚の「呪術符」。滲み出す強烈な憎悪、そして執念。しかし中澤は本物であるがゆえの違和感を感じ取った。

真由は温厚で優しかった祖父がなぜ呪われ、そして殺されたのかを知るために中澤に協力を仰いだ。すぐさま祖父の家へ向かい、小さな違和感の正体を探り始めた中澤。犯人は誰か、そして呪術を利用しておきながら禁忌を犯してまで手を汚した目的とは何か。

過去の歴史を手繰り寄せ、日本の悪しき因習と現代に潜む呪術の闇に迫る重量級サスペンス。

 

口笛ガーンてへぺろ感想

冒頭から呪術について深く説明が入るので、呪いの藁人形くらいしか知らない私でもすんなりその奇行を受け入れる事ができた。文章からその匂いや質感、空気感までもがイメージできて「怖っ!」て思った。登場人物も個性があり、眼光鋭い警部補や、見た目が達磨大師の占い師、鳥博士のホームレス他、インパクトの強いキャラが魅力的。探偵でもない人に数日でここまで解決されているのが警察の不甲斐なさ? 上からの圧力? 隠し通しきれない甘さ? を感じる。

あと対決シーンはなぜそこまで考えてたのに窮地になった? 何故死なないの? という印象。でも文句を言いたいわけじゃないので最後はいい具合にまとまったんだろうと頭を切り替えた。

 

江戸川乱歩賞受賞作ということで巻末に五人の審査員の選評が載っている。言われてみればそうだよねと納得。小説家の道は大変だなって思うし、全員の期待値が高いからこその受賞ということで私も川瀬七緒さんの新作に期待しちゃいます。

 

過去の受賞作品名が一覧で載っていたが、全て読んだ事がない。つまり今回が私にとっての初、江戸川乱歩受賞作との出会いである。ミステリー好きとか言っておいてなんですが、それでもミステリー作品読むのは好きなのです。ホントに。

初版 :2014年12月1日

著者 :黒野伸一(くろのしんいち)

発行所:小学館

装画 :石居麻耶

装丁 :山田満明

 

爆  笑ニヤリウインクあらすじ

東京生まれ、東京育ちの多岐川優(たきがわゆう)が幼少期に数回しか訪れていない祖父の家にやってきたのは、思いつきだった。祖父が去年他界して空き家になっていた事と、会社を辞めて事業を興す前にリフレッシュしようと東京を離れたかった事が重なっての衝動だった。

場所は山間部。田畑はあるが耕作放棄地が多く空き家だらけ。若者は少なく、仕事はほとんどない。役場からは移転を勧誘され、郵便局は撤退、バスの運行も廃止された取り残された村。限界集落だった。

そんな村に住む少年の願いを受け、村民全員で組織化を図り、減農薬野菜の販売を開始。その事が原因で役場と対決したり、人間関係のトラブルがきっかけで、マスコミに叩かれ世間から罵声を浴びながらも粉骨砕身する村の運命を描いた前作から4年。

 

今度は同じ地区の麓にある街のシャッター商店街のお話です。

 

今回の主人公は都会に馴染めず逃げるようにやってきた青年、長谷川健太(はせがわけんた)。駅前商店街にあるコトカフェで働きながら、毎日酒臭い老人やら託児所のように預けられた幼児の相手をするようになっていた。当初、仕事以外の事をさせられるのは勘弁と思っていた健太だったが、働いているうちに都会では味わえないやりがいを感じていた。

多岐川優が立ち上げた止村株式会社で生産された減農薬野菜はTODOMEブランドとして有名になっていた。さらに野菜のマスコットキャラとして制作された「ベジタ坊」が秋葉原で人気になり、その中でも規格外野菜を表現した「野菜のくず」は海外でも人気になっていて、そこに目をつけた多岐川優の親友佐藤が街の郊外に大型ショッピングモール「TODOME・マライアモール」を誘致した。そのおかけでシャッター商店街にもちらほら観光客が流れてきていた。

街が勧める農業研修制度は、農業以外の移住も歓迎しており、空きテナントに独特の店を構えるオーナーもちらほら増えてきていた。

そこに持ち上がった、第二のショッピングモール計画。商店街を含む駅前周辺を巨大なコンパクトシティーにするという壮大な青写真が画策されていた。

街はその再開発計画を推進する側についた。商店街の住民も賛成意見が多い。しかしその裏に隠されている利権やマネーゲームを危惧した健太たちは、右往左往しながら巨大な権力に立ち向かっていくエンターテインメント。

 

笑い泣き照れニヤリ感想

健太の他にも同年代で想いを寄せる女性、つぐみや止村を復興させた多岐川優、妻になった美穂、美穂の父親で営業統括責任者の大内正登(おおうちまさと)の視点で描かれ、現在進行形で進んでいる日本の地方問題を凝縮した作品だと思います。

 

昨今は令和の米騒動が話題ですが少子高齢化や、地方の人口減少、後継者不足という問題にもスポットを当て、箱物は成功しないという権力の闇、そしてアイデア次第でシャッター街は生き返るという道標にもなるんじゃないかと思う一冊です。

 

キャラクターそれぞれの癖が強く、それでいて実際にいそうな人物像で、その人たちの掛け合いも面白かったです。爺さん、婆さんが強力!

前作を読んでいない人は、読まれてからこの本を読むと、もっと各キャラクターの内面を知る事ができますよ。