冷たい大理石の床が男の顔にぶつかった。


 もちろんそんなことがあるはずはなく、男床にぶつかったのだが、


 男は自分がぶつかったとは思いたくなかった。


 方向感覚を失うほど転げ落ち、目が回っていたからだ。




「い゛でぇ・・・」




 痛さや冷たさを感じる感覚はあるが、しばらく平衡感覚は戻らず、立てそうになかった。


 しかし、どうやらここが普通でないらしいことは感じていた。


 ゆらゆらと揺れている光はろうそくの光。床は大理石なのに土の匂い、そして血の匂い、なによりお香の匂いが充満しているのが感じる。


 目の奥から頭にかけて痛いほどボーっとしていたが、脳を振るいたたせなければなかなかった。


 





 今日はいつにも増してお腹がすいていたのだ。


 この男、ジョセフ・コールは無職のため無一文に近かった。


 毎日盗みを繰り返して生きてきた。そういう生きかたしか出来なかったし、別の生きかたを考えようとしたことはなかった。


 今日もまた適当に店から拝借してお腹を満たそうとしていたのだが、運悪く街の警備隊に見つかり失敗したどころか、しばらく追われていたのだ。


 街の近くにある森に逃げ込み、食べ物と逃げ道を探していたのだが、雨に降られ大木の下で雨宿りをするはめになった。


 その大木に座ろうと腰をおろした場所が悪かった、


 巨大なうろがあり、そこに落ちたのだった。







 ジョセフは空腹だったことを思い出したが、それどころではなかった。


 立ち上がれないジョセフがはりついている大理石が輝いているのだ。


 血によって描かれた魔法陣の内側がまがまがしい光であふれ出した。




-これはまた、汚れた魂だな…




 ジョセフは立ち上がろうと手足を動かそうとするが、落ちたせいなのか、それとも何者かの力なのかまったく動くことができなかった。





-だが、まだ若い…使えそうだな…




 地を這う声は光と共に地面からあふれ出している。



-さぁ、契約をして私をここから開放せよ!



「その男の魂を差し上げます、どうぞ私たちに力を!!」



 魔方陣を囲んでいる集団が叫んだ、





-うるさい!私と契約できるのはこの男だけだ!!





 声が怒鳴ると集団が吹き飛んだ。





-人間よ、私は魂や命をとったりはしない。ただ、試すだけだ。


 条件を出すだけだ、その条件を満たす時だけお前に力が与えられる。


 ただし、条件が難しいほど大きな力が、条件が甘いと弱い力しか与えられない。


 そして、私はお前の魂に寄生することによってここから開放される。




 どんな力か分からないが、その力があれば今のような生活から抜け出せるかもしれない。


 ジョセフはある条件を出して人間ではない物と契約を交わした。







<1話> -完-